ML玉葉集 秋部(葉月)


短歌ではなく、伝統的な「和歌」を詠むことを目指す平成和歌所の歌会、
そのご参加者様の詠歌をご披露させていただきます。
※2018年8月はおよそ二百首の歌が詠まれました

ご参加者様のほとんどが、平成和歌所の歌会で初めて歌詠みとなられています。
それでも素晴らしい歌が詠めるのは、無意識にも私たち日本人に「日本美のあるべき姿」が宿っているからです。歴史に培われた日本文化とは本当に偉大です。
私たちと一緒に和歌の詠歌、贈答、唱和をしてみたい方、ぜひ歌会にご参加ください。
歌会・和歌教室

空響き水面に映す白菊の 華一時の色の清けさ
夏は今またたき闇に消ゆ花の 誰の瞼の奥に映らむ
空花の高くに咲きて目映くも 闇に散りゆく色のあはれや
夢よりもはかなき花のにほひこそ 目には留めね空の面影
星合の過ぎにし夜の瀬を踏めば 霧の渡りに光る白露
茜雲空のはたてに残る日の うつろふ影を流す秋風
鳴く虫の声も涼しき野をゆけば 想ひも過ぎぬ秋の夜の風
あめつちの心なぐさむ八百万の 地には言の葉はぐくまむかな
ときはまつまた逢うほどの 連ね歌にも
嵐吹くまつほの浦に雲別れ 昔の空の忘れかたみぞ
叔母叔父に夜尿症しかられ泣くこゑも 遠くなりつつ花火待つ朝
常なかりし唐詩のやうに花火尽くいまこのときを言の葉よりも
三伏の容赦の雲の傘のなか影を送りしちいちやんのゐて
山辺よりわきたつ雲のしろくづれ くものすぢ伸び淡きたかぞら
あせひきし肌のすずしさみだれ雲 ちぎれあらたに季はおとづる
おしろいの頬そつけなし秋の空
はかなくも尊きたまを白菊に きえゆくはなひ星のほたるひ
天地の青が育てし星の花 季うつろひて涙そらみつ
かはつらにもみぢかかえし龍田姫 万のおもひ錦染めらむ
天の原見ゆるは星か蛍火か おきまどわせる焔の白菊
秋立ちぬ 天の河原で 時待てば 声と紛ふや 笹鳴る音も
秋風に 乗りて駆けぬく 通ひ路を 雲の欠片に 想ひ残して
宵闇に舞うは蛍や一二片 迷ひ出たる我身の焔(ほむら)か
きら星の思ひ宿すや夏蛍 高く舞うらむ雲の果てまで
澄み渡る空に掛かるはかすみ雲 疾く過ぎし夏の忘れころもや
涼もとめあしをのばせし渓谷も 蜩なかぬ酷暑の晩夏
隅田川空を映して咲く花の たゆたいながら底に散りゆく
風にのりとどろき微かに耳を打つ 彼方の煌めき我にも見せんと
三伏に神楽の坂を登りせば無きを知るのは五十番かな
いくさはて君まちわびるふるさとの 越路の山は いかに青からん
山里に太鼓打つ手は秋の夜に 勝りもゆくか雨に濡れつつ
天空の茶園に建てる一座にて 秋のちかつく音をきくかな
砂を噛む戸車引けば蜘蛛の子の 散らす軒端の枯葉なるかな
たかきかな霞はらへる秋風に 澄み渡りたる都の大路
荒ましき夏を剥げたる暫し待て 山も火の点く片や夕暮れ
涼しやも残る熱た風は棚機の 絲を撓寄り秋に備ゑつ
ゑ果てぬ残る夏の陽照りながら 岩間を分くるゐわや洀
秋は来ぬ朝な夕なの一浪に 高き空にも漣の行く
