初瀬山けふを限りとながめつつ入相の鐘に秋ぞ暮ぬる(源実朝)

『今日を最後と眺める初瀬山の夕暮れの鐘の音、ああ秋もついに終わりだなぁ』。初瀬山は奈良県桜井市の歌枕で、現在は初瀬(はせ)と呼ばれる。聞こえる鐘の音は長谷寺のもの、観音さまを祀る霊場として古くから知られ、源氏物語など文学作品をはじめ和歌にも度々詠まれている。有名どころでは定家が六百番歌合せで披露した歌※1、また源俊頼の百人一首歌※2などが挙げられようが、これらはいずれも恋の歌であった。憶測だが観音菩薩を仏教的女神と見て、口外無用の恋の様相を吐露したのかもしれない。しかし今日の歌、実朝にその匂いは皆無である。

※1「年も経ぬ祈るちぎりは初瀬山尾上の鐘のよその夕暮れ」(藤原定家)
※2「憂かりける人を初瀬の山おろしよ激しかれとは祈らぬものを」(源俊頼)

(日めくりめく一首)

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