さむしろや待つ夜の秋の風ふけて月をかた敷く宇治の橋姫(藤原定家)

『筵を敷いて待つ夜は更けて風も冷たい、月を慰めに独り寝する宇治の橋姫』。これぞまさに定家というような妖艶な一首だ。言うまでもなく歌は「橋姫伝説」を下敷きにしている、嫉妬に狂った女が鬼になる話を聞いたことがあるだろう。しかし今日の歌でも分かるように和歌で橋姫は恋人を忍び待つ、いかにも和歌好みのいじらしい女性に描かれる。実は橋姫が鬼になったのは源平盛衰記といった後の物語の影響だったのだ。 さて本題に戻ると、はじめにいかにも定家らしいといった表現のひとつが三句「風ふけて」だ。本来更けるのは「夜」であって決して「風」ではない。こういったシュールな表現こそが「達磨歌」※として、旧来の歌人達は冷ややかな目を向けた。

※「いはゆる露さびて、風ふけて、心の奥、あはれの底、月の有明、風の夕暮、春のふるさとなど、始めめづらしく詠める時こそあれ(中略)かやう列の歌、幽玄の境にはあらず。げに、達磨ともこれらをぞいふべき」(無名抄 近代歌体)

(日めくりめく一首)

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