秋の夜の露をば露と置きながら雁の涙や野辺を染むらむ(壬生忠岑)

古今集にはこんな雁の風情も歌われている。『秋の夜露はそれとして、雁の涙も野辺を染めているのだろうか?』。この歌を理解する前にひとつ質問をしたい、秋になると野辺に咲く草花が色々に染まるが、これは如何なる仕業によるものか? 答えは歌に出ている、そう「夜露が染める」のだ。これをメルヘンチックと鼻で笑うようでは粋な風流人にはなれない。さて、今日の歌はそれに加え「雁の涙」までもが野辺を染めるとある、この発想はもしかしたら忠岑のオリジナルかもしれない。ただこのような趣向もどこかわざとらしく、秋の抒情はそれほど深まらない。新古今のいわゆる「物語歌」のレベルに達するにはあと三百年が必要だ。

(日めくりめく一首)

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