消ゑ果てぬ暮れを来る陽は泡沫の 岩間を分くるゐわや洀
恙まひの胸痛き事目あたりに 顕しく染むる八月明ぼの
熱りを空の通ひ路押し込めて 野分も惑ふ葉月はじまる
朔日の家群燃ゆる陽炎に 厳しき夏の続き知りぬる
此の年の極熱に鳴く鳥の音は 一声もなく焼き尽くすほど
熱熱の夏野山道月立ちに そそきあへるに過ぎて行くやも
花ノ火は月の影にも通へばや 空に調べのすみ昇るらむ
吹く風の靡く下がり端逼くからに 爆ぜる火花は夏を知らする
千歳まで折りて見るべき火ノ花よ 星の林に咲き初めにけり
一つ咲き二つ三つ四つ五つ六 咲き並べたる葉月此の宵
音はして煙りと消ゆる花々の なほ色優る千種の燁り
光り咲く華は色々夏の夢 照しの影や見へみ見へずみ
一連の花の咲く音に見へなくも 知られぬ影も与と揺らげり
川辺ゆく鴨の羽風もはつはつに まづ影にほふ雁来月夜に
且つ見つゝ影はなれゆく夏空の かく数ならぬ葉月陽炎
馴れゆくも烟りか雲か真鱈音に 打ちしだかれて色新しき
招きとめつなぎ留めて燁り咲く 道も行かさぬほども知らずに
花の音はむべ夏空に似合ふもの 真澄鏡は色も惹かれて
暑き夜の熱る火花行く夏の 水面に写る影ぞ短かき
乱れあふ花より花に咲き散るは 捨てゝ幾重の跡の白雲
移りゆく雲に花火の色を見ては 光りは塵と星の屑なる
花誘ふ名残りを雲に吹きとめて 暫しはにほへ可惜夏ノ風
影とめし花の宿りを思ひ出で 雲に跡問ふ穂張り月夜に
影花に現の憂きも忘られて 思ひ慰さむ宵の儚さ
嘆くらむ心を空に見てしがな 花の一つに身をやなさまし
落花を幾たび眺め過ぎにしは 物思ふことも身に積もるらむ
何となく空に昔ぞ偲ばるゝ 火花の芳る風過ぐる夜は
面影は小暗き空に見ゆれども 花に月待つ巷幻
咲ゐて散る夢のかよひ路消ゑねただ 残る心の跡もなきまで
燕去り雁来る月の頃なれば 昨日の夏から今日の秋知る
然らぬだに来る夜と聞けど音も無し 折りしも風止み初秋ノ月
秋月の降らす雲なき靚闇に 淋しく人を思ふ頃かな
訪ねつる人は家路も忘られて 照りしをれたる月の山本
跡をだに月の僅かに見てしかな 結ぶばかりのほど為らずとも
押し込めて夏の哀れと沈むれば 麓の里の月影の底
中空にかごやかにある薄影は 今や空蝉身をぞ知りぬる
かきつらぬ寝覚めの風は心地良き ともに私語朝な朝なに
雪残る春の枝に逢ふ薄衣 なほ一入に緑優るは
青やかな花も知らずの双葉なる 心一つの風に遊べば
春鳥と風に戯れ語りせば 黴雨に傘して夏を樂む
帰り来ぬ昔を今と思ひ寝の 夢の枕に散るる秋ノ光
悔ゆれども取り返さるゝ事ならば 君はわが身の限りと思ふに
射干玉の黒髪濫る多磨の川 今更むせぶ宵の村雨
来し方を思ひ思へば微睡ろまぬ うつし留めよ黒髪の露
珠露に光射しそふ秋の夜は 木の間の月ぞ羨まれぬるに
露の身の消へぬも悲し此れや夢 朝諸ともに透となりせば
夏秋と移ろひ果てゝ深みゆく 思ひ分かでも過ぎぬべきかな
葉隠れに散りとどまれる葉もあれば 忍びし儘に散る葉も一つ
長からむ命もしらず白みゆく 秋の暁月誰よいとしむ
