憂き身にはながむる甲斐もなかりけり心に曇る秋の夜の月(慈円)

秋の月、この同一のモチーフをいくつか鑑賞することで、図らずも歌人の個性というものを感じてきた。和歌とは極めて類型的でごく僅少の詩文である、しかし必ずそこに人間性が宿るから不思議だ。今日の詠み人は慈円、百人一首の坊主歌でも唯一それらしい慈悲の心※が採られている人である。今日の歌もまた謙虚で慎ましい人柄が伝わろう、『価値のない私なんぞには月など眺める甲斐もございません、なにせ心が曇っているのですから』。さすが大僧正といった趣であるがどうだろう、同じ方面でもやはり人間的には、「花も月も大好き!」と執着を隠さない西行のほうが魅力に映る。

※「おほけなくうき世の民におほふかなわがたつ杣に墨染の袖」(慈円)

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