歌に明らかだが、かつて七夕で願いを書きつけたのは短冊ではなく「梶の葉」であった。ただ、今やそこにかける願いに制限などないが、そもそもは七夕伝説にちなんで織物や裁縫の技術上達を願ったものが、やがて書法などの上達に変わり、今のなんでもありに至っている。
しからば俊成の願いはどうであろう、なんと恋の願いではないか。「七夕のと渡る舟の梶」の序から「梶の葉」に転じ、「露のたまづさ」つまり恋文に落とす。よくできた構成であるが、内容といえば空しい。「いく秋かきつ」とあるように、何度も何度もそれこそ果てないほどに書きつけ送ったラブレター、しかしその願いはいまだ成就しない。歌の妙は「露」の一文字で、実際に葉についた露を集めて墨がわりに使ったのだが、歌の本意は涙の隠喩であり、これが一入の抒情を誘う。古歌に七夕歌は数多あれど愚作にまみれるが、くらべると俊成のこの一首は見ごたえ十分だ。
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