この歌には詩歌の醍醐味が溢れている。何かと言えば、解釈の余地が鑑賞者にほとんど委ねられているのだ。『梅の花のまだ満足もできない色と香り、それはもう昔となって、同じように思い出が残る春の夜の月』。なんだろう、正直なところよく分からない。だがいい!
これまでの日めくり和歌の鑑賞をつうじて「梅の色、香り」や「春の夜の月」には単なる言葉を超えた、和歌的物語が含まれていることが知れるだろう。そしてその下敷きさえあれば歌はおのずから立つ、作者である俊成卿女も当然その効果を狙っている。内容は妖艶な情景でもいいし、恋の追憶でもかまわないのだ。和歌でもなんでも、古文の初学者はたいてい正確な口語訳を求めたがるものだが、それが虚しいことも往々にある。
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