ホトトギスなほうとまれぬ心かな汝が鳴く里のよその夕暮れ(西園寺公経)

『私には関係なく、ただホトトギスが鳴いている夕暮れ』。絶望感に打ちひしがれた歌であるが、歌中の「なほうとまれぬ」にある〝ぬ〟の解釈によって歌の真意が変わるので注意が必要だ。「打消」とみれば『嫌いになれない』、「完了」とみれば『嫌いになった』となり、個別意味の上では真逆になる。実は和歌において〝ぬ〟の打消・完了問題はわりと頻出で、有名なのは源氏物語の藤壺の一首であろう※。こちらは物語の真髄を揺さぶるため、古来盛んに論争を起こしている。今日の歌であるが、「心かな」の体言に強く係るので打消を採る。ということで作者は、絶望の淵において哀れにもホトトギスにすがっている。むしろ嫌ってみせれば潔いが、そうしないのが和歌の抒情というものだ。

※「袖ぬるる露のゆかりと思ふにもなほうとまれぬ大和撫子」(藤壺中宮)
こちらは完了と採る方が、物語に深みが増す。

(日めくりめく一首)

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