ML玉葉集 夏部(水無月)


短歌ではなく、伝統的な「和歌」を詠むことを目指す和歌所の歌会、
そのご参加者様の詠歌をご披露させていただきます。
※2018年6月はおよそ二百五十首の歌が詠まれました

ご参加者様のほとんどが、和歌所の歌会で初めて歌詠みとなられています。
それでも素晴らしい歌が詠めるのは、無意識にも私たち日本人に「日本美のあるべき姿」が宿っているからです。歴史に培われた日本文化とは本当に偉大です。
私たちと一緒に和歌の詠歌、贈答、唱和をしてみたい方、ぜひ歌会にご参加ください。
歌会・和歌教室

言の葉は天より漏れるものなれや 五月雨尽きて笑みの溢れる
雲間より漏れ来るごとに詠み連れば 五月雨尽きて明陽射すらん
さみだれて寝る夜久しや黒潮の 鯨の吐息遠き夢のごと
夜汽車にて絵文字で交はす情あり いずれを言の葉とこそみん
夢のごと故国をおもひてゆく春を 惜しむ亜州の別れなるかな
南海の濱のいさごに打ち寄する 白波おほく数勝るまで
いさやはやつきじとみえしものなれど 江都よひらのけふの五月雨
まかりきてほどなくなればとはやれども みえぬひがきのこいじをとざす
御垣内倭の百菓集むれば 嘉び溢れ祥い満る
五月雨の降りにし夜の時鳥 声なつかしく闇に聴くらむ
鹿ヶ谷蛍の光舞ふ路の 命の灯す景色はかなし
雨過ぎて風を乗せ揺れる鞦韆と 白雲写す水鏡かな
闇になほ静かにすたく雨の音に 匂ひ残せる梔子の花
五月雨の落つる雲さへ越え行かば 玻璃の散らせる射干玉の海
紫陽花の色のうつろふ四ひらにも 乗せる露には同じ空かな
時じくに心を浮かぶ空鏡 丸く包むや憂しも愛しも
七色の光を宿す天の珠 いかに染めるや紫陽花を
紫陽花は いかに染まらる 七色の 光は落つる 天の珠水
あぢさゐの夜露にうつるほたるひは 四ひらの花の夢のまたたき
いづかたに雲はゆくらん水無の空 思いばかりが雨とのみふる
たつぷりと雨水ふくみしのち烈し 日輪の矢に抗たるあぢさゐ
夜の虹を午に匂はすあぢさゐの かをり濃かればくるほしからめ
紫陽花や書架にのびたる司書の腕
わたつみの深き願ひと知りながら なほたちさふか沖つ白波
通り雨のシャツをきゅうっと引っ張って なんにも言わないあじさい娘
風吹けど転ぶ玉なき蓮の葉の 緑渇くや今日も旱か
この暑さ斜めならずや頻く頻くと 昼の明さも過ぎて耐へざる
あからしま如何に如何にと念じつつ あなかしがまし五月晴れとも
嗚呼皐月火の色積もる日すがらに 早苗の心知らざっしかば
陽炎の燃ゆる夏日の透き影に つゆも知らじな鯉や泳げる
あらまほし空や直青袂返ず 露も永瀬風も一向になし
朝羽振る蜉蝣影や儚きて 眺め侘しも雨音聞かばや
暮れかかる夕べの雲の佇まひ もし降りたればこそ可笑しけれ
何れの年に植えて仙壇上に向かう 早晩移し栽えて梵家に到る 人間に在りと雖も人識らず 君に名を与えて紫陽花と作す
水無月の照る陽に枯れる花あれど 絶えぬ紫常にもがもな
暮れ掛けに待ち嘆げかるる夏雲よ 寄せて久しき青時雨落つ
安治佐為や君泣き濡れし五月雨に 嬉しからまし暮れに色染む
