ML玉葉集 春部(弥生)


短歌ではなく、伝統的な「和歌」を詠むことを目指す和歌所の歌会、
そのご参加者様の詠歌をご披露させていただきます。
※2018年3月はおよそ210首の歌が詠まれました

ご参加者様のほとんどが、和歌所の歌会で初めて歌詠みとなられています。
それでも素晴らしい歌が詠めるのは、無意識にも私たち日本人に「日本美のあるべき姿」が宿っているからです。
歴史に培われた日本文化とは本当に偉大です。

私たちと一緒に和歌の詠歌、贈答、唱和をしてみたい方、ぜひ歌会にご参加ください。
歌会・和歌教室

わたつ海の床で翁は夢を見る 天の酒注ぐ枡を枕に
あはれ知る をかしもありと 総角の 結びし縁を 長く願はむ
ひかる雨 見つめる瞳まぶしくて あなたとふたり背のびをしたの
野馬追ひの疾さにすすむ言の葉に 着けてゆかなとペダル立ち漕ぐ
西行も花のもとにてゆきまどふ 望月あらぬこの如月に
如月ぞ 月も宿れる しろたへの ゆきにまどふは 我が身なりけり
摩耶の山白き風花ふりぬれば げに幻の母となりぬる
盃を もちて寝ねたる 寿老人 今とこしえの 春とならまし
春星夜翁の衣染むるのは 振る桃の花か天の雫か
獺祭と読み違えたか雛祭 かすむ目こすり老いを悲しむ
摩耶の山白き風花ふりぬれば げに幻の母となりぬる
まぼろしの南極星を午の盃(ちよこ)
母に似てどこか抜けたる雛女官
南天を約め星ぼし額(ぬか)に輝る
獺思ふ祭る心やあるなれば 魚桃何も皆同じなり
雛にそへさきそむ桃をかざせして おもひいだすはまつり初めしを
久方の巴に流す春の光に 憩えし時と渡る盃
かぐはしきさきそむはなのおもかげを おぼゆるのみのなほゆかしとは
咲きそむる花を衣と重ねつつ かひなに眠るをさなき女雛
射干玉の闇に吹きしく春の風 去りがたし冬の声にも聞こゆ
硝子窓朝露にしとど濡れにけり 遥か南国の旅をおほひだしつ
春かぜの夜半ふく朝の白露は 遥か黒潮越へて来るらん
天の原杓で打つ環跳ね散らむ 地振るは桜か星の欠片か
嵐去り清き青陽そそげれど 手放せぬのはアルガードなり
天の雫ならで春雨降りしくば 眼も心も安らぐものを
はなのえんあるがあとにもただよへる ありかまみへぬすぎなりしこよ
眼はかゆみ喉鼻痛み苦しみて 薬飲めれば眠くなりける
影無きは妻こう雉子のほかもあり 人の心とすぎなりしこよ
天をつくその楼閣のそのもとに 花戀ふ春はえこそかはらじ
文を見ん何時ぞ何処と話せん 咲くも咲かぬも春は楽しき
花咲く春のすぎしまにまに み吉野へおもひはつのり初瀬川へ
春日野辺右左右左振るる影見ゆと 風の迷ひか田犬稗咲ふ
鶴岡の春は夢殿日向置く 葛の上辺に温む埴土
春黄土の香り仄かに草枕 覚め際朧浅き夢みし
若風や青柳靡く朝ぼらけ 春の留まりに梢鶯
若柳の枝も撓に多磨露の 川辺の影も 薄く明けし
荒しくも乱れ縒りたる春柳や 細き眉根の絲の詳しく
春面柳の緑も紅を挿す 杏の蕾も溢れぬばかり
迦羅桃の莟み空鳴る春の風 桟敷彼方の遠き鳥雲
山峡の冬間を割けて来る水の 春は盛かゆく心地こそすれ
春追いに根を硬めつつ下萌えの 美影る陰や嬉しからまし
音ぬるむ棘々し何とやら 夜毎呻くは春如何許り
滴るき春さえ晴れぬ深山辺の 初音も迷ふ影や弛しく
浅浅き三寒朝の道奥は 四温霰に春を知る哉
こそばゆひ風の探る夕梢 茜の萌ゑ実も春を綾なす
春もやや冬の返りに咲き惑ふ 散りぬとも美し転この頃
