ML玉葉集 春部(如月)


短歌ではなく、伝統的な「和歌」を詠むことを目指す和歌所の歌会、
そのご参加者様の詠歌をご披露させていただきます。
※2018年2月はおよそ350首の歌が詠まれました

ご参加者様のほとんどが、和歌所の歌会で初めて歌詠みとなられています。
それでも素晴らしい歌が詠めるのは、無意識にも私たち日本人に「日本美のあるべき姿」が宿っているからです。
歴史に培われた日本文化とは本当に偉大です。

私たちと一緒に和歌の詠歌、贈答、唱和をしてみたい方、ぜひ歌会にご参加ください。
歌会・和歌教室

霞はれ姿あらわし春の月 赤らむ頬がいたくかはゆし
将月や春のはじめに歌詠て 相し笑みてば時じけめやも 
春川辺斎藻の花の何時も何時も 来ませわが友時じけめやも
勤め中頬を赤らむ春の月 闇に恋しき人を見ゆるか
名にしおば鳴きて天地の梅の花 咲かせこのとき告げよ鶯
冬よさり又の勤めて月白に 小野の浅茅生見えし君はも
笹の葉に降り積む雪や静静と 降ちゆくやもおもひ幽けし
かた待ちの鳴きそ侘らし鴬も 時よ来さらば答へ応らへむ
返し袖触ればひ香り歌留多歌 目止むる程の花の枢に
ニルヴァーナ西に行かむもこのとせは 沙羅もさくらも見るにつきなし
生しくも仏果具為に須らく 一切衆生なる悉有仏性
妙法も月氏の国へ西還す 是の如くを我は聞きけり
雲が照る満月のもと雪が降る 鬼は外ふと降る声末に
望月の押し照る雲や白祓ふ 鬼儺ひなる懇ごろに
あさも良ひ今日引く桃の手束弓 鬼遣らひなりまづ笑める君
鬼儺戌子お囃子鬼儺 白う降れりもけらけら聞ゆ
桃の弓今宵手に執り追儺せむ 夜去らむきざみ春は来にけり
月満る色さり易すき雪花よ 儺やらふ時や福や内へと
邪気祓い生まれかわりし人と世の 見据える先を照らす道筋
千早振る神は真白の衣掛け 春花描く時を待つかな
春立ちぬ花の蕾のほころびて 白く装へる雪や溶くらむ
雪解かば八重の白雲たなびきて 若菜野に見ゆ春の兆しと
春立つも吹く浦風に身は凍り 空の浮橋行くこともなく
東雲も朗ら朗らと明け行けば 梢垂氷も多磨に枝垂るる
良し然らば泪の池に身を為して 心の儘に春を宿さむ
麗らかに春の杯よ快く 数献に及びて鳴くや鶯
昨日こそ深雪こぞ見めいつの間に 朮が花野時なきものを
冬名残り顧り見やぬと今日よりは 阿呼の御楯に我は出で発つ
暮れて行く冬の留まりは知らねども 春とも知らぬ明けの白露
遠近に絶え絶え掛かる鶯の 声や長閑けし些群竹
なよ竹の弦打ち鳴らす寒柝に 惜しみ散ら捲し鴬啼くも
寝覚めして聞かぬを聞きて嬉しきは 雲雀揚げるや暁の声
去り難き空の通い路ゆき暮らし 路しの煩ひも割なきことと
神錆びる白け澄ませし秩父山 和歌の前舞ひ千早灑振る
す気なくも数寄数寄しい雪なれど 旧り難しくは松の景色よ
凄まじき物語にして見る人もなく 知々夫千早のともまつ雪深ゆ
倭より春よ恋ひ来し鶯も 黙すほどだに厳す寒けさ
鬼儺ふ犬子お囃子鬼儺ふ 白う降れりもけらけら聞こゆ
桃の弓今宵手に執り追儺せむ 刻み夜去らむ春は来にけり