此処もとの浅きことなる秋の今朝 風の姿も水の心も
一聲は思ひなしかと眺めやる 野辺の何処ぞ小男鹿の鳴く
人は来で隈もなき朝明けぬるに 秋の山見て青の色知る
里は未だ知らざりけりな秋の夜の 木の間の月は僅かにぞ見ゆ
思ひやる桂の月のはつ風に 深くなりゆく秋の憐れを
辛かりし折の一言忘られね 草の枕に過ぎぬ秋風
宵になく茅蜩降らす時雨かな 今や空蝉身をぞ知りぬる
月影の梢に揺るゝ葉の色は 秋を覚へぬ残す夏かな
嘆きつゝ想ひを辿る秋夜長 如何に久しきものとかを知る
何事も昔語りに為りゆけば 葉の一つなど色や変われる
春の枝の雪の衣の若葉めは なほ一入に緑の優る
浅緑若葉の頃の連なりは 花より優る色に私語
二葉よりあさき色分く露もなき ともに青しく玲瓏に揺るゝ
若葉舞ふ春を歌ひて夏を過ぐ 秋に語りて冬睦しくと
萩の咲く秋を待たずにうらぶるは 雁も鳴かねば葉尽きあらむに
悔ゆれども取り返さるゝ一言を 君はわが身の限りと言へば
おきし手の心凄しき背の君を 覚めし現を誰が惜しまぬ
泪すら枯れて秋なる山里に 一つ聞ゆる小男鹿の鳴く
知られじな野辺より山に入る鹿の 紅葉も踏まず聲のなきゆく
蟬時雨色とかけきや今更の 心の奥に染むる紅葉ば
憂しと泣く風にぞ軈て誘はるゝ 散るゝ紅葉を慕ふ心は
はらはらと止まる枝もなき落ち葉なれ 違はぬ秋を訪れて行く
ゐとほしや風も涼しきなる儘に 虫なく聲の秋深き夜に
夏か秋影も光も朧なる 思ひ分かでも過ぎぬべきかな
沢渡り衣を過ぐる薄風は 肌の冷たき今朝の秋かな
憂き白むものとも見へぬ暁月に 色のなき風一つ葉の散る
古の通ふ言伝て忘れ貝 浅くも見ゆる影は日ひと日
暇間なき照る陽に翳す手を暈に 今日も暮らしつ明日も暮らしつ
葉の月の涼む木陰を尋ねれば 来る秋風の住処なりけり
転寝に覚めてしる時夕立の 涼しく澄める錫の音の良さ
秋色にまだ染めざりし葉の振れる 初めにかへすは衣替えかな
入日差す夏を扱き入る蜩の 聲は吹かれて空にのみする
夕影に暑さ残すも空高み 少し秋なる心地こそすれ
山も狭に夕暮れ咲ける紅は 未だしきほどの紅葉なりける
営みの暮らしかぬ日に呻ふも 昔の人の綾の影踏み
一を足す積もらぬ雪の影踏みも 水引く風は清やの一線
今日もまた夕日になりぬ月見月 移り止まらぬ風の気色も
風戦く室の八島の夕煙り 日を暮らしゆき一つ夏過ぐ
日一日を安きさまねき虫の鳴く 二夜の月と人は言ひける
送南風追ひつ追われつ秋の口 行くかとみれば返る夏かな
吹き離くる人目乏しみ黍嵐 長月を待つ葉月過ぐ頃
百日紅秋をも知らで散る花の 見らく空くなき今朝の涼しさ
明日をさへ頼まぬ風は次々に 今日もひと波有りて行くとも
何そ此の夏の終わりの煽風 季寄せ云ふとも驚くばかり
秋逼る野分けに野分け風の先 瀬々飛ぶ珠の転び聲する
野分け立ち軋ろふ音は行方無く 翌の在り処は明日も定めむ
色取りの颶風過ぎて蟬の鳴く 木々の梢は未だ綺無し
颱風の跡こそ見へね山影に 見へし青葉も何か嘆かむ