匂ひ初む春野埴槌はに時雨かな 紛ゆ土芳は雨の小暗に
春黴雨や末木に迷ふ水の多磨 上葉下葉に消へ還りみゆ
冬さらば大広ろ高く山霞み 色よ膨らむ春の溜め息
春日野辺右左右左振るる影見ゆば 風の迷ひ子田犬稗咲ふ
野邊に吹く如何なる色の風なれば 尋ねむほども紛らはしもな
春花の色も香りも盛りけり 今年の野辺の賑ははしきに
八十畝の磯も轟に宇多垣や 花の見頃は春の桟敷に
さささささ寿ぎ廻しや寿ぎ狂れ 常世に居ませ春の催花楽
催馬楽よ哥哥哥樂し衣更 春の眞金や豊の明かりそ
古の春の宴よ安名尊 憐れ春吉し日南み良しやと
見て来んややおけやおけや鶯の 青絲縒りて梅野花笠
神祷ぎや三椏咲つ祥あらば 豊寿酒よささ乾さずをせ
襲とる野原篠原花摺りよ しや公達やしや公達や
春麗ら上達部ともや肩脱ぎに 味気無きとも興せ古事
東雲に深山鶯神楽咲く 男踏歌よ太刀迎ふれば
旨しには吾妻遊びよ駿河舞 著しろく笑ひ踏歌名告りそ
律と呂の萩が花摺り哥哥ひ舞ふ 誰も誰しも心あくがる
候待たず御風を逐ひつ雨露の春 恩希はうら蜜に萌ゆ
北梅や封じて寒し氣凍も 東頭弥り枝先ず動く
悉く水面に綾なす千代の宇多 寒磬なんなん春の香美
百済野の南枝北枝の紅白や 開き落つるも今日知らず
向かゐなむ岸の新柳東西の 遊枝梳るは緩し和風
仙の源瑞は桃色桃李なり 花見て暮らす日一日の沢を
佐保にみる朝ゐる雲の失せ行けば 春の茜になりにけるかも
馥郁の春の初花忘るまじ いとも畏し鶯宿梅
寂しきは去りしを探る冬のきみ 奥日も染まぬみ花ゆかしき
麗かに里も華やぐ春大和 東櫻野西橘野
終日に草を枕に夢現つ 楽しき終へめ春の隨
伽羅をたき 尊き香り 手向ければ 師の面影に 弟子は涙す
花信風偲いを聞きし春薫 抱き吹き行け雲の上まで
偲び居て思いのたけの薫りゆく 蓮の畔の懐し影に
懐しき薫り優しく頬に寄す 向か居て涙拭わむとして
山風に乗りて掛からむ花衣 眠る桜に時を告げらむ
暖けにならば桜は花開き ましてや笑顔同じなりけり
種を蒔く人等を見守る辛夷花 秋の実りを共に祈りつ
いでみればやよいもちづきさやさやと あきらかなりけりはるのよさむし
さくはなのちりぬるものとしりぬれど さかねばたれぞはるをしるらん
文をみん何時ぞ何処ぞと話せん 咲くも咲かぬも春は楽しき
花はいつ花はどこかと問ふ子らも 春の心は楽しかるらむ
ひとのよはうつりゆくものとしりながら かがみにとひてしるひとやはある
団子でも喰いてかはらに寝もしなん こぞさくはなを夢にもとめん
うつらつらつらりつらりとおきもせず ねもせではるははらりはらりと
はなをまちくらすひおほくなりぬれど ならはぬものはおのがこころか
ぬばたまの闇に聴きしか花おつる 月なき夜の音ぞおどろく
おもふ夜におもふ昼をぞ継ぐ春は これをうつつを抜かすとは言ふ
一二三花も数うる寒戻り 次の春日ぞ時と知るらむ
こしときはいかにはるひやめでたからん ことづてせましそほふるあめに
何時となく風とひらける花を三津 春のこころは楽しからずや
夜もすがら凍つる雨中睦まじく 春を待つなり花も柳も
何せんに春よ朝来せ白々と 少し傾く朧月夜に
春黝み淡墨む月やらうらうじ 靄みを祓ふそそく風早や
嵐果つ観れど事無き宓闇に 春草だけの影や角ぐむ
春の夜の明来るく徴花影に 覆輪兆す暁の色
踏み行くは青葉香れり春野辺の 花木気配も今朝の愛しき
春鳥の聲は楽しき草野駆け 今日の朝の香りは蒼し