月満る色さり易すき雪花よ 勇や儺やらふ福は内へと
なべて世の儚きことも新珠に 果てなほ奥方黄もつ平坂
関の山苦しかれとも越え行くや 常世春辺に咲耶木の花
徒然に他じ無ふ想ひ明かす仲 いつ問はましや君を縁と
笹の葉に降り積む雪や静々と 下ちゆくやもおもひ幽けし
かた待ちの鳴きそ侘らし鶯も 時よ来さらば答へ応らへむ
人言の虚ろひ易きはねず色 目白唄ふはことのは野唄
愛しきやし翁の地謡よおほほしき 片生ひなる子感けて居らむ
何為とか違ひは居らむ否も諾も 友の隨に我れも寄りなむ
恥忍び恥をも出して事も無く 風の香のさき我は吹きなむ
良しさらば泪の池に身を為して 心の儘に春を宿さむ
昨日こそ深雪こそ見めいつの間に 朮が花野時なきものを
冬名残り顧り見やぬと今日よりは 我は出で発つ阿呼の御楯に
茅ヶ崎や冬の今様晴海波 遊び戯れ掬びせむとや
一日毎一年毎の祥幸を いや益し益せと集ひ春来む
江ノ島や貝寄風来たる小春日に 立ち寄り賜ふ今し太刀帯く
報國の天聳り高き群竹よ 百重に千重に翠や翠
七重八重斎笹九重引き重ぬ 芽吹き春との彩や争ふ
仮初めに君恋ふること無かりせば かく歌を詠む日々は在りきや
梅東風や吹きて色益す紅梅に 君待ち難に声鳴き聴かそ
友詣り荏柄天神小春日に 心揃うふに柏手を打つ
神宮に巽の名持つ菖蒲あり 憂しにあらざる花を咲かせん
静か様 蒲葺くには未だしくも 何の文目か辰巳に非ず
皐月来ば鳴くも若やか時鳥 都巽の菖蒲も咲きなむ 
春の鳥外の面の水辺相見舞ふ 遊びせんともいとらうたしや
聴こえくる朗たし声に誘われて 花の色も香もいよよ増したる
真やね春の麗の天神に 唄や思へど時に非ずや
朝月夜誠然にこそ仄々と 川の更しな霧渡りけり
漫なる日の入り際を冬惜しみ 雪間を分けし蕗の薹萌ゆ
雪間より春の訪れ待ちわびる 蕗も木の芽も花も人をも
清らかな西のお国の薄雪草 マリアと私のお気に入りかな
寒の日の朝東風清か梅の香に 天神詣り柏手を打つ
小春日に荏柄天神友参り 柏を打ち手同じ心に
殊と鳴く目白や未だか梅惜しや 然なり然なりよ由しに此の頃
荏柄晴れ妹が笑まひを垣間見つ 袋雀か絲も愛しきや
梅東風よ何れ目白や此ちゐてこ 冬より皆帰り詣で来
いさや来む目白や目白参上る 春や来たちて君よ呼ばひぬ
派やりしや誘ふ標に目白かな 右手鶯片や柄長よ
目白二羽春陽荏柄の羽繕い 仲睦ましく君や恋しと
祥春の黄浅緑寄り添いて 互いを思ふ荏柄の夫婦
誘はれて梅に覚へず押し競べ 目白押しこそ春の荏柄や
小春日の梢花盛り目白押し 一羽啄ばみ一羽見守る
仮初めに君恋ふること無かりせば 斯く歌を詠む日々や在りきと
春鳥や鳴きそに鳴きそ今し鳴け 来とも行くとも春や早きに
思ひきや由無言を何時よりと 数ふばかりに為さむものとは
春鳥や鳴きそに鳴きそ由無こと 外の面の池に戯れ合ふとや
七重八重斎笹九重引き重ぬ 芽吹き春との色や争ふ
磐座に心心に群千鳥 絶たぬなりけれころからころく
言ノ葉や知る人ぞ知る敷島の し時を経つつも常葉彩榮ゆ
