庭のおもはまだ乾わかぬに夕立のそらさりげなく澄める月かな(源頼政)

なぜに定家は頼政をかの百人一首に選ばなかったのだろう。今日の歌はそこいらの歌人では決して詠めない秀歌である。『夕立に濡れた庭はまだ乾かぬままに、空には澄みきった月が昇っている。あぁ美しい!』。情景の切り取り方もさることながら、三句「夕立」の配置は絶妙だ。野暮は「夕立に降られた庭の面の」などとやりそうなところを、思い切って省略しかつ倒置している。それが下句にダイレクトに連結して、黒雲と清空との対比が見事に成功。その結果、月の美しさは際立っている。また「そら」の使いどころも心憎い、もちろん「空」であるが接頭語の響きもあって、図らずも出会った「美」への感動を添加する。計算の力量と天賦の才がなければ詠めない歌だ。

(日めくりめく一首)

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