音も無く嵐の跡の閑ず朝の 転梢に春風よ吹く
嫋やかに千種に薫る草分けは 音も若めく茶屋辻の風
風に鳴る軽らかなるは古草よ 新は僅かに音やや重し
誘ふべき音は霞に消ゑ入りて 偲ぶ一音を奏でよらしも
縦ゑやし見まさぬ音の何せむに 霞そ処から音や色付く
青総の野辺に囀る春雀 雨露も具に踏みな散らしそ
覚束な春は紫霞なる いと妖しきは朝鳥の声
日和りぞと踞集りゐて尾を交へて 己が品々声音可笑しや
呼び交はす些小笹の遠近に 鶯丸唄ひ長閑春知る
珠草の籠りし美影や月と陽と 朝処ろに慰みを見ゆ
明け影の綾なす玉の瑠璃細工 悪戯に彫る細蟹の絲
瑞々し雨露の玉響初草に 心も揺らぐ薄き空色
朝露に如何にこの日を思ひつつ 消なば消ぬべく事よ早みむ
弥生咲く七年二葉の傾籠よ 見るに得がたし若野紫
東雲や朝青野に片葉鹿の子 尾振り説くやは教鳥かな
朝焼けや風は仄かに堅香子の 陰の竃に朝の火を焚く
春然れば花も咲く咲く鳥も鳴く 蟲も蠢めき草葉も青し
人すべて取り繕ふはこと笑し 野の蟲ともの愛し美し
なべて心ならぬは優れたり やむごとなきき蟲愛づる姫
真の音尋ねる先の野辺にこそ 鳥か蟲かも風やも知れぬ
烏毛虫を手の平に置きまぼりしは 仏の座よりさ翅や茶宇縞
若葉にて照るに平ぶは春蝶よ 草の襖を着する春風
一花の日向ぼこりに翅を開き 精げ澄ませし曙の草
孫生ゆの角から角へうち羽振く ひらり鳳てふ春のかたまけ
契りあらばよき極楽にゆきあはむまつはれ にくし虫のすがたは福地の園に
上積みの濁りし塵に陽は当たり 底を照らすは春の夜の月
聲せらばむくつけげなる烏毛虫の 故の末こそ綾蝶もの
未だ浅く重ねて来たる春為れど 見ゆべき音の音姿さに
移りゆく春の曙見渡せば 空の紫雲も桜色付く
いざ春野温し寒しも賑やかに 音を変えつつ色を変えつつ
行きやらに今一声を待つ春の 少し蒼しく少し清しき
青み飲む朝の福茶を頂きつ今日暖かになりにけるかも
霞明く音も動かぬ長閑さに 空はこれより蒼し春にて
梓弓推して朝風陽を放つ 春の五色達つよ曙
いや高く昼に漂ふ白月に 陽暈彩ふし空や稀なる
鳴き散らす河津桜も鶯も 嵐や招く春は来たれり
春嵐よ終に混じて山の端の 櫻開くか見れども飽かぬ
幣辛夷香り仄かに雪ノ下 咲散る頃か春も色々
早行の春の容か桜桜 語らはずとも心は和ぬ
朝海の千沙の若音よ楚々と聴く 今由比ヶ浜快き春
暮れ果つる春の降り敷く花もとに 今更々に時と縁り来ね
金澤や八津の島々とりよろふ 里煙達ち沖津鳥鳴く
夕映えに照らせば輝る八景島 帳掛け折り今日よ暮れ行く
六浦や豊旗の雲入り日挿し 八潮も染めぬうまし里にて
恵乃島や沖津海女舟見ゆるかと 映るは空の春の薄雲
稲村や磐の苔鬚濤荒ふ 雀色時春や黄昏
浦春の潮も長閑茅ヶ崎よ 鳥は雲入り若しの夕陽りに
向島春の息吹きの蒼月よ 逸り見やゆに家路忘れる
今日余り風に還ぜば黄昏は 明日に花咲く桜色かも
天登る龍や眠りが覚めやらず 稲村沖に風の花舞う
風に乗り天つそらにも届けんと 明日より先の花の白雪
まどろみに花風たちて残れるは 寝覚めの袖に消えし白雪
冬来なば遠からじとはいにしへの 言の葉そよと吹くあたたかさ
肌に寄す風の激しき春の日に 嚏とも集ひし雪の鎌倉
江之島に雪荒ぶ中を来てみれば 萬疋織る白の階
今日とてや言ひ継が行かむ春雪に 白妙揃ふ友の隨
白雪や色益春の八千種に 一朶戻す許色かも
日は雪く勢い任せに咲くらめど 明日には春も改たまりける