朝月夜真然にこそ仄々と 川の更しな霧渡りけり
笑みて待つ春の初めに隠しつつ 梅も含めり一目見に来ね
織りなした菖蒲襲を身に纏わば はれなる心地貴賤あらずや
翠雨中倭文思わせる菖蒲棚 誰かに着せん艶な衣を
さやけさな神の瞳を持つ少女 鞄開けては林檎差し出す
小夜中に閨の明かりを灯すれば 幼き姉妹睦みささやく
雪とかばこひぢなれよとあやめ待つ 色なき庭よりながむ春かな
優しきや白き手を伸べ渡しへは 薄紅に人こひ初めし
巽ゆく林檎香の様嘖嘖と 雪降り給へ為す由もがな
雪過ぎて紅真白の梅や咲く 我の季節ぞ時な流れそ
静か様菖蒲葺くには未だしく 何の文目も辰巳に非ず
薫風に倭文の苧環搔い繰りて ゆらに織りたる菖蒲襲を
小野野辺の宇治山颪辰巳吹く 色や紫襲や翠
わが庵は相模草叢艮に 政みへ天皇住める
鵲も庵を編みつつレガッタの 舳先に告ぐる春を待つらむ
村の子ら越へる焚き火をふみこへず 少女かよへる精霊のみち
御所縁の菖翁花よ相生に 百五十種々千五百の株
五月雨に何れ菖蒲か杜若 花菖蒲に引きぞ煩ふ
分くる術為む術知らに如何許 色や何も似たりや似たり
況んや寂滅為楽と聞こゆらば 竹植うる日や思ひ取りなむ
翠濃く都の護も厳しく 咲くを待ちつつ眞弓を引きつ
変はるとも如月易く連連に 遥遥来ぬる辰巳風かな
世の中は菖蒲に湧きし梅桜 道理合わずと言い腹たてる
八十八夜過ぎ巽盛りの時が来ば 宇治の茶傍に歌を詠まんや
陸奥や春の陽気に霞めとも 同から来ぬる雪の下草
雪深き陸奥深山花も芽も 睦み音を待つ雪の玉水
陸奥の玉水染める君が袖 花みだれ咲くしのぶもぢずり
乾の地朧月夜を待つ人あり 空の通い路春よとく着け
陸奥や春の陽気に霞めとも はら胞来ぬる雪の下草
水仙のかほりのせたる春風は 王の砦やみちのおくに
陸奥の大の谷々雪越して 砦も越せば作意声聴く
雪山を越えつる路や驚きぬ 言ノ葉冴えししのぶもちずり
雪溶けや偲びし気配春日野に 花の僅かに見えし君はも
我が袖の偲文字摺り揺蕩ふは 花も芽も香も黒し空にも
時知らず鹿の子斑らに雪降らば 黒鳥のもと白き波寄す
乾より春の藍風や舳先手繰 過ぎゆく方の返る浪かな
忘るなと待つは吾妻に都鳥 空ゆく月よ巡り逢ふまで
潮干なば又も君来む戌亥より 歌詠待たれつつ雪む睦月に
綴れ折るひとつの歌とみるもよく 細は色々詞の華ぞゑむ
小野に咲く大谷流る春の歌詠 陸奥を経て吾妻に降る
足引の凍の飛礫に衣擦り 陽戻り安く今は玉水
消残りの雪の白木に唄を聴く 橋のた本に我も寄りなむ
来めやとは思ふものかや冬然りぬ 春や花咲きはな唄遊ぶ
水仙のかほりのせたる春風は 王の砦やみちのおくにも
直行で十三時間の通い路に いづこで迷ふ春の足音
行く舟に消へてむすびて春の泡 流れて今朝は時追ひ越さむ
水仙のかほりたしかにゆけゆけと 軍楽隊のラッパ吹く音も
みだれ咲くは陸奥の花々鳥歌ふ 春待つ里はつぼみわずかに
春告げる声をあげるも地の梅や 未だ真白の衣仕立てり
さわらびの萌えたる里にみづながれ のんどは鳴りぬ春霞欲り
