うすくこき野辺のみどりのわか草にあとまでみゆる雪のむら消え(後鳥羽院宮内卿)

春の雪解けのみずみずしさ、はつらつとして気持ちのいい空気感。ねちっこいのが大半の和歌において、このように清々しい歌は珍しい。なぜか? それはこの歌が純粋な写生歌だからだ。半面、作者の抒情はいっさい入っていないということになる。であるゆえか、「有心」を重んじた定家は百人一首に宮内卿を採っていない。でも私はこの歌が好きだ。「薄く濃き」、「跡まで見ゆる」と雪解けの情景を重奏させ、春のいっそう春たらしめている。彼女はこの見事な歌によって「若草の宮内卿」と呼ばれた。しかし和歌に芽吹いたこの新しい才能は、若干20歳ではかなく散ってしまう。再び和歌の若草が萌えいづるには、京極派(玉葉・風雅集)の登場を待たねばならない。

(日めくりめく一首)

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