朝比奈の待ちとる方の山葉より 顔映ゆしくも雨そ添ひゆく
時や夏音して来たるヲタクサの 空に知られぬ雨の喜び
待ちつけて時雨の触れる嬉しさに 光り余りし狐の嫁入り
曇りなく目に見ゑねとも玉光る 露けき風に天は泣くなり
朝雨や来たれ夏との声為鳴り 物言はずとも真藍そぐらむ
集真藍や花の四片に梅雨疾る 玉の音する好きな此の夏
うらうらと長閑けき夏に玉鳴りて 草木土の香気配芳し
仙人の持ち帰りしは八仙花 香りも無くに匂ひたつ花
花白き柏の下葉移りしは 赤青緑七変化なり
風雲の気色は頓に夏立ちぬ 折ふし寒き外待雨かな
薄く濃く降るを間々に染め分けて 中空にのみ見えし阿豆佐為
今皐月近劣りみる安知佐井は 嫋やかならぬ間の色か
待ちきれぬ月の隙間の止毛久佐は 一夜限りと花や群ら咲く
雨晴るる意は尽きぬ水無月の なほ色劣る庭の味狭藍
晴れぞ憂き皐月と思へど水無月に 曇り掛かればせめて影染め
夕立ちて遠ひ雷の音頭鳴り 肌の潤ふる風に花笑む
梅雨走る雲の架け橋渡り越す 先は水無月急がれにけり
梅雨然れば濡れたる風そ墨薫る 海魚変じて黄雀となりや
旱梅雨曇り近して甘く落つ 寄るましじきに色も喜ぶ
集真藍昼のこち痛し空梅雨に ゐ及けゐ及けよ戻りし喜雨や
然らぬだに薄き色なる夏の花 今は大言海括り染め梅雨
五月雨や青衣重ぬ紫陽花の 葉も衣勝ちて花もたわわに
水乃月の珠に滴る味狭藍や 清け涼しき夏に酔ふかな
青多磨やしとどに水漬く前栽乃 咲き遊びたるまたぶり草よ
目先の綉球花にある露に触れ ぬるく緩ぶも可笑しく感ず
雨を愛で蔭を好みし半ばかり 梅雨側む実に面白き花
鎌倉や四葩咲く咲く雨篭り 今の夏こそ咲耶此乃花
杜鵑草鳴く夏乃寺一重垣 暇見へぬまで手鞠花咲く
茜さす四片に依せる赤玉の 儚く揺るる涼し夏影
ゐま茲に来たる夕影紅を差す 阿豆佐為まかむ彼は誰時
暮れ染めに鳥居に帰る宮鳩の 翼の色も赭括りけり
雨暮れや涼みがてらに笛吹けば 軽ぶともなく音もしほほに
珍しく調の宜しき時こそは 吹きけらしとも長く思はば
風の音に常忘らへて練ずれば 何しか笛は吹けど飽かなく
唯なりぬ折あらざりし微か音の 吹き変わるかな尚試みむ
さっきまで何とはなくて吹き譜の つい定まりぬ音の一つに
鶺鴒の鳴く声偲び練ずれば 雨星光る空に音聴く
夏の夜に降るとし聞かば水な月の 声に意を慰めよとや
星残るとまりし雲を豐に見ゆ 天降りましけり多磨光りらむ
皆月乃棚雲裂けて雨そそく 望に消ぬれば其の夜降りけり
射干玉の照れる濡れ羽根明くる夜を 名乗る鴉の声も夏なる
真やな朝なこの頃聞くにつけ 烏丸の声に驚かれぬる
春に聴く華やか軽ろぶ声ならぬ 重き恨めし夏に苛れる
雨催ひ友鳥何処鳴く鴉 戯れ事か甍蹴散らす
恨めしや晴れの日に聞く彼の声も 雨に聴くなり気色覚ゆる
嵩もなく一声も無き濡れ烏 夏の哀れと思ひそめしか
朝羽振る露切る音の晴明さよ 身に沁むまでに降るる夏なれ
黴雨に映う呂色に優る濡烏 艶に思はぬ限り知らずも
鴉羽根色は八千種紫の 青赤緑妖し黒ぐむ
朝影や愈ますます玉光る 烏纏ふし霓裳羽衣
朝の末夢覚めやらで聴く聲の 濡羽ね色に黒き虹立つ
