あはれにもみさおに燃ゆる蛍かな声たてつべきこの世と思ふに(源俊頼)

「伝統」とは便利な言葉である、これを枕にすればあれよと「箔」がつく。ましてこれ(伝統)を墨守するのが使命! なんて言おうものなら、無条件で立派なことをしているように思われる。大間違いだ。今に残る伝統は決してねんごろに守られたからあるのではない、時代時代に受け入れられる「新しさ」があったのだ。今や灯火を絶えつつある和歌だってその昔は常に最新の文芸であった、昨日より新しいことを目指して歌人たちは研鑽を繰り広げたのだ。

「いかにしてかは、末の世の人の、めづらしき様にもとりなすべき」(俊頼髄脳)。今日の歌人は源俊頼、歌の革新に腐心したその最たる人である。「水棹」に「操」に掛けるのはもちろん、「川舟の棹にまとわりつく蛍」という誰も見たことがない情景を描いてみせた。
ちなみに「操」は「貞操」ではなく「平然」といった意味、よって解釈は「ああ、蛍が静かに燃えている。声を上げて泣くようなこの世であるのに」となり、世の中に問題提起をせずにいられなかった、源俊頼という人間が見事に示されている。

(日めくりめく一首)

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