軒白き月のひかりに山影の闇を慕いてゆく蛍かな(後鳥羽院宮内卿)

「白々とした月明かり」と「山影の深い闇」が競う、おぼろなる幻想の夜。蛍は闇を選び、その中を気ままに遊んでみせる。「マティス亡きあと、シャガールのみが色が何であるかを理解している最後の絵描きだった。」ピカソが残した有名な言葉だが、これで言うと式子内親王と宮内卿のみが、歌で描く色が何であるかを理解していた唯一かもしれない。例えば柳と桜など、色を対比した歌はいくらでもある。宮内卿が抜きん出ているのは情景の再生力だ。今日の歌を見よ、結句まで一気に歌い上げたなだらかな声調。聴くものは一刷毛で眼前に幻を見る、そんな体験をするだろう。

(日めくりめく一首)

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