ML玉葉集 冬上(令和元年十一月)

和歌所では、ML(メーリングリスト)で歌の交流をしています。花鳥風月の題詠や日常の写実歌など、ジャンル不問で気の向くままに歌を詠み交わしています。参加・退会は自由、どうぞお気軽にご参加ください。
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今月のピックアップ五首

「草も枯れ人目も枯るる庵なれどともしびやあり垣の山茶花」

「月哭きの雲居の風に身を晒し魂のたぎりの舞ふシギリージャ」

「霜を踏む音と聞きして目覚むれどただよひやみに風は荒びて」

「ひとしれず尽きぬ想ひの忍れど誰がかげやどる片割れの月」

「行末は霞みて淡き冬の虹いとどはかなし我が恋に似て」

今月の詠歌一覧

雨露や滑り落ちたる数ごとにくれないは増す庭のもみじば
葉の中に眠れる色や目を覚ます時やは告げる雨に揺られて
染め抜きぬ色のしらべもむばたまの夜ごと爪弾く糸のまにまに
目をさますさらさらさやけき秋の夜は明けゆくごとに色重ねつゝ
うつりゆくもみぢばにふるあましだりふゆのにほへるむばたまの夜に
にわのはに雨垂りかぞふ秋の夜につもりていろふこころばかさねむ
冥(くら)きよの惑う空にも雁が音の消ゆる彼方に星流れゆき
雁が音を待ちつゝをれば南溟に舟人おとす櫂の雫か
天人の舩路かくれゆく冬の空かな
碧(あお)になぎ蒼にたゆとうくれないの筆は波路の君の言の葉
しのぶらむ古き軒端にももしきのかげうかべてはおほぢごのほほ
ももしきのおほぢのほゝはきえざらめたかきたかきにうかぶ綿雲
ざらざらめもろてにたかきももしきのたかそらうかぶ綿の白雲
ざらざらめたかきたかきになど泣くかたかきにみせむ綿の白雲
すててこもすももももももももの色なれにけらしなももとせの色
秋の葉のたはむれ散るさま鮮やかにいつしか冬のけはひ立ちけり
星流れ願ひかけたる雁金の宵闇に消ゆよその玉梓
玉梓の星の使いに言問わばほのかに灯る冬のほたるは
ももしきは おのずからなる 色なれば 心せよかし駱駝のぬくみを
いにしへは 高きみくらの 人のみぞ 許され纏ふ 冬のももしき
ももづたふやそとものをのおもかげを白雲におふたかきそらかな
あかあかとさねひそめたりさなかづらこがらしわたる冬ざれののに
実葛さね(小夜)に言問ふ人もがな紅葉降りしく冬ざれの庭
冬枯れの垣にあかあかつばき咲く時の標(しるべ)の明かり灯りて
草も枯れ人目も枯るる庵(おり)なれどともしびやあり垣の山茶花
さなかづらあひみぬはてに冬はきてとほながきよにさまよひにけり
冬さればあひみぬはてのさなかづらとほながきよにさまよひてけり
霜枯れのとふひとぞなき山辺のみちにたゆたふにほひほのかに
さまよへば峰におひたるまつならで雪うづもれて君思ふらむ
冬まだき霜焼け赤き童(わらはべ)のあそびのさきに山茶花の花
やみのまのふしおれの戸はなかずしてなお鳴きやまぬ鹿の遠音は
鹿の音に笛を添ひたる敦盛の小枝むなしく秋尽きぬなり
籠鳥の空を恋(請)なる笛の音に定めのなき空帰雁の乱る
ほほをそめいへぢをあるくわらはべにゑみかへすごとさざんかの咲く
あるじなき須磨の小枝やしのぶらむとほねさしたるさをしかのねに
つるぎたつかたみなりしはかの笛のすく世に宿るひとさしの舞
秋の夜の望月さやか宵なれば垣根の山茶花月影に照る
月哭きの雲居の風に身を晒し魂のたぎりの舞ふシギリージャ
つきかげにほのかににほふさざんかのゑみしのばるるゐめのかよひぢ
かなしびをむねのほむらにうちくべてあめつちに哭く舞ひのあるやと
剣刀(つるぎたち)名におふ音こそしのばるれ夜前の陣に奏でし君と
五十年腰に取り佩くみつるぎの見つることなき一指しの夢
むつのみちの露とも知らぬ声だにも花やこよいの思いさだめし
いさとよと君が人差し舞ふならばげに五十とせは夢の御佩刀
いにしへの言葉を慕ふ歌人や明日はいかなる花咲かすらむ
舞へ舞へうたひとやまことに見事に舞ふたらば歌の園まであそばせむ
ひだまりの野辺によこたふ寒椿季(とき)の川面は御手のうつわに
奏でては今も生けらむ息の緒は篠より出づる青き言の葉
秋の葉の刈らずも風に吹き落ちて春には若き小枝見がほし
ひとのびし地を押し上げるみしみしと背比べをす霜の子供ら
霜を踏む音と聞きして目覚むれどただよひやみに風は荒びて
しらやみの吐息ほのめくしらぎくのむらさき染むるこえはしのびぬ
ふみ惑ふみちなき道の徒然に季(とき)の文よむ人は一葉に
はなもみぢいづれまさるとさだめかね秋空ながむやまとしうまし
夢路にも絶えて影なく郭公山並み慕ふ萩塚の峰
秋風にゆたけし華は山に燃え黙して誓ふふるさとここに
郷をえて幾重の眠りに根をおろしいつか開かむひと枝の花
桂影にひとりむかへばはるかなる越路の萩のゆれるばかりも
かへりこし我萩原にながむればふるき軒端にいでし月かも
月見ては千々に故郷おもひけれむかしをとこの軒端の泪
月やあらむ秋やむかしの秋ならぬもとのわかみをうらむべらなり
天つ空戸渡る月はかわらじの道灯すなり遠き古里
秋萩の軒端の影も水底の無明に詠う月になりけり
濁世にも忍の一字の種ひとつ魂のほむらは水底に燃ゆ
一滴の慈悲のしずくに観る夢の澄みゆくなみだ水脈のかなたへ
時みちて視えざる絲のことの葉をひとつひろひて道のしおりに
言の葉のこころは魂の鏡としうたひねがふは道のしるべに
誰がおきし黄金(こがね)の杯か冬枯れの野に降り積もる雪眺めんと
襟元をあわせる風に乗りし香いずこに咲きしさかづき花や
ひとしれず尽きぬ想ひの忍れど誰がかげやどる片割れの月
物憂げに浮かぶひと世の月影に問はずがたりの同行二人
月影のにほひたちゆく歌の音に澄みわたりゆくひとのこころも
白妙の野辺ゆく君の言の葉に誰置き残し金の盃
君が手に傾く金の杯ならば香るが儘に襟も開かむ
時しらず結ひのさかずき重ねつつにほふこがねに風花の舞ふ
花に染む心を捨てき冬の日にあなあな憎や水仙の花
天津より乙女が落とす五色布真冬の空を飾り消えゆく
行末は霞みて淡き冬の虹いとどはかなし我が恋に似て
見えずともなほや蔵せる五色かな結縁たのむ冬の青空
三十日月砧はとうに尽き果ててなれど今宵は涙絶えせぬ
透きとほる空の飛行機朝霜の白きをみれば冬立にけり

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