手に採らむやがて消え果つことこそに 春の薫りと伴に融かせむ
儚しや光に逢えて玉と消ゆ 梢先なる春の沫雪
うつろへる春告鳥のゆくさきは 桂を折りし人の枝かな
梅の枝に薄雪降らば鶯も いまだささなき逆春よ
いとをかし遠く空音に覚ゆるは 次第次第に唄声響む
陸奥花に乱れ染めしや春の彩 影見し水も里の花咲み
春浅く含み仄か薄色の 今萌え出づる闇のさ庭に
春今朝の初め知られぬ陽の光 蕾角ぐみ蒼く香れり
関を越え吾妻に下り春笑ふ 我頻鳴くや鳥の空音を
流し雛橋の袂に並べるは 旅の一座のをさなき瞳
春の巳の川門清瀬に戯るは 雛遊びに貝覆いかな
満座や並べや並べ押し競べ 鄙ぶる童らもいさ雛遊べ
六つ花も今や饅頭不束なり 興に入るはこの上無しと
諸声に鳴く鳥ともに可笑しけれ 流石然にこそ春と云へども 
樂や鳥の空音か屑歌よ 初子鳴き真似謳こそ詠ふ
古の蓋し遺則なる国樔歌や 口打ち仰ぎ咲ふものなり
雪折れの梢も知らぬ鶯や 何処を宿と君や問わまし
朝まだき泡き冬の日白霞 見えぬ空より残る色なく 
渡る日の尋ねる影も無き儘に 陽炎淡し暮るる冬枯れ
散り散りに日蔭を障ふる庭の声 我のみ聞こゆ風の音かな
雪したつ白き衣も斑に消ゆ 声や色づき春の灯火
栞撓る雪や降ちて迷い無く 羽根風吹きし月の桂に
今更の冬も粉々何となく 含みに触れる雪の優しき
淡雪や月の色なる薄色に 春の気配も寂しく思ふ
雲井まち溢れる春や霞立つ 欲りせしものや野んべの早蕨
つぶ餡を食ひてしまへばこしあんか 満場一致の饅頭会議
冬うらら今日は初子の若菜摘み 小松も引きぬ戌や寿祝く
びよびよと来鳴き響もし新珠に 神使の狗こ額手を当つ
獅子踊り冬に福撒く事初め 八重の花笑み尚芽出たきや
朔旦にゆき夜渡りて麦出る いと心深き青み足るやうに
朝に日にまた一渡瀬を歩みつつ 遺れ清水為歩きけるを
朝羽振る海朔旦に白鷺の 舞い散り降るる富士の風花
朔旦の召還す陽よ仄々に 若芽靭のけやけき寿
空様に白きを見れば鵲や 里の花笑み乃ち栄ゆ
金澤のハつの島々風あらた 凍て玻璃浪に茜潮染む
白栲の風の扇にうち靡く 舞う雪衣祥多かれと
天霧らひ降り来る雪の千歳歌 大和の里も清美華やぐ
久方の天伝ひ来る雪霜の 聞こえ降り積む君の歌声
さる晴れの寒の凍凪富士安く 顔装ふ言ふ由無しと
六浦に常世辺の様いや照りぬ 大和橘始じめて黄ばむ
あな嬉し寒さ忘れつ見合ひたり 春の設けの福良雀や
白枝につぶと添ひ居て傍もとに 福樂の雀いとら愛たしや
寒すずめ気を催して脹らかに 待つや明時春隣かな
風渡り籬下り居て紅鶸や 花はなくとも鳴くや初花
種々の日並み明け暮れ時じくも なほし見がほし里の花笑み
ひうひうとし季に音勝つ虎落笛 風颪様祈り来にけり
福々しあら樂初音里跳ねる 八百重繁ゆき歳新汰円
冬萌える夏枯れの草秘めし芽を 漫ろ寒しも日脚春方に
凪あひに松香も満ちて潟無くも 凍浦伝ふうち蕭やかに
朝津方なほ冴え還り冬襲 浅中次の海の花彩
冬凪に朝惑いしも明けばまた 越ゆべき浪の果てや春紅
