すっかり秋めいてきましたね。
平安歌人たちにとって秋は特別な季節です。
184「木の間より漏りくる月の影見れば 心づくしの秋はきにけり」(よみ人知らず)
心づくし…心の全てを奪われてしまうのです、秋の前では。
桜一辺倒の春とは違い、秋は心奪う景物が沢山あります。
野辺や木々を染める色のようにとりどりに。
代表的なものが月、そして鮮やかな紅葉。
さらに松虫や蜩など虫の音に雁や鹿といった動物たち。
そしてなんといっても、秋といえば美しい草花です。
萩、尾花(すすき)、葛、撫子、女郎花、藤袴、桔梗。
これらは「秋の七草」といわれ、万葉の時代に山上憶良が歌に詠んで以来、秋の代表的な草花になりました。
「秋の野に 咲きたる花を ゆびおり かき数ふれば 七草の花 萩の花 尾花葛花 撫子の花 女郎花 また藤袴 朝顔(ききょう)の花」(山上憶良)
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この「秋の七草」は古今和歌集において、全て歌中に詠まれています。
『女郎花』
226「名に愛でて 折れるばかりぞ 女郎花 我おちにきと 人にかたるな」(僧正遍昭)
『尾花(すすき)』
243「秋の野の 草のたもとか 花すすき 穂にいでてまねく 袖と見ゆらむ」(在原棟梁)
『撫子』
244「我のみや あはれとおもは むきりぎりす なく夕かげの 大和撫子」(素性法師)
『藤袴』
239「なに人か きてぬきかけし 藤袴 くる秋ごとに のべをにほはす」(藤原敏行)
『葛』
262「ちはやふる 神のいがきに はふ葛も 秋にはあへず うつろひにけり」 (紀貫之)
『萩』
211「夜をさむみ 衣かりがね なくなへに 萩のしたはも うつろひにけり」(よみ人しらず)
あれ、「朝顔(ききょう)の花」が見当たりませんね。
実は桔梗は簡単には見つけられない仕掛けがほどこしてあります。
先に答えとなる歌をお見せしましょう。
440「秋ちかう のはなりにけり 白露の おけるくさはも 色かはりゆく」(紀友則)
パッと見ても「桔梗」はないようですが…
実はこの歌は「物名歌」なのです。
物名とは歌の中にある単語を詠み込む技法です。
ですのでよく見ると「きちかうのはな」という単語が見つかります。
これが「桔梗の花」なのです!
まあ、現代の感覚でいうと「きちかう」が「桔梗」だとは気づかないですね。
最後に秋の七草の覚え方を伝授しましょう。
「大きな服は」?
「お(みなえし)・お(ばな)・き(きょう)・な(でしこ)・ふ(じばかま)・く(ず)・は(ぎ)」です。
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(書き手:歌僧 内田圓学)
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