辞世の歌 その10「生くべくも思ほえぬかな別れにし人の心ぞ命なりける」(和泉式部)

和泉式部といえば恋多き、奔放な女性として知られています。時の権力者藤原道長からは「浮かれ女」と評され、同僚である紫式部には「和泉はけしからぬ方こそあれ」などと記される始末。それはやはり橘道貞の妻だったにもかかわらず、冷泉天皇の第三皇子である為尊親王そしてその同母弟の敦道親王との大恋愛が世の人々に強烈なインパクトを与えたのしょう。

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また一方で、和泉式部は敬虔な仏弟子でもありました。訪ねて会えなかった性空上人に自らの信心を示すために書き残したとされる一首はそれを象徴しています。

「くらきよりくらき道にぞ入りぬべきはるかに照らせ山の端の月」(和泉式部)

和泉式部の辞世の歌は、まさにその両面を強く感じさせてくれます。
詞書には「例ならぬ心地のみすれば、今日や我が世のとおぼゆる」と記され…

「生くべくも思ほえぬかな別れにし人の心ぞ命なりける」(和泉式部)

死と対峙してなお、心に浮かぶのは愛しき恋人。いや彼女にとって人生とは、無常の世を生きるとは、端的に愛しい人を思い続けることであったのです。

思えば百人一首に採られた歌も同様です。

「あらざらむこの世の外の思ひ出に今ひとたびの逢ふこともがな」(和泉式部)

和泉式部は確かに恋愛を重ねましたが、それは当時の男たちのように浮ついたものでは決してありませんでした。その一つひとつがまさに命がけで、浮世を生きるための「よすが」であったといえるでしょう。

中古で彼女ほどの実直な歌を詠んだ人は稀ですが、その詠みぶりは辞世の歌にしても変わりません。明け透けであり、だからこそ胸に真に迫ってきます。

(書き手:歌僧 内田圓学)

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