七夕伝説とロマンチックな恋の歌

今日は七夕。皆様、願い事はしましたか?

古代より、七夕は日本人にとって大切な行事の1つ。

今回は、そんな七夕の歴史を振り返りながら、和歌におけるイメージの広がりを鑑賞していきましょう!

七夕の由来

七夕は日本古来の行事や中国の伝説、仏教の暦の影響が組み合わさって現在の形となっています。日本人の根底に流れているような行事、七夕の由来を改めて振り返ってみたいと思います。

元々は「棚機」と書く、奈良時代頃の日本で行われていた神事。漢字からもわかるように、乙女が神に手織の衣を捧げ、人々の平安や豊作を祈る御祓の行事でした。(雨乞いの神事という説もある)

そんな棚機津女(たなばたつめ)伝説が庶民の日常に根付いていたところへ仏教が伝来、盂蘭盆の行事に組み込まれました。その影響で、平安時代には夏から秋へ切り替える宮中行事として五節句の一に数えられるようになっています。

一方、実は中国でも、棚機津女とよく似た伝説が古代よりありました。(“棚機津女”は『詩経』が初出)

この時期に天の川を挟む2つの大きな星・ベガと牽牛星を離れ離れの恋人に見立てるという、あの織姫と彦星伝説です。古代中国では占星術が盛んでしたから、星にロマンを感じ、物語を生み出したのですね。この織姫に芸事の上達を祈願する乞巧奠(きっこうでん)という中国古来の行事が奈良時代の日本で受容され、以後、七夕は御祓、豊作祈願、季節の分岐点、悲恋物語、芸事といった複数のイメージをもつようになりました。

そのため、和歌での詠まれ方も色々と工夫されています。(やはり、織姫・彦星の恋愛模様がポピュラーではありますが)

歌人たちは七夕からどのようなインスピレーションを得ていったのでしょう。

まずはこの歌。

「鵲の渡せる橋におく霜の白きを見れば夜ぞふけにける」

(新古今和歌集 巻第十六 冬歌 中納言家持)

百人一首にも採られている代表的な七夕歌です。

注目は「鵲の橋」。冬、霜の積もった白い橋から「鵲(かささぎ)は1年間で7月7日だけ、群れをつくって織姫と彦星の逢瀬の架け橋となる」という中国の伝説を連想し、幻想的に仕上げています。

万葉集頃の歌ですが、実景と虚構を織り交ぜた美的な世界が新古今歌人の好みに合ったのでしょう。夜の闇にぽつねんと浮かぶ白い橋。逢瀬を待って静かに夜が更けていきます。ロマンチックさ、時間の流れ、色彩感覚が詰め込まれ、なんとも想像力がかき立てられます。

鵲の橋では、こちらの歌も有名です。

「天の川 あふぎの風に霧はれて 空すみわたるかささぎの橋」
(『拾遺和歌集』秋雑 1089 清原元輔)

晴れやかな空は無事会えた後でしょうか。「扇の風」が夏から秋へ移る季節をメタ的に表現しています。霧晴れた秋の空、今頃迷うことなく出会えているはず。

 

続いて、雨の七夕を連想させる歌を『基俊集』より。

一五〇 たなばたあかつきををしむ

七夕の雲の衣の袖ひちてをしむ 空なき朝ぼらけかな

「袖ひつ」=「泣く」。

逢えはしたけれど、雲が涙を流して暗い夜明けだわ。まるで私たちの逢瀬を長引かせるかのよう。

織姫の心情になって解釈したら、切ないですね…。

他にも素敵な歌はあるのですが、最後に織姫に寄せて切ない恋を歌い上げた歌を一首。

『六百番歌合』より
318 右「薫きもののにほひもかしつ七夕におもふおもひを空に知られて」(隆信)

 

とっても美しくてロマンチックな歌です。是非、自由に訳をつけてみてくださいね!

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ユリ
お花と香りもの、自然散策が好きです。 将来的には山の中で自給自足をしながら晴耕雨読の生活がしたいです。