和歌の入門教室 特別編 「歌枕一覧マップ」

和歌で決まって詠まれる名所・旧跡を「歌枕」と言います。
歌枕の成立にはだいたい以下3つのパターンあります。

  • 掛詞からの連想
  • 場所ならではの特質
  • 場所が詠まれた歌の定番化

いづれにしても歌枕は古来から歌い継がれ、昔の歌人達と心を繋ぐ特別な場所なのです。

「逢坂の関」に「白河の関」、「吉野の山」に「小夜の中山」。和歌の歌枕の名は知っていても、実際の詠まれた場所までは分からないと思います。
そこで、作ってみました「歌枕一覧マップ」。代表的な歌枕の、地図上の場所と和歌をセットで知ることが出来ます。これであなたも気分は能因法師!
※「奥の細道」付き

「歌枕一覧マップ」掲載歌枕一覧

歌枕歌枕(よみがな)歌例
明石あかし「ほのぼのと明石の浦の朝霧に島かくれ行く舟をしそ思ふ」(よみ人しらず)
安積あさか「陸奥の安積の沼の花かつみかつ見る人に恋ひやわたらむ」(よみ人知らず)
飛鳥川あすかがわ「飛鳥川淵は瀬になる世なりとも思ひそめてむ人はわすれじ」(よみ人しらず)
逢坂あふさか「これやこの行くも帰るも別れては知るも知らぬも逢坂の関」(蝉丸)
天香具山あまのかぐやま「春すぎて夏来にけらし白妙の衣ほすてふ天の香具山」(持統天皇)
天橋立あまのはしだて「大江山いくのの道の遠ければまだふみもみず天の橋立」(小式部内侍)
有馬山ありまやま「有馬山いなの篠原風吹けばいでそよ人を忘れやはする」(大弐三位)
淡路島あわじしま「淡路島かよふ千鳥のなく声に幾夜ね覚ぬすまの関守」(源兼昌)
生駒山いこまやま「わがやどの梢の夏になるときは生駒の山ぞ見えずなりぬる」(能因)
生田いくた「君住まば訪はましものを津の国の生田の森の秋の初」(清胤僧都)
生野いくの「大江山いくのの道の遠ければまだふみもみず天の橋立」(小式部内侍)
伊勢いせ「伊勢の海に釣りする海女の浮けなれや心ひとつを定めかねつる」(よみ人しらず)
因幡いなば「たち別れいなばの山の峰に生ふるまつとし聞かば今帰り来む」(納言行平)
宇治うじ「さむしろに衣かたしき今宵もや我を待つらむ宇治の橋姫」(よみ人しらず)
大江山おほえやま「大江山いくのの道の遠ければまだふみもみず天の橋立」(小式部内侍)
小倉山おぐらやま「小倉山峰のもみぢばこころあらば今ひとたびのみゆきまたなん」(貞信公)
音羽山おとわやま「音羽山今朝越えくればほととぎす梢はるかに今ぞ鳴くなる」(紀友則)
春日かすが「春日野の若菜つみにや白妙の袖ふりはへて人のゆくらむ」(紀貫之)
賀茂かも「ちはやぶる賀茂のやしろのゆふだすきひと日も君をかけぬ日はなし」(よみ人しらず)
暗部山くらぶやま「我が恋にくらぶの山のさくら花まなくちるとも数はまさらじ」(坂上是則)
佐保山さほやま「佐保山のははそのもみぢ散りぬべみ夜さへ見よと照らす月影」(よみ人しらず)
小夜中山さよのなかやま「年たけてまた越ゆべしとおもひきや命なりけり小夜の中山」(西行)
塩釜浦しおがまのうら「さ夜更けてものぞ悲しき塩釜は百羽掻きする鴫の羽風に」(能因)
志賀しが「梓弓はるの山辺を越えくれば道もさりあへず花ぞ散りける」(紀貫之)
信夫しのぶ「陸奥のしのぶもぢずり誰ゆゑに乱れそめにしわれならなくに」(河原左大臣)