東雲に朝陽一条赤ら引く 乾めき青空夏越を祓ふ
溯る水脈に揺蕩ふ朝日子の 御影賢き水有月よ
雨間なく衣片敷き狭莚の 時しも分かず待つは哀しき
狭筵の砌の飛泉雨に打つ 降ち行く夜を誰が惜しまぬ
仮初めの我が家後にし陸奥へ あじなき事と致さふものとも
別れ越し北は晴れたか此処は雨 行くも帰るも雲の隨
朝霧の夏山息吹く水無月に 争ひ霞む卯月曇りよ
むくつけき風走らかす雲有らば 猶予ふ雲よ何そ何ぞ迷ふ
深山路に卯の花曇る青時の 穀雨を下す影となりけれ
雲問ひし風は答へぬ雨落ゆる 早苗色付く夏の此の頃
降れば降れ水無月こその五月雨に 雲煙為す夏に手合わす
白煙何ぞと人の問ひしきは 露と答へて消なましものを
明かず見る卯の花腐し始水の 白雨に嘆く夏の暮れかな
潮どけし漂ひながら終わり待つ 眺め詫びしき腐し卯の花
五月雨や積もるも見へず霞行く 遠を見さけて夏の川舟
篠突きし雨や肘笠意做し 在るか無きかの遠き花の香
雲の咲く水菜月に見ゆ夏乃空 色を移して散るる雨花
千歳降る五月雨る儘に夏よ行く 雨を翠に重ねてぞ見る
不如帰声ぞ霞に漏れ来るは 人目羨しき深山に咽ぶ
若夏乃有為の奥山翠濃く 靜な闇間もなほ暗き在り
谷間抜く月に五月雨る音頭鳴り 轟に疾る今の夏知れ
叢雨のさざれ激しく降り果てば 東風に肖ゑまし雨弓よ張る
雨あがるただ見て仰ぐ虹乃橋 始めも知らぬ何処をはかと
まちまちに降る雨照る日仰ぎしは 様々変わる数多の恵み
天に坐す崩れて幾つ雲の峰 夏星濡るる宵の玉響れ
水張りの月見て涼む夏の夜に 早苗田薫る夜は懐かし
曇る中陽朝射し貫く六月に 峰越し山越し夏よ来るらむ
皆月に年の半ばの大祓 茅乃輪くゞりて三度八ノ字
五月雨に堪へに堪へてそ三十日経ち 後も清らな夏は来るなり
去年秋に歌詠始む抑も抑もは 恩に報ずと弓と笛執る
不覚にも恩に急ぎて吹き譜は 事を為しても嬉しからずや
強ちに如何せむかと其の意 持てわけたるは浅ましき業
粗粗し技云へぬほど作法無く 音を損ひ失礼為すとは
然りとても心顧さふ憂き夜に 猶し嬉しき泣き笑勝ちかな
冬乃月返り申して師の笛の 伊呂波の濤に音姿見ゆ
教え請ひ我の持たざる聴くを知る 聴かざることに音沙汰なしと
然か覚ゆ奏者に非ず本為るは 春唄ふ君梅の目白そ
根本の意を知らず業為すは 根無しの花か実りも虚し
敷島の萬源辿りせば 四じを巡りて天地歌ふ
見得る物見得ざる物と聴きし事 聴かざる事も謌ふ心は
古の物の憐れは巡り事 憂ひ慰む吾も知る事
歌詠も横笛とても同じ事 種は心の感ずる儘に
心無く弓し刀帯如何に責む 花に迷はずまこと花知る
合気とは負ける業なる其は受け身 無様を晒す稽古其の物
正鵠は的に無き事外すとも 当たるとも無く礼結ぶもの
術為すは強きに向けし闇を観る 外に非ずに内に在るもの
挫く時先生偲び倣ふとす 無駄の稽古の有り難き哉
善し悪しも言無く重ぬ身の丈の 稽古身を置く一つ大事を
文藝武数多花実の種其れは 心を映す謌に在りけり
謌そ何字形無き音に聴く 変化変幻す花の心は
種在らば唄は生まれる大和歌 色も形も香り芳し
花を置き実を置き求む槌の下 闇の根にこそ種の始まり