荒磯の吹寄せ鳴らす北風も 何処行くらむ春方湊に
冬原野寒さ未だそこ風白し 稲麻竹葦野和の色の草
山清水温かふくむ春野辺に 凍ての泉も戦慄き澄みゆ
実千歳の花下照や大和美と 楉がちなる薫るは桃枝
珠光る風は白銀瑟瑟と とまる木立に咲耶六花
冬枯れのすぐれて闇し可惜夜や あらまほしきと降るる六花
凍ての朝ひま洩る風や閨に挿し 明かり仄かに霜衣見ゆ
松とりて三つの花咲く門飾り 常の浅陽に来む嬉しさよ
翁蒔く正月の花祥幸の 咲弥餅搗き益々白す
袖風にかるた歌詠囀らふ 独楽の雀や狗な吠えそね
雪や来む程ろ程ろに花や咲く 戌も駆けらば雀や円し
あら樂や鳴らし愉しむ冬遊び 折る枝の香り仄か霞ゆ
冬野駆け折る枝の角を求めゐぬ 大葉峰榛栞りせむとす
寒さしる野辺を遊びて玉織の 甍争ふ芹野繁みみに
山橘思ひ掛けぬを木の間より 片割れ刻に実や照を見む
木群縫ひ金風知らす夕映えに 香木気配は今日の山苞
帰り路に凍の土にも手を当つて 幾星霜夜思ひ索徊る
侘びつつも残り紅葉の真愛しさ 置きて行かばに憐れ冬の日
隈隈を認めずして朝ぼらけ 無聊託つ枯れし蟷螂
冬野辺は乾き砂子野霜衣 浅芽も眠る澄める鶴岡
喜多国に汐満ち来れば改たしき いやしけ吉事多はに田鶴鳴け
渡の辺に鶴の毛衣うち靡く  島の千歳和歌の前舞ふ
逃げ水野鶴の小祭り冬田圃 国見し給ふお製野歌かな
高しまに暮れや杣筆墨染の おほ深津疾る影や射干玉
橡の裾濃や匂ふ沫斑 白木明けし雪の高しま
雪乱し不為めきあへる人浪に 戦慄き事と思はざりしか
四方より吹き乱がはし六花の 音香も霞み宵も白じむ
銀や錫鳴りの舞ひ寒え響む 風流樂しみ家路忘るる
然すがに雪は降りつつ冬早り 花なき野辺に花や散りゆく
雪吹巻き消なば消ぬがに霞ゆく 冬方湊江や白き隨に
頻吹かば湊風寒え水鳥の 声はすれども雪にぞ消えゆ
冬ざれの雪よ散らせし入り湊 舟も鷗も色失せにけり
浪達ちて真白き風となりて翔ぶ 沖放け消ゆる百合鴎かな
里眠り月色濃しき索索と 垂雪舞ふ銀花金花と
見せばやな月影溢るこの浦に 厳し深き銀の冠
初の雪本の雫よ末の露 霧虹霞み影やひと星
雪に射す隣廚のあたり灯に 影や花笑み溶けぬうちにも
あお宙に都の巽三笠山 本や清正竜田川咲く 
変はるとも如月安く連連に 遥遥来ぬる辰巳風かな
豆煮ける粒粒鳴ると音聞けば 軒の玉水繁季春打つ
春為れば露の憐れを差し置いて 粒雪肴に一盃如何
漫ろなる酔ひの哀しびはる杯に 憂くもなまもの春や春にて
愚図なれば奇なり偶なり案に落つ やいやきせいややいやきせいや
樂や鳥の空音か屑歌よ 初子泣き真似謳こそ詠ふ
枝折れのも知らぬ鶯や 何処を宿と君や問わまし
淡雪や月の色なる薄色に 春の気配も淋しく思ふ
雲井まち溢れる春や霞立つ 辺り静けき野辺の早蕨
漫ろなる酔ひの哀しびはる杯に 憂くも生もの春や春にて
青山に梅花ひと枝残りたり 守り人ならば務め致せと
麗らかに春の杯よ快く 数献酌しや鳴くよ鶯
冬名残り顧り見やゆと今日よりは 我は出で発つ阿呼の御楯に
暮れてゆく冬の留まりは知らねども 春とも知らぬ明けの白露
