ML玉葉集 冬中(令和二年十二月)

令和和歌所では、ML(メーリングリスト)で歌の交流をしています。花鳥風月の題詠や日常の写実歌など、ジャンル不問で気の向くままに歌を詠み交わしています。参加・退会は自由、どうぞお気軽にご参加ください。

→「歌詠みメーリングリスト(参加&退会)

今月のピックアップ十首

われをのみ頼みと生くる人ありて生かさるる身のけふをぞ生くる
雲の上はいかなる春のさかりにか雪の花散る冬のあけぼの
昨日を思ふ色もひとつに白雪のなべてふりゆく冬の山里
見し秋の名残の木の葉散るまゝに色々になる四方の言の葉
百千鳥さへづる空に誘はれてうちとけてゆく和歌の浦波
風さむみよそなる春を思ひ寝の夢にむすべる霜の下草
雪のうちもゆきなやまじな宝船ながれてやはき年の瀬なれば
明けぬるを知りつも深き宵闇の帳よりもれる明けの光よ
さ庭べの葉擦れの音のかそけきに風の在り処を見つる冬暮れ
冬もなほ草の原より出づるかなあきの色とふむさしのゝ月
しぐれつるもみぢの里も冬くれば風白妙に木々を染めつゝ

今月の詠歌一覧

【虹蔵不見(にじかくれてみえず)】
うすいろの橋はいずこにかかりしや霧雨やふる空をながめて
あらわるとおもひ待ちわぶ冬の虹ひとめもかれる軒端にありて
奥山に虹の在処を訪ひ往けば五色を蔵す錦なるらむ
神渡る七つの光架け橋は天空と大地人との絆
おぼえにもなほ新しき二重虹あめつち結ぶ緒と見えしかも
花籠にあとかたもなき夏つばき軒端にのぼる月こそ籠まめ
【いよいよ師走ですね】
年ごとに小さくなりゆく伯母の背に幾星霜の浮きつ沈みつ
われをのみ頼みと生くる人ありて生かさるる身のけふをぞ生くる
今日もまたなにげにすぎる毎日に生かさるる身の喜びを知る
【猫の寝息】
揺れまどふ世の片すみの片時の安きを刻む猫の寝息よ
寝入りばな猫の重きに艫綱をとかれただよふ夢の浮き舟
猫寝ね子猫の眼の寝猫ネコの子にゃにゃのにゃにゃネコあくびかな
【真冬の月」
鼓もて下天の内をくらぶるかしじま奏づる真冬の月よ
天鼓打つ冴え冴えわたる月の夜にはらえたまえと天地こだます
いたづらにこゞる葉多く積もれども只見てくらす月ぞ少なき
【芋虫の菜葉】
芋虫を庭にはなてば困らうて菜葉一枚得めや寒かろ
寒かろて玉菜布団ヲ掛け童芋虫いのち愛しむ美し
吹く風に興津白波震えなば玉鳴る如く詠じたまふや
【初めまして】
宵闇に閃く梢導くを行かば真木の戸いま開くらむ
げにやげに開く真木の戸うたひとの訪れ嬉し冬の宵かな
宵闇に真木の枢を推し往けば言敷く島に明くる東雲
よひやみにまきのとぼそをおしゆけばことしくしまにあくるしのゝめ
宵闇に君のこしゆく真木の戸にうちもねなゝむ夢の関守
宵闇の家は避くべし山猫の注文多し店もこそあれ
宵の月敲きし門のともしびに立つ影さしていざたづねなむ
ふることは汲みても尽きぬ泉かないつみきとても身をば映さむ
宵闇に真木の戸推して往く人の跡訪ふみちは錦なるらむ
宵の月恋しき君とふたたびに眺めて酔いし冬の泉よ
【恋希求歌】
飽かなくに立ちにけるやも春霞我にだに長くあらましこの夜
あらましの熱き今宵がいつまでも求め願わん天狼星に
【橘始黃(たちばなはじめてきばむ)】
古に常世の地よりきたる灯は憂しやみちぬるこの世てらして
万葉の祈りを灯す献燈会盃に月橘の夢
みに染まる色もありけり橘の昔語りの人を思へば
【朔風払葉】
おもふ人の言(こと)やいずこにまがふらむ天よりふりしあまたの文に
きこえけむ駆ける小僧の笑い声つむじ風吹き木の葉は舞いて
冬連れて吹く木枯らしにこたうるは炉辺よりきく松の風かな
