「源氏見ざる歌詠みは遺恨のことなり」
六百番歌合(藤原俊成判詞)
俊成のこの言葉に代表されるように、歌詠みにとって「源氏物語」は必須の教養です。
それは現代の私たちも同じ! ですが、そのタイトルはまだしも内容まで知っている人は一部の古典ファンに限られるかも知れません。
源氏物語は日本古典の権威であり、その長大さと文語体によって現代人を冷たくあしらいます。
しかしその実、内容はドラマ「大奥」を彷彿とさせる男女の愛憎エンタテインメント、それが平安の優雅な舞台で繰り広げられるのですから、面白くないはずがない! といってやはり、容易には近づけない…
そこで始めました「ワンフレーズ原文で知る源氏物語」。
各帖ごとに物語の核となるシーンやセリフの原文をワンフレーズでピックアップ!
文語体も苦にならず、かつ物語のエッセンスを堪能しようという試みです。
さあ! 紫式部の手による、源氏物語の世界を気軽に楽しみましょう♪
主要登場人物
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ダイジェスト
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源氏の評判
「光る源氏、名のみことごしう」
「光る君」と称えられ閉じた前巻から一転、「光る源氏」なんて名前ばかり仰々しいやつと貶められて帚木巻はスタートする。前巻、ちょっと褒めすぎたと作者は反省したのか? 確かに「雨夜の品定め」前の源氏はウブだ。
「女にて見たてまつらまほし」
絶世のイケメンだと言われる源氏。それがどれくらかいというと「女にしたいくらい」なのだ。
平安時代、筋骨隆々の勇ましい男はモテなかったことであろう。
雨夜の品定め
「長雨晴れ間なきころ」
外は雨、退屈な宿直の夜に若い男が集まれば、話題は自然と女の話に及ぶのであった。
「中の品にぞおくべき」
左馬頭
「女は中流が最高だ!」これは源氏の同僚であり、女遊びの師と言える左馬頭のお言葉。
ウブな源氏は経験豊かな先輩によって、数び心に火を付けられた!
「さびしくあばれたらむ葎の門に、思ひのほかにらうたげならむ人の」
左馬頭
ボロ家に住む美女、このギャップが貴公子達にはたまらないらしい。
「ただひとえに、ものまめやかに静かなる心おもむきならむ」
左馬頭
「女は誠実でおっとりしたのが素晴らしい!」左馬頭のありがたいお言葉である。
「見そめしこころざしいとほしく思はば」
左馬頭
「嫌になったら初心を思い出せ!」これも左馬頭のありがたいお言葉である。
「すべて男も女も、わろ者は、わづかに知れる方のことを残りなく見せ尽くさむと思へる」
左馬頭
左馬頭の熱弁は延々と続く「男も女も控えめなのが美しいのだ!」
「やまがつの 垣ほ荒るとも をりをりに あはれはかけよ 撫子の露」(頭中将)
「咲きまじる 色はいづれと 分かねども なほとこなつに しくものぞなき」(夕顔)
雨夜の品定めで忘れてならぬのが頭中将の独白、痴者の物語。
彼が語った情を移しながら行方不明となった女とその娘は、この後源氏と運命的な出会いをする。
そう、これが後の夕顔と玉鬘であったのだ!
ちなみに「玉鬘」は第22帖、その伏線がはやくも第2巻で張られている。
方違え、空蝉との契り
「おほかたの気色、人のけはひも、けざやかに気高く」
源氏の正妻「葵の上」は相変わらずツーンとして近寄り難い。
「牛ながら引き入れつべからむところを」
源氏
貴公子の方違えはなんとも強引で適当、「牛車で入れるとこ行っちゃおう♪」なのだから。
「『や』とおびゆれど」
空蝉
方違えで立ち寄ったのは紀伊守邸、そこには中流の女「空蝉」がいた。
左馬頭に触発された源氏は空蝉と強引に契ろうとする、女はかろうじて「や」と発するばかり。
「思ふことすこし聞こゆべきぞ」
源氏
「ちょっ、ちょっ聞いてよ、遊びじゃないって」。だれだって初対面の男のこんな言葉を真に受けないでしょう。それが源氏だって。
「いとかやうなる際は際とこそはべなれ」
空蝉
「どうせわたしが中流だと思って舐めてんでしょ」とは空蝉の嘆き。
「その際々をまだ知らぬ初事ぞや」
源氏
「いやいや、俺まだそんな経験ないから」とは口説き方を知らない源氏精一杯の一言。
「覚えなきさまなるしもこそ、契りあるとは思ひたまはめ」
源氏
「俺のこと知らないかもしれないけど、これは運命ってやつ!」今でもこんなセリフを吐くんでしょうかねぇ、名うてのナンパ師は。
「すぐれたることはなけれど、めやすくもてつけてもありつる中の品かな」
源氏
やっぱよかったな、中流の上品な女は。
自分のツンツン妻と比べて、よけいにそう思う源氏なのであった…
「帚木の 心を知らで その原の 道にあやなく まどひぬるかな」
源氏
近寄っても真意を語らないあなたに心は惑うばかり。巻名の帚木はこの歌に由来します。
「いで、およすけたることは言はぬぞよき」
空蝉
「大人びたことするんじゃありません!」
靡かない空蝉にその弟(小君)を利用して近づくという、小賢しい源氏であった。
「よし、あこだにな捨てそ」
源氏
それでも女は靡かない。
「せめてお前だけは私を捨てないでね」と、源氏は小君をそばに寝かせるのであった。
源氏の恋愛対象は広い、、
(書き手:歌僧 内田圓学)
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