飛梅や柏打つ人に心寄せ 幣にならんといよ咲きほこる
茜さす燃ゆと知りせば名残りなく 今宵ばかりの空のけしきは
遥々に汀に放つ光莉矢は 月弓の調べ里に降り来る
風かりて降りそほちつつ黄葉の 月夜の煇由に待ちてぞ
遥けしな仄かに見えし秋天馬 真砂蹴散らしたつ夜の霞
欹てつ音なふや無し宵闇の 音を譲りて星の瞬き
波祓ふ秋天津原進み征く 勇魚を連れつ帰帆の星夜
照らす浜見えつる星哉幾ばくの 遥か彼方の命有哉と
天海やさざめく浪の光莉花 真砂の星の浜に座すは
闇澄みし真砂の雫天空に 儒波窶玉に綴り多良締め
魚座二尾夜嵐に釣れて飛び跳ねつ 星浪白む北落師門
小夜更けて弥益益に玉かぎる 真さにこそ北辰の美よ
瀬戸の朝浪音囁鳴り東雲の 天路仰ぎて朝筒白む
有明けの海寄り吹きし時津風 偲ぶ音吹きし君へ帰すと
君偲び癒さまほしと詠綴り 細やかなれど一助なれば
薄浅き明けたる空に白き星 儚げにも見え凛々しくもあり
菅公の愛でたき花の数々は 今も昔の香に匂ひける
この春は降り積む雪や未だ深く 安宅の関よ如何に越えらむ
朔を奉く玉箒持ち神錆ぶる 宙夜清けみ払ふ影なし
神籬を建てて迎えし稲春に 古代の悲歌り掬ぶ蔭にて
冬夜さり天野神庫やありなれの 影花盛る常なりし影
こと永遠ぬ月欠け映す凍鑑 心いろ節そ処は水色
千早ふる神島弥経緯に 筬達ち馴らす蹣跚縞様
宜宜し年の初瀬夜影州浜 矢鱈の煜霞揺蕩ふ
咫ら夜に浪風弥箒星 赤青白のお弾き遊ふ
明る夜を今日か明日かと待つ妹に 涙の滝に瑆よ流るる
吉々利々夜星弾き清ます吉利々々世 くはや此処なれ千歳栄に
天に地星空綴り馴れ居てを 然る方可笑し大夫の歌
冬天よ雲も隠せぬ真砂には 緯き乱れ散る種々の色
浪響らば袖の羽根風西方に 連なり統べる星や入東ち
音高く鼓が星を打ち躬れば 冬天咲し不知火の煜よ
閧守りの打ちなす鼓星鳴るる 吉左右良しや春ぞ嬉しき
深き夜の白銀の月冴え弥る 咲華凍るきみか瑆りや
月高く空も治り冬めくも 通ふ天道や長閑澄みゆく
豊の歳知らさる星よ降りぬれば 里や銀白月真黄かな
穀年の五種瑞なる 雪み拵ふに為るぞ嬉しき
榮ゆく村野初穂や神籬に 君が千代なれ今日よりぞ作
雲峰や幾重解れし梯に 月の葛か春の夜の闇
春る夜の神の御隠天倉に 溢れ朔弥は真砂の悲歌り
諸星の新春の夜も賑わいて 豊の明かりに逢ふが樂しさ
相睨む源平星に睦まんと 伏して呼ばわる酔える翁や
霜月の毎夜現る星々の 光合ふたる濁りなき様
寒空に十二律の鐘の音 星玉響す釣鐘星夜
孟冬の天路に響く冬鼓 合戦するは源家と平家
真ほらしく星鏡たる源氏星 具して現る東の空に
けざやかな斎つの煌き平家星 意とかくしもや具し足らむとは
徒然に海と戯る酒升星 香り仄かに通ひたりしかば
雪ともに星霜降りし浅き冬 咲く光里花暁とき前に
射干玉の闇も色つく鴨頭草に 月競ろふは大犬の星
南の甍の上に玉響は 昴の真砂ほしき擅なり
愛しうす誓い連ねて二つ星 求めしほどに天の逍遥
焉んぞ昨夜忘れがひ雪星や 風花なりて里に降り咲く
