たまぼこの道ゆく人の言づても絶えてほと降る五月雨の空(藤原定家)

和歌とは基本的に決められた形式に沿って詠む、そういう文芸である。言葉の修辞や景物の設定、本歌取りなどを組み合わせて、その時々に相応しい歌を作るのだ。結果生まれるものは没個性の権化というもので、近現代人にはもはや退屈になってしまった。ただその約束を離れ、歌の秩序を乱された時代が和歌史には二度ある、ひとつが新古今でもうひとつが玉葉・風雅時代だ。今日の歌はその先駆者定家により、歌に「五月雨の空」と「途絶えた旅人の伝言」が取り合わされている。実のところこのような歌は伝統的文脈からすると気持ち悪さが先に立つ、それはかつて出会ったことのない情景(存在)への恐れだ。解釈が進んだ今では定家一流の歌物語とでも解せようが、当時の旧歌人からしたらマグリットらのシュルレアリスムの作品に触れた心地がしただろう。

(日めくりめく一首)

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