青々や青々青々や青々や 青々青々青々や青々青々か山
耐へてなほあらじ思へど暑かはし 慣るれば慣るゝ慣るゝ他無し
青々や青々青々や青々や 青々青々青々や青々青々の空
見る度に思ひぞ優る空色の 心あるにも心なきにも
返り来て汗もしとどに夏名残り 水も濁れる澄まぬ日なれば
暑けくに汗かきなげて嘯くは 今暫くの葉月頃ほひ
秋知らで熟れたし空に暴の 風来ば破れむ鐵床の雲
過たず鉄床毀つ霹靂神 光り閃き甚く鳴るらし
叢雨の白浪ばかり放らかす 風暴に做るものと知る
雨まさる熱せば返す夕方の 憂きに留まりて水浸く儘なる
暑き日をなほや残してすぐ湿気る 如何なれば吹く秋の初風
山伝ひ夕立映る風先に 幽かに聞ゆ茅蜩の鳴く
道奥を木の間木の間に皈り見て 目に見ぬ聲も吹かれてぞ行く
盆送り茅蜩も鳴き虫も鳴き 秋の感けは塵ばかりほど
終日に甚だ悪しき風雲は 夕影も無く釣瓶落としか
探るは夕暮れ何処暗かりし 更くる此の夜は翌の秋なる
さてもまた忍ばむとこそ思ひつれ たが額より三十日汗あゆ
ゐかにせむ葉月の晦日過ぎにしを 昨日に思へば今日も暮れぬる
三十日暮れ当たりも温く風過ぎて 何時とも分かず秋の夜の闇
久方の朝鳥の鳴く菊月や 雲の閉ざしき明方の空
惜しまれし夏の空色於母影は 菊の開く月二百十日目に
夏草の茂みが下の埋もれ聲 あるにもあらぬ朧月夜に
端たなふ漫ろびたるや草蔭の 埋もれ甚しき鈴虫の鳴く
帰り路にひとり聴く夜の蟲ノ言 過ぎぬ暑さは年の可笑しき
音も無くまだ山越えぬ雷の 狭間に聞こゆ秋の唄声
此れや此の涼しき風を友にする 秋を慕ひて唄ふ錫蟲
橆りあふ雲の居る月吹きわけて 風の入れたる鈴虫の聲
幼き頃の小さし願ひ事 たが為故に殊は次第に
神掛けて誰も誰もが見ず知らに 累ね続けむ過ぎぬ詐り
皆人は紛ひ惑ひて皆となる 迷ひの空に黒き鳥発つ
なま暗き黒鳥弄ず荒空に 間も落ちぬべう奈落の底へ
一羽ゆく冥き通ひ路足手影 恰も似るか轡に踠く
面繫に塞ぎ苦しき鳴く聲の 累ね枯らすか尾羽打ち枯らすに
鳥の飛ぶ習ひは倣ひ鳴き唄ふ 生に家無し死に墓無しと
仰のけに落ちて鳴きけり黒鳥の 眺めの空は海の水底
遠き空夕陽の跡の端切れ雲 ゆくとも見ゑぬ鳥の一行
幼き小々の願ひは羽広げ 白浪に乗り秋の峯ゆく
貴やかに秋空をゆく白鳥は 幽玄に入る姿そのもの
暮れ逢へず今さし昇る白月の 彼方に高く水浸く翼は
影のなき空の世界や如何ばかり 飛べぬ鳥とは其の物とも無し
空昇り朝な夕なの陽の光り 姿染めしか黒鳥の羽根
眺むれば辺りは夜の帳降り 黒に染め来る闇よの世界
闇に見る水面に映る黒ゐ鳥 戸惑ひ累ぬ探る朝を
暗闇の羽切る風に爆ず多磨水は 心細くに水鶏のたたく
仰ぎ見しひとみ空色今更の 黒き眼は涙に暗るゝ
憧るゝ朝はなき世の浮き舟は 千切れた羽根も花の散り屑
茜草射す刹那に括る一面を 空も焼きあぐ泪色為る
遠き聴く秋の所縁の紅葉かな 朱き空より君が袖振る
かばかりの羽を累ねて秋空を 翔け鳥遊ぶ又はえしもや
暁に此の身焦がして黒鳥は 埋み火の果て塵灰と消ゆ