良き種も拙なき槌に根はつかぬ 耕す稽古それは道草
瀬戸に立ち風に試む歌詠も 笛吹く事も鳥の空音と
吹きたくは雨音風音言葉なく 槌石転ぶ物の可笑しさ
草の香や花の愛しさ笑ふ蟲 生の喜び影の淋しさ
四じにあるかたち色々豐けさは 暑さ寒さの変はる様なり
闇に在る星月の事見へざるは 忘れ淸水常なりし影
先達の残せし歌謡は星に在り 心に眠る歌詠よ流るゝ
歌ひたき恋歌ならず人事なし 野哥空謌神代の謡ひ
浮き世とも人を嘲笑ず愉しませ 仮名序に在りし歌を詠む哉
吾妻にて歌詠ならば秀真とし 雅ならずと夷振る儘に
金塊や裂けて散りしも鎌倉の 目には見へねど藤谷に鳴く
実にや実にまこと然にこそ嬉しかる 想ひ寄せるは深き草の根
何事も初の習ひとその道で 誼と交わす話樂き
恵比寿にて思ひ掛けずに有難き 稽古頂く其れは始まり
驚きぬ鳥の空音を奏つ人 吾や吹きたくは笛の風唄
鶺鴒の声や清しく吹き渡る 美しふ美しふそ風と行くもの
笛吹きは心出で来る物の具の 何と直ゝあから様為る
身を辿る案の外にも迷ひつゝ 此れも倣いと笛を手に執る
春は来ぬ天神報ず咲く梅の 梢に謌ふ目白に逢わむ
錫鳴りに飛梅と遊ふ愛し翆 目白押しとは笑みの眉開く
仮初めに春に逢ふこと無かりせば 斯く歌を詠む日々や在りきと
程無くに銀座へ参り初を聴く ともに習ふやをかし徒
歌人に書に作るゝ人有らば 謡ひ菓子喰む実に面白き
ひちちかに紅染むる月乃秋 紅葉の橋に花衣舞ふ
四季島の深き歌詠む時を知る 忝なくは和先生よ
愛しきやし翁乃謡よ欝悒しき 片生ひなる吾感けて居らむ
否も諾も欲しき隨赦すべき 言を尽くさば歌を詠まむと
吹きに打ち弾いて叩いて唄に舞ひ 凌ぎを削り弓を引く年
和す事の愉快や愉快然為るなら 扇を執りて舞ってみましか
未だ寒き枝を交わすと歌詠の 友は異国の便り楽しむ
年新た吾と心す野辺に出で 草木花歌練じ過ぐすと
目を閉じて先ずは耳為る音を聴く 観ずる儘に四じを謌ふか
畏れずに恥をも出して事もなく 音に酔ふまで六つの花なれ
春埴槌の柔し馨りに春を知り 冬の名残りを福良雀に
朝陽射す踏ノ蒼草野辺遊び 寒き春日も歩くは楽し
巡り来る見目麗しき淡野原 彼岸に咲く花影揺れる
春闌けて山吹に立つ風聴けば 藍を植う頃夏を迎へる
神代より星月夜座す冬星は 天鳩船然れば空蜜
濡羽ねの井守露めき夏も来ぬ 守宮うち鳴く五月雨る様に
六月経ち変わらぬ音の風の中 今一返り新た試さむ
土踏めぬ底の無き闇音世界 屋根も無く見ゆ空や果てなる
見る夢は音の波立つ雨と風 沖つ闇間に溺れぬものぞと
足りずとも憂きに泣かぬと吹き綴れ 足すを為す事春鳥倣う
歌詠て笛音に応ふ音無くば 今此の刻をせめて返さむ
然もあらず水無月こそは試みる 音には音を巴の息吹
百語る音の姿は千乃絵巻 辿る怖さも吹きてし止まむ
鶺鴒の歌聲に泣く水無月の 星の巡りの麗しき歌
意知る厳しみ深き教え鳥 美しき翠衣西風よ吹く
有り難き習ひ進めと穂含月 吾や学ぶらむは数えと運び
古の今の此の先吹き芽ぐる 萬言ノ音真その人
顧みよ迷ふ時こそ友鳥の 計も算無き倣ふ姿を
形無き文字に非る唄を詠む 吹きて無くなる悲歌る音風