触れて知る残らぬ影に春をよむ とく散りぬとも清しかりけり
見上げれば 都会の空の さくら花 月も焦がれし ひとひらの舞
春なれば猩々どもの住み憑ける 上野おくやま世も尽きじとな
皆様が桜を詠めるのに、ひとりだけ逆らう春の歌
乙女子がひそかに手折る残り梅 髪かざしては名残惜しむも
猩々の宴誘わる花々も 舞ひを添えらむ月の御山よ
風吹かばほのかに薫る梅の花 髪にとどむる春の名残や
こころなる歌の種出ず時が来ば あさぎ枝垂れに花や咲くらむ
忘れおき古きあさぎ布繕えば しだれ桜に言の葉を見ゆ
都より思ひこしぢの駒が山 雪間に見ゆるまつの花笑み
越路未だ春待たるらん山に駒 探すらん雪けなばあはばや
春風に舞い散る桜はらはらと 花の下でも延喜楽舞う
ひさかたのむらにますます春のひに 雪とく山の駒のすがたや
雪解の水は洗ふや松の根に 駒とめてみん北の山並み
梓弓春よ真白の鞍掛ける 駒にぞ乗りて山を越えらむ
高架下に鬼張る宴花あるや すなはち入らん知己をばとはず
送別会下戸が酒飲み猩猩緋 足元よろよろよおよおろおと
青み飲む朝の福茶を頂きつ 今日暖かになりにけるかも
いさ春野温し寒しも賑やかに 音を変えつつ色を変えつつ
今日余り風に還せば黄昏の 明日に花咲く桜色かな
長雨を凌ぎて咲きしさくらはな いまこの春を咲くやこのはな
花の前に酔をすすめる春の風 今年のことを語る夜半かな
大島の櫻汝が咲く夜半に めぐりあはんや世をへだつとも
水かげに月をいざなふ花いかだ とぶらふひともなき川のへに
手折りけむ袖にとどめし梅が香を 髪にうつさむたまくらの宵
おもかげをもとめて花にとひたれば はや散りぬるとつれなし顔ぞ
まどろめばはや暮れ六つとうたつぐみ 寝覚めの庭に花風たちぬ
鎌倉も散りかふ花のさりあへず ふみゆく道に君まどひけむ
金鳳花さくらゑむまで待ち伏せて 散り敷くまえの逢ひをよろこぶ
銭の価値酔えばあやふや巷にも 花野はみえて鬼と遊ぼと
ひさかたの雪消(け)のこるや火打山 白一面にわたすげふくみ
疾(と)き春の影あはくして散りぬるは うすくれなゐに吹雪くなかぞら
ふるさとのときゆく春にうづめけり うすくれなゐにそめしこころを
あてやかにさゐさゐしくも花ちりて 珠の色香にかすむ空かな
鎌倉やなほ色浅き桜かな そなたの里は如何花咲く
寒さ知る雪の紛れに別れにし 君をば何時の春にまた見む
おなじうは散る果てを見む 深き夜ぞ 失するまで降るる春故にこそ
空に散りの白くきらひし百積に 春の影とも 密けさに消ゆ
小暗きも 花散る道を 踏み行かば 渓まに咲きつ 花を見ましや
桜咲く頃や何処の山見ても 何の木見ても桜咲くとは
塵となり色なき影も流れゆく 行方定めぬ桜月夜に
経てもなく緯も定めぬ花風に 頓みに縫ひたる絲やうらはら
咲き果ての背き様なる灰桜 あらぬ別れも春を知らねば
月かげのかさねも薄き退紅の 残る春夜のひとひ淡こと
十六夜に数多も落ちぬ春花よ 木末の影の色ぞ明けゆく
塩さして朝の福茶に福をます ほのに滲める春の明るみ
としごとにあわくおもゆるちるはなの かなしくもありさやけきもあり
白雪や色ます春の八千種に 一朶戻す許色かな
もえてなほさくらの枝に雪ぞまふ しのぶこころに春はすぎゆく
一所に遊ぶを知らぬ猿と亥や 千歳の宿を何処に占めんや

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