●11月某日
学校からの帰り道。
家の近くのあぜ道なら誰にも見られないって、
初めて手をつないだ夏の日。
ずっとずっと、一緒にいられると思ってた。
秋風が吹き付ける。
あぜ道を行くのは私一人。
田の実と、彼を頼みにしていた私に
秋風が冷たく冷たく吹き付ける
あ~あ、
やっぱり一人になっちゃった。
822 「秋風に あふたのみこそ 悲しけれ わが身むなしく なりぬと思へば」(小野小町)
●11月某日
足元に目をやると
葛の葉が風になびいている。
冷たい秋の風は、
その葉を吹き返して裏を見せている
それを見るたび、
恋の恨みも募ってくる
わたし悪くなかったよね?
彼を恨んだっていいよね?
823 「秋風の 吹きうらかへす 葛の葉の 裏見てもなほ 恨めしきかな」(平貞文)
●11月某日
裏切ったのは彼
でも… まだどこかで信じられない
確かに女にモテて、調子いいトコもあったけど
ウソをついたりする人じゃなかった
秋風はますます強く吹き付ける。
武蔵野の草葉はあたり一面、秋の色に変わってしまった。
彼の心も私に飽きて、
すっかり変っちゃったんだろうね。
821 「秋風の 吹きと吹きぬる 武蔵野は なべて草葉の 色かはりけり」(よみ人しらず)
つづく…
(書き手:歌僧 内田圓学)
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