/花見の前に知りたい! 風流人を気取れる「桜の褒め方、愛で方」

花見の前に知りたい! 風流人を気取れる「桜の褒め方、愛で方」


三月、「春分の日」にもなれば陽気も心地よく、いよいよ本格的な春を感じられるようになります。
ただ文字どおり春分は“春を分ける日”ですから、暦の上(二十四節気)では春はすでに後半に突入した事になります。

春の後半といえば、、、
そう、ついに「桜」のお目見えです。

桜花は勅撰和歌集の春の後半(春下)をほぼ独占し、それはそのまま日本を象徴する花となりました。
開花が迫れば「桜前線」の予報はお茶の間を賑やかし、咲いてみれば学校や並木道はもちろん近所の公園や路地までも、我も我もと誇ってみせる。古今東西、日本人が揺らぐことなく愛着を寄せてきたのがこの桜という花です。
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きっとみなさまも、毎年のお花見を楽しみにしておられることでしょう。

ところでこの桜、どのように褒めていますか?
先のように広く国民に愛され、日本の美意識が凝縮された花です、
まさか「わーキレイ!」の一言ですませていないですよね?

確かに、梅のような紅白色の美しさや芳香など、品種による特徴の違いを評価できる花と違い、
桜は「ソメイヨシノ」というクローン(単一起源種)に占領されているため、褒め方のバリエーションが乏しいかもしれません。

そこで!
今回は花見で使える、桜の抜群の褒め方、愛で方を5つ伝授しましょう♪
出典はもちろん、我らが古今和歌集です。

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まず大原則ですが、花の満開時は無言を貫いてください。
口を開いたところで、「わーキレイ!」しか出ないです。
風流人を気取るなら“散り始め”てからが勝負です。

それでは桜の愛で方その一、「哲学的に愛でる」です。

84「久方の ひかりのどけき 春の日に しづ心なく 花の散るらむ」(紀友則)
82「ことならば 咲かずやはあらぬ さくら花 見る我さへに しづ心なし」(紀貫之)
こんな穏やかな春の日に、なんで慌ただしく散ってゆくんだろうね、桜は、
なんだったら咲かなくたっていいんだよ、こんなに心が乱れるのなら…

いかがでしょう。単なる落花にとてつもなく深い意味があるように感じられます。
これをポツリと、さも神妙な面持ちで呟いてみてください。
インテリジェンスな風流人の完成です。

もっとフランクに桜を愛でてみたいという方、
愛で方その二、「風を恨む」はいかがでしょうか。

76「花散らす 風のやどりは だれか知る 我に教えへよ 行きて恨みむ」(素性法師)
109「木伝たへば おのが羽風に 散る花を たれにおほせて ここら鳴くらむ」(素性法師)
この風はどっから吹いてくるんだ、行ってブン殴ってやる!
そこのウグイスもどっか行けよ、お前の羽風で花が散っちまうだろ!

落下を誘う春の風、それにイラつけばイラつくほどあなたの桜愛をアピールできます。
でもお花見がデートだったら、あまりイライラするのはよくありませんね。
そんな時はこんな愛で方はどうでしょう、その三、「道に迷う」です。

115「あづさゆみ はるの山辺を 越えくれば 道もさりあへす 花ぞ散りける」(紀貫之)
116「春の野に 若菜摘むと こしものを 散りかふ花に 道はまどひぬ」(紀貫之)
帰り道が分からないほど花が散ってるね。
ちょっとした散歩のつもりだったけど、もう帰れないよ。

落花の美しさを称えるとともに、“今日は帰らない”、“帰さない”という誘惑も可能な一石二鳥の文句です。
これであなたの花見デートは大成功間違いありません。

個性的な愛で方をお望みの場合、これはいかがでしょうか。
その四、「アーティスティックに愛でる」です。

89「さくら花 散りぬる風の なごりには 水なき空に 浪ぞたちける」(紀貫之)
114「惜しと思ふ 心は糸に よられなむ 散る花ごとに ぬきて留めむ」(素性法師)
花散らす風の残像は、空に浪が立ったように見えるよ。
惜しいと思う心を糸に撚ることができたら、散る花を抜いて留めるのに。

いや〜カッコイイ!! こんな表現、凡人には絶対にできません。
恥ずかしくなければ、ぜひ使ってみてください。

最後に、もっとシンプルで深みが欲しいという方、
こんな愛で方はどうでしょう、その五、「達観の境地」です。

71「残りなく 散るぞめでたき 桜花 ありて世中 はての憂ければ」(よみ人知らず)
97「春ごとに 花の盛りは ありなめと あひ見む事は 命なりけり」(よみ人知らず)
桜よ、残りなく散ったほうがいい。世の中、しょせん辛いことばかりさ。
おまえを愛でることができるのは、命あっての物種だよ。

人生を悟ったかのような思慮深い言葉。
少なくとも還暦を超えてから口にしてみたいものですね。

さて、いかがでしたか。
はじめに申し上げたとおり、桜は満開ではなく、落花の美しさをいかにカッコよく愛でるかがポイントです。
平安歌人達も、これに苦心していたことがお分かりいただけたでしょう。
※満開を褒める歌はこれをのぞいてほとんど皆無です。
59「桜花 咲にけらしな あしひきの 山のかひより 見ゆる白雲」(紀貫之)

今回ご紹介した愛で方・褒め方を披露すれば、誰しもがあなたを一流風流人と一目置くはず!
いざ! 今年も花見へと参りましょう♪

(書き手:内田かつひろ)


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