秋くれば機織る虫のある辺に唐錦にも見ゆる野辺かな(紀貫之)

枕草子にこんな一文がある。『虫は、すず虫、ひぐらし、蝶、まつ虫、きりぎりす、はたおり、われから、ひお虫、ほたる』。清少納言が「グッとくる」虫の名を挙げたものだが、ここに見える大半は秋の夜、儚げに鳴く虫たちだ。
「すず虫」、「まつ虫」、「きりぎりす」、「はたおり」、今日からはこれら秋の夜長に情趣を添える「虫」をご紹介しよう、まず「はたおり」だ。『秋がくれば機織る虫がいるためか、唐錦のように美しい野原だなぁ』、歌中の「はたおり」とは「きりぎりす」の古名である。ところでこの歌、虫の「音」を詠んでいないし、「見ゆる」とあるので「夜」でもない。「はたおり(機織り)」という名の連想から「唐錦」を付けるという無理が祟った悪例だ。

(日めくりめく一首)

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