ラフマニノフの心地よさと言ったらいいだろうか。甘美で艶なる旋律は抒情をやすやすと揺さぶってみせる。源重之の歌はまさに正統的な詠みぶりで、つね外れることのない安心感がある。『音もせずに忍んで恋に燃える蛍は、鳴く虫よりも心に沁みる』。「思ひ」に「火」を掛け、そのまま縁語「燃える」へと進行、無欠のカデンツである。予定調和との非難もあろう、しかし古典に独創性を求めすぎるのは間違いだ。歴史に培われた完全な音楽、これこそが和歌本来の聴きどころなのだ。
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