今朝みれば宿のこずゑに風すぎて知られぬ雪の幾重ともなく(式子内親王)

式子内親王は劇場的な恋歌の名手として理解されているかもしれないが、実のところその個性・歌力が真に発揮されるのは四季歌だ、私はそう思っている。それは同時代に勃興した定家や俊成卿女に見られる物語的風景歌ではなく、高精細な目を通して詠まれる写生歌だ。風雅集に採られた今日の歌などは、その白眉たる一首といえよう。
『今朝、家の桜の梢には風が過ぎてゆく。それは空には知られない雪が幾重ともなく連なるように』。常套的な雪の見立てであるが凡作にならないのは「知られぬ雪」に受ける抒情と、倒置かつ省略された結句「幾重ともなく」により、私たちは永遠なる花吹雪を心に映すからだ。

(日めくりめく一首)

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