ホトトギス声をば聞きけど花の枝にまだふみなれぬものをこそ思へ(藤原道長)

『ホトトギスの鳴き声は聞こえるけど、我が家の花の枝にはまったく来てくれない。どうしたもんだろう…』。なんとなく伝わったかもしれないが、この歌も昨日と同じく恋の抒情歌だ。であるから歌中の「ふみ」には「踏み」と「文」が掛けられている。つまりラブレターを出したけれども、返事がなくて悶々とした気持ちを詠んだ歌なのだ。夏とウブな恋心、素晴らしき青春である。
ところで詠み人は誰あろう、かの藤原道長である。道長の歌と言えば「この世をば※」のインパクトが強烈で嫌味甚大な印象しかないが、このような初々しい歌もちゃんと残している。詞書には「兵衞佐に侍りける時」とあるから十代のころの作品であろう、本来出世の見込みのなかった少年はそのおよそ四十年後、稀代な権力者として頂点に達する。

※「この世をば我が世とぞ思ふ望月の欠けたることもなしと思へば」(藤原道長)

(日めくりめく一首)

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