神さぶる雲そ棚引く富士影に をかし見ゆれば夢の随に
定めなく進む海路知る辺なる 大き三角勇るなりとて
光陰の曉別つ空様に ひと世の巡りも仄か儚し
天野馬夜つゆも翔けらば山眠り 冬の星雲珠広み深け来ぬ
いまは未だ星芒き空を眺めつつ 降る煇待つひとり汀に
一つ星二つ星とに射出したり 照夜東この凍ての冬
射干玉の旗めく揚羽凍闇に 九品煇るは平氏星
名に追へる益荒男の星源の 冬の渾円吾妻に奉る
命芒き星々こそは大和歌 振ればかくとも光り玉響
心こそ瞳に映らねど心在り 萬言ノ葉歌に榮せし
常盤なる宜し神代ゆ明けしは 天の川瀬の遺れ清水
願はくは暫し闇路に安らひて 星を奉りて君をとぞ思ふ
夜ひと世おもしろき星遥々と 浄き直きに君呼び響む
随神慎闇に酔ふ射干玉の 天に座すはすべて星々
難波にも南の港かもめ舞い 窓越し見るは住之江の浜
おほぞらをあおぎみるがごと貫之の 世を思ふかな銀座の谷間
かもめゐる豊洲の空は晴れねども ともしびあらばうくこともなし
うかぬとも豊洲の次は晴海なる 空のあなたにカモメ呼び交ふ
かえりてもまだあくがれはつもりけり 心のこりのなにはなるらん
あこがれは置きてなゆきそ明日からは 隈なく晴れる難波なるらむ
逢坂の関を一度越えたれば 文の返りを待つも楽しき
飛梅が西風に乗せし古の 香り満ちるや野にも街にも
春告げる枝に止まりし夫婦鳥 街より香る梅に誘われ
春花の色も香りも盛りけり 今年の野辺や賑ははしきに
時越ゆる文とし肩におかるるや 摩耶の山ふる白き風花
閃きに歌のつばさは関も越ゆ レイテンシーすら東へ西へ
風花と紛う白梅降りにける 昔の香肩に残して
晦や梅の香りに驚かん 去年の春とは変わりし身かな
白銀を片敷く灘の山裾に 咲ける色見る花や灯りや
賑いに耳をすませど聴こえしは 緩やに流る酒造り歌
暗き海に導の灯り見出だせば 数多の蕾如何盛るや
東風吹かば詠いおこせよ梅の花 寒さつづけど香忘るな
世の中に絶えて梅の香なかりせば 春のはじめはいと味気なし
時巡り装い変える灘の山 白銀に薄桃翠に紅に
浜辺より港へ渡るカモメらも 人に問われん都のことを
知るらめや 春立ち匂ふ 花の色 そのひとひらに そめし心を
何処より薫るものとは知らねども 文をや好む花とこそしる
夜硯にただひとひらの梅の花 闇のありかをそことしるべく
夜毎なる文好む木に詠めばや 春の夜の香ぞ硯に充ちぬ
夜琴なる硯に充てる春の闇 まどろみするや文好む木も
八十畝の磯も轟に宇多垣か 花の見頃は春の桟敷に
記知らば千年の道も行き交える 標野で手振る王子も会ゆ
飛ぶ鳥や天の通ひ路行くなれば 東風吹きたると梅に知らせよ
穂早苗星み諸の種子や天の原 萌ゆるる花情普雨に悉せば
遠き日の若葉のころの雨宿り トロッコ漕げば遥か未来へ
衣更着や小筺に聴きぬ梅が香を 降りゆく春と相ひてとどめむ
ありあけの四方の湊ぞかすみゆく ことしも冬を送る頃かな

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