白河関しらかわのせき「都をばかすみとともにたちしかど秋風ぞふく白河の関」(能因法師)
末松山すえのまつやま「君をおきてあだし心をわが待たば末の松山波も超えなむ」(よみ人しらず)
鈴鹿山すずかやま「世にふればまたも越えけり鈴鹿山むかしの今になるにやあるらむ」(徽子女王)
須磨すま「わくらばに問う人あらば須磨の浦に藻塩たれつつわぶと答えよ」(在原行平)
住江すみのえ「住の江の岸による波よるさへや夢の通ひ路人目よくらむ」(藤原敏行)
住吉すみよし「久しくもなりにけるかな住の江の松は苦しきものにぞありける」(よみ人しらず)
高師の浜たかしのはま「音にきく高師の浜のあだ波はかけじや袖のぬれもこそすれ」(祐子内親王家紀伊)
高砂たかさご「誰をかも知る人にせむ高砂の松も昔の友ならなくに」(藤原興風)
田子浦たごのうら「田子の浦にうち出てみれば白妙のふじのたかねに雪はふりつつ」(山部赤人)
竜田川たつたがわ「ちはやふる神世もきかず竜田川唐紅に水くくるとは」(在原業平)
手向山たむけやま「このたびは幣もとりあへず手向山紅葉のにしき神のまにまに」(菅原道真)
筑波山つくばやま「よそにのみ思ひおこせし筑波嶺のみねの白雲けふ見つるかな」(能因)
長柄橋ながらのはし「あふ事を長柄の橋のながらへてこひ渡るまに年ぞへにける」(坂上是則)
名取川なとりがわ「陸奥にありと言ふなる名取川なき名とりてはくるしかりけり」(壬生忠岑)
難波潟なにはがた「心あらむ人に見せばや津の国の難波の浦の春の景色を」(能因)
初瀬はつせ「うかりける人を初瀬の山をろし風はげしかれとは祈らぬものを」(源俊頼)
深草ふかくさ「空蝉はからを見つつもなくさめつ深草の山煙たにたて」(僧都勝延)
富士ふじ「風になびく富士の煙の空に消えてゆくへもしらぬわが思ひかな」(西行)
伏見ふしみ「昔こそ何ともなしに恋しけれ伏見の里に今宵宿りて」(能因)
二見浦ふたみのうら「夕づく夜おぼつかなきを玉くしげふたみの浦は曙てこそ見め」(藤原兼輔)
松帆浦まつほのうら「こぬ人をまつほの浦の夕なぎにやくやもしほの身もこがれつつ」(安倍仲麿)
三笠山みかさやま「天の原ふりさけ見れば春日なる三笠の山に出でし月かも」(安倍仲麿)
瓶原みかのはら「瓶原わきてながるゝ泉河いつ見きとてか恋しかるらむ」(藤原兼輔)
三室山みむろやま「竜田川もみぢ葉流る神なびのみむろの山に時雨降るらし」(よみ人しらず)
宮城野みやぎの「宮城野を思ひ出でつつ移しける元荒の小萩花咲にけり」(能因)
三輪山みわやま「我が庵は三輪の山もと恋しくはとぶらひきませ杉たてる門」(よみ人しらず)
武蔵野むさしの「手に摘みていつしかも見む紫の根にかよひける野辺の若草」(源氏物語)
由良の門ゆらのと「由良の門を渡る舟人かぢをたえゆくへも知らぬ恋の道かな」(曽禰好忠)
吉野よしの「春霞たてるやいづこみ吉野の吉野の山に雪はふりつつ」(よみ人しらず)
小倉山をぐらやま「をぐら山峯たちならしなく鹿のへにけむ秋を知る人ぞなき」(紀貫之)
姨捨山をばすてやま「更級や姨捨山に旅寝してこよひの月を昔見しかな」(能因)

(書き手:歌僧 内田圓学)

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