叶ふなら物の哀れを物語る 左様な笛を吹きて遊ばむ
大事とは為すか為さぬか言問わず 定めし意に行為すのみ
ささやかに樂しく吹きしその後は 梅本帰り目白と歌を
結句なる吾妻に育む蘖の 百年畑つ一助足らんと
仮初めの浮き世の沫と知りつゝも 遊んで謌ふ鳥の空音を
梢には残る色なき音枯れの 影にのみ聴く時の風かな
とんとんとんからりと夏となり さあさあ朝よそろそろ起きよ
とんとんとんからりと夏となり やあやあ晴れたなになにしよう
とんとんとんからりと夏となり さんさん降るなひりひりするぞ
とんとんとんからりと夏となり てかてか照よみちみち行くよ
とんとんとんからりと夏となり あらあら如何なになにどした
とんとんとんからりと夏となり おいおい泣くよきみきみ話そ
とんとんとんからりと夏となり おやおや友よよいよい遊ぼ
とんとんとんからりと夏となり あははは可笑しあれあれ夕け
とんとんとんからりと夏となり ぼちぼち帰ろばいばいまたね
とんとんとんからりと夏となり もぐもぐ美味しうんうん良い日
とんとんとんからりと夏となり もうもう眠いそろそろ寝るよ
とんとんとんからりと夏となり ゆめゆめ見るよまたまた話そ
大磯の虎が雨降る水無月よ 心噎せつゝ箱根路に泣く
日隠の露に潮垂る朝けかな 空路分けまし今日より栗花落
堕栗花して切り立つ山に海なして 降る水無月を幾重分くらむ
梅つはる岩根の蔦の玉煌り 雨を導に照らしてぞ行く
足踏みの漬ゆ崩れする赭槌に 歩き疲れむ梅雨のみ中に
夏衣音も遣ららに打ちならす わゝくばかりに雨包みせり
雨なのか汗か涙か世に経しと 一人出でては汗衫費ゆし
勤めては憂き世暗きと宵雨を 帰さ見るかな泪ぐましも
男から女梅雨へと移りけり 気暗に弱く暮るゝ空かな
行き道は夏日汗あゆ水無月の 帰りは寒き那須の山風
止まぬ間の中々霞む峰々も 入り日幽かに山ぞ色目く
五よ水垂る有り達つ川の浪早し 越えて濁るゝ夏の沫雪
久方の眺めも涼し夏河の 掬び且つ消ゆ荒ぶに驚く
卯の花の咲き散る雨の瀬と汀 夏や白波岸を越ゆらむ
道々に由なに在りや蔭光 為む方無しと帰るほかなし
迎へ黴雨数多に響む雨音は 掻ひ弾く珠のときを打つ聲
寝てや聞く覚めても聞きし夏の日の 止むこともなき雨の栄を
春譲る雨も光も影すらも 夏に齎し稔り秋へと
日昳晴る夏の姿は現れて 光ばかりぞ雲に待たるる
日名残りに夢幻の憐れの橋掛かる 露を慕ふに照れる虹色
雲細く棚引きたるゝ夕暮れに 銀鮫泳ぎ遠ざかりゆく
雨あがりをゐらかなるゝひと時は 鞦韆風にゆたりと揺れる
揺るきたる風に鞦韆足を空 晴れの日遊ふ虹を越さぬと
定めずに夏空映す潦 行きつ戻りつ大し揺はり
風起しゆらゆら揺れて夏消せば 残るは実青の花色
夏の日に日向と影を行き交へば 涼しく揺れる青葉なりけり
真やね彼の地の友は如何んとす 健こ過ぐすや彼の地も夏か
秋千の儘に居掛かる酉の刻 肌寄す風の気配変はれり
そろそろに鞦韆曳ゐて足をつく 空を染め来る烏丸や帰ろ

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