撚られつる野もせの草の影ろひて涼しく曇る夕立の空(西行)

暑さを不得手とした、正確には無視続けた平安歌人。定家の先日の挑戦は認めるが、珍奇の誹りを免れまい。そこへゆくと西行という歌人の力量はすごいもんだ。『暑さでねじれている、野原一面の草に影が落ちて、涼しく曇り始めた夕立の空』。影をみて夕立雲を知るという趣向は昨日の為家にもあった。またそれを形容する「涼し」も共通するが、初句「撚られつる」によって西行歌の方が対比を際立たせることに成功している。「撚る」とは和歌において「糸」の縁語またその見立てとして詠まれるのが通例であるが、西行はそんな約束事まったくの無視、暑さで萎れる草々を譬えてみせる。型を崩してオリジナリティを出しつつも、和歌の文脈に見事調和してみせる。これこそが真に優れた歌人というものだ。

(日めくりめく一首)

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