月魄の詠草

35
10
令和五年一月
晩冬
かぎりなく過ぎ行く時の常なれば散りぬる雪にかへる里なし
月魄
際限なく雪が降るのが常であるという、しかもそれで故郷に帰れないという。近年は温暖化の影響でむしろ冬の大雪が増える傾向にあるが、この雪は作者の体験であろうか、それとも雪とはなにかの暗喩であろうか。

「かぎりなく過ぎ行く時の常なれば散りぬる雪にかへる里なし」

判者評:際限なく雪が降るのが常であるという、しかもそれで故郷に帰れないという。近年は温暖化の影響でむしろ冬の大雪が増える傾向にあるが、この雪は作者の体験であろうか、それとも雪とはなにかの暗喩であろうか。

51
10
令和四年十二月
年暮
年ふればつもる思ひぞ深まりてわれをおおひて息さへできず
月魄
年暮の絶唱というような印象深い歌。「雪」という言葉はないが、作者を覆い尽くすほどの豪雪が詠み人を息もできないほどに飲み込んでいるようだ。これほどの「つもる思ひ」というのは「恋」であるのか、はたまたなんなのか気になる。「ぞ」があるので文末は「できぬ」、また「おおひて」は「おほひて」となる。三句と四句が「て」が重なるので避けたい、例えば四句を「おはるるわれは」としてもよい。

「年ふればつもる思ひぞ深まりてわれをおおひて息さへできず」

判者評:年暮の絶唱というような印象深い歌。「雪」という言葉はないが、作者を覆い尽くすほどの豪雪が詠み人を息もできないほどに飲み込んでいるようだ。これほどの「つもる思ひ」というのは「恋」であるのか、はたまたなんなのか気になる。「ぞ」があるので文末は「できぬ」、また「おおひて」は「おほひて」となる。三句と四句が「て」が重なるので避けたい、例えば四句を「おはるるわれは」としてもよい。

75
10
令和四年十一月
初冬
冬立ちて空に浮かびし月もまた衣まとひて寒さしのがむ
月魄
冬霧の奥にみえる月だろうか、美しき冬の情景。衣は夏でも「まとふ」ので「重ねる」としてはどうか。また「しのぐ」は和歌であまり聞きなれないので、「寒さ堪ふらむ」として現在推量でまとめてはどうか。

「冬立ちて空に浮かびし月もまた衣まとひて寒さしのがむ」

判者評:冬霧の奥にみえる月だろうか、美しき冬の情景。衣は夏でも「まとふ」ので「重ねる」としてはどうか。また「しのぐ」は和歌であまり聞きなれないので、「寒さ堪ふらむ」として現在推量でまとめてはどうか。

89
10
令和四年十月
晩秋
夜もすがら声枯れ鳴らす松虫は我がごと物や悲しかるらむ
月魄
秋の長夜を一晩中鳴く松虫に、我が身を重ねた歌。「秋の夜のあくるも知らず鳴く虫は我がごと物や悲しかるらむ」(敏行)を踏まえるが「松虫」に「待つ」が掛けられて、恋の心が強く打ち出ている。下句を工夫したいのと、声調を整えたい。「鳴らす」は他動詞なので「鳴く」とする、また「枯れ」を「離れ」と掛けて「夜もすがら声かれがれに松虫の我がごともごとや音にぞなきける」。

「夜もすがら声枯れ鳴らす松虫は我がごと物や悲しかるらむ」

判者評:秋の長夜を一晩中鳴く松虫に、我が身を重ねた歌。「秋の夜のあくるも知らず鳴く虫は我がごと物や悲しかるらむ」(敏行)を踏まえるが「松虫」に「待つ」が掛けられて、恋の心が強く打ち出ている。下句を工夫したいのと、声調を整えたい。「鳴らす」は他動詞なので「鳴く」とする、また「枯れ」を「離れ」と掛けて「夜もすがら声かれがれに松虫の我がごともごとや音にぞなきける」。

107
10
令和四年九月
仲秋
あめつちにひとしみちたる月あかり我が身ひとつを照らしもがな
月魄
「あめつち」ときていわば古代的な神の始点の上の句から、「我が身にひとつ」と焦点が一気に個人に移り変わるダイナミックな歌。古典的には「我が身ひとつの秋にはあらねど」とくるが、これが「我が身ひとつを照らしてほしい」というわがままというより切望感を強く感じる歌。やはり月には神秘的な力があるのだろうか。「ひとし」は「等し」だろうから、「等しく満ちぬ」が適切。「照らしもがな」だが「もがな」は用言にはつかないので「照らしてしなが」など。

「あめつちにひとしみちたる月あかり我が身ひとつを照らしもがな」

判者評:「あめつち」ときていわば古代的な神の始点の上の句から、「我が身にひとつ」と焦点が一気に個人に移り変わるダイナミックな歌。古典的には「我が身ひとつの秋にはあらねど」とくるが、これが「我が身ひとつを照らしてほしい」というわがままというより切望感を強く感じる歌。やはり月には神秘的な力があるのだろうか。「ひとし」は「等し」だろうから、「等しく満ちぬ」が適切。「照らしもがな」だが「もがな」は用言にはつかないので「照らしてしなが」など。

180
10
令和四年四月
三月尽
夢見草すがたとどめよとこしへに散るさくら花わが涙なり
月魄
着想は極めて美しいが、まとめきれていない印象。『夢見草』は桜の異名であるが、和歌では聞きなれない。下句に「さくら花」となり、歌病となりさけたい。桜は私の涙の直喩、姿とどめよとしたのも桜であり、言いたいことが名なくでない。例えば…「往く春を惜しむ涙のように花が散っている」とまとめればすっきりする。

「夢見草すがたとどめよとこしへに散るさくら花わが涙なり」

判者評:着想は極めて美しいが、まとめきれていない印象。『夢見草』は桜の異名であるが、和歌では聞きなれない。下句に「さくら花」となり、歌病となりさけたい。桜は私の涙の直喩、姿とどめよとしたのも桜であり、言いたいことが名なくでない。例えば…「往く春を惜しむ涙のように花が散っている」とまとめればすっきりする。

196
10
令和四年三月
春興
東風舞ひて枝につもりし白雪の打ち解け出づる紅梅の花
月魄
東風、白雪、紅梅と言葉の響きが美しい。とくに擬人化された東風舞ひが見どころなので、これを活かしたい。例えば…「春来れば雪にうもれしうめがえに花をとくべく東風ぞ舞ひける」

214
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令和四年二月
立春
春立ちて頬に落ちたる白雪の花紅染まりて咲きにけるかな
月魄
「花紅=かこう、はなべに?」つまり化粧のこと、化粧の色に咲いたということ。「花紅に染まり」と助詞を省かない。趣向は「花紅」にある、「花紅」といわずに、染まる色を提示したい。例えば…「佐保姫の紅深き頬にふれ白雪さへも色めきにけり」