ホトトギス鳴きつる方を眺むればただ有明の月ぞ残れる(藤原実定)

静かなる幻滅。『ホトトギスが鳴いている方を見ると、有明の月が残っていた』適訳するまでもない、単純な写生歌である。しかしこの単純な写生歌が和歌には極めて少ないのだ。和歌とは基本的に抒情歌であり、たいていの歌には悲しい恋しいといった詠み人の心境が表れている。しかし今日の歌にはそれがない、たんなる風景のスケッチ。これが歌として成立したところに和歌の一段の向上があった。採られたのは千載集、伝統回帰を企んだこの勅撰集は単に古調に帰ったのではなく、これまでの文学史を全て孕んで格調を取り戻したのだ。今日の歌も単なるスケッチではない。それはこれまで鑑賞を続けてきた私たちもにも理解できるだろう、ホトトギスと有明の月とが象徴する人の心を。静かなる幻滅である。

(日めくりめく一首)

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