名にし負はばそのかみ山の葵草かけて昔を思ひ出でなむ(源実朝)

「葵」は数ある歌語のなかでも含みが多い。今日から数首をかけて、その秘密を解き明かそう。
今日の初句「名にし負わば」は葵に係り、「葵」は「あふひ」と「逢う日」の掛詞になっている。また「そのかみ」には「其神山」と「その昔(かみ)」が掛かる。其神山とは賀茂神社の背後に位置する山であるが、なんでこれが唐突に詠まれるかと言うと賀茂神社が神紋として葵を用いているため、ようするに葵の縁語となっているからだ。これらを整理して適訳は『逢う日という名前と関係深い其神山の葵を掛けるように、心をかけて昔の恋を思い出してほしい』となる。「なむ」は願望と強意の用法が考えられるが、「出で」は未然形と連用形が同じため活用から判断できない、しかし内容からして願望であろう。詠み人は源実朝、「金槐和歌集」の恋から撰んだ。昔の女との復縁を願う歌であろうか? ともかく貫之もびっくりの理知に混んだ歌である。

(日めくりめく一首)

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