夏衣花の袂に脱ぎかへて春のかたみもとまらざりけり(大江匡房)

衣替え、それはある種の人には絶望的な行為かもしれない。というのは、以前ご紹介した梅歌「梅が香を袖にうつしてとどめては」を思い出してほしい。春の名残を留めようと熱心に袖に移した梅の香りだが、衣そのものを替えてしまえば意味をまったく失う。今日の歌はそんな虚しき行為にすがった、春を愛し過ぎる人間の嘆息である。詠み人は大江匡房、まさか「かたみ」が「形見」と「片身」の掛詞だとは思わぬが、ともあれ採られた千載集らしく声調が美しい。昨日ご紹介した素性の歌とは趣を異にするが思うところは同じ、惜しめども留まらぬ春という季節への恋慕である。

(日めくりめく一首)

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