「遇不逢恋(あひてあはざるこひ)」とは、一時は関係を深めた男女がしだいに疎遠になりつつある状況で、いま一度関係を取り戻したと願いつつも、それが叶わないという悲歎や迷いを詠んだものです。
詠まれる言葉としては、「離(かれ)」、「夜離(よがれ)」、「ありし夜・日」、「あふことなし」、「慣れにし~」、「見し~」、「かつ見る」、会ったのが夢なのか… など、二人の距離が離れていくさまが主になります。
『古今集』恋四より
「みちのくの安積の沼の花かつみかつ見る人にこひやわたらむ」(よみ人しらず)
「かれはてむのちをばしらで夏草の深くも人のおもほゆるかな」(凡河内躬恒)
「あなこひし今も見てしか山がつの垣ほにさける山となでしこ」(よみ人しらず)
「津の国のなにはおもはず山城のとはにあひ見むことをのみこそ」(よみ人しらず)
「よど河のよどむと人は見るらめど流れてふかき心あるものを」(よみ人しらず)
「みちのくのしのぶもぢずりたれゆゑに乱れむと思ふ我ならなくに」(河原左大臣)
『堀河百首』より
「あひてあはぬ恋する人の又もあらば我を尋ねてとはましものを」(国信)
「神もきけおもひも出でよくれ竹のただ一よとはいつかちぎりし」(顕季)
「とけざりし昔よりけにくるしきは結びたえたるしづはたの糸」(顕仲)
「有りし夜やうら島が子の箱ならんあけにし日より逢ふ事のなき」(永縁)
「もろともになれにしものを放鳥はなちどり行へもしらぬなかぞ悲しき」(肥後)
「逢坂の関はこえにしあづまぢをなど今更にまたまよふらん」(河内)
『新古今集』より
建仁元年三月歌合に、逢不遇恋のこころを
「あひ見しはむかしがたりのうつつにてそのかねごとをゆめになせとや」(土御門内大臣)
「うらみわびまたじいまはの身なれどもおもひなれにしゆふぐれの空」(寂蓮)
「わすれじのことのはいかになりにけむたのめしくれはあき風ぞふく」(宜秋門院丹後)
和歌所歌合に、遇不逢恋のこころを
「ゆめかとよみし面影もちぎりしもわすれずながらうつつならねば」(俊成女)
『草庵集』より
民部卿家三十首に、逢不遇恋
「住みあらすあまの磯屋の塩煙いつまでなびく心とかみし」(頓阿)
「津の国の生田の杜に宿からむあき風ふきて後もとふやと」(頓阿)
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