九天に沙の數を盡くすとも逢ふことかたき世にはあるかな
松風にふと振り向けば君がいる黄昏時の夕闇の中
ここのえの九天仰ぎて九地を見る回れ巡れよ九天の星よ
うらみても人は絶えなむ知りながらそれでもまつの風のみぞ吹く
松風や吹きすさびけり須磨の浦の潮干をありく人や恋しき
有明の月まつまでになりにけりいなばの山を人ぞ越えなむ
【山眠る】
昏き世に春のかぎろひ立つまでを山はゆるりと寝ねて待つらむ
いねてまつ山にはあれど妹あれば春かぎろひのたつやまたれる
山笑い夏山威張る山淋しいろいろあってそろそろ眠ろ
【暮達磨】
あがないて赤きだるまのめに墨をきぐあんはてなくさて年暮れん
達磨さん転んで泣いた目に墨を入れたら笑ろたこけたら立つんや
達磨たる人も見たるや年の瀬の墨ぞ滴る顔の丸々
稚児歩き達磨転べば時とまれど立ちたる数の吉事ありなむ
一切は空に夢想に無願にて返す歌なく手も足も出ず
【橘の夢】
時軸の扉を開ける香具木の実橘の夢時を流るる
【和歌所のみなさま】
白妙の瑠璃に浮かぶは雪蛍市松なる伝言艶にしと思へば
再来はいつかと覚ゆ八雲立つ出雲の里に雪は降りけ
雲の上はいかなる春のさかりにか雪の花散る冬のあけぼの
【吉備の中山】
うすき雲はだきて冴ゆる冬晴れの吉備の中山おだしく暮れよ
今日や誰はだれの山を越ゆるかな吉備の中山、冬晴れにけり
【朽ち葉】
払へども払へどもなほ降りかかる離れし面影のせて朽ち葉は
諸人よ今ぞ踏みつる土くれは昨日の錦、色の果てなり
錦とて今は朽果て土なれば時の巡りて双葉の芽生吹く
昨日を思ふ色もひとつに白雪のなべてふりゆく冬の山里
見し秋の名残の木の葉散るまゝに色々になる四方の言の葉
いそとせをのさばりけらし歳の暮なほ度し難き身にはあるかな
透明の秋空の下くありんの木実の朽ち落つる音ぞかなしき
【閉塞成冬(そらさむくふゆとなる)】
冬空をおおいし袖や薄墨の嘆くわれらを袂に寄せて
真白なる裾をひろげし山々やいかに染めなむ春きたりなば
空閉じて草も心も凍るらむかれて虚しき冬の山里
空閉じて草も心も凍れどもやがて晴れにし春の曙
冬の朝吐く息白し冴え冴えと朝日のぼれる陽も凍て眩し
冬の朝つとめて鳥の啼く声に鵠(クグイ)かぶりし冬の冴え空
冬闇を裂けて見えつる曙はむべ新しき歌のともがら
たまかぎる冬天塞ぐ雲間よりこがね散り敷く葉山海波
冬空に手を携えて往く闇の裂けて見つくる歌の曙
闇深き心の奥も照らさなむ氷をみがく冬のあけぼの
惜しまずよあらたしき友もふる友も跡をつけつる庭の初雪
百千鳥さへづる空に誘はれてうちとけてゆく和歌の浦波
かれがれに見えし野原も朝な朝な音なふ影は絶えせぬものを
風さむみよそなる春を思ひ寝の夢にむすべる霜の下草
空はなほゆきげの雲のさゆれども少し春ある和歌の浦風
【雪の両国橋】
年の瀬やいまだ待たるる宝船今年こそ射れ一矢の夢よ
ほのぼのと夢にぞみつる宝船ゆく年の瀬の波のうたかた
雪のうちもゆきなやまじな宝船ながれてやはき年の瀬なれば
宝船宝舟乗せ風を待ち年の瀬潮瀬流れ別れ目
宝船夢に扇はひらめくかいざよっぴいてひょうと放たむ
内蔵助九寸五分は形見とて剣に込めしは無念の思い
かくすればかくなるものと知りながらやむにやまれぬ田舎侍
雪月花たをやめぶりの歌あわあせますらおぶりでばちがひに
剣大刀いよよ研ぐべし国捨てて心は捨じ赤穂侍
【冬至(とうじ)】
明けぬるを知りつも深き宵闇の帳よりもれる明けの光よ
【熊蟄穴(くまあなにこもる)・鱖魚群(さけのうおむらがる)】
春花を見つけたりしか夢の中鼻鳴らしける穴倉のなか
巣籠りの熊の心地やかくあらむ炬燵に伏してうたた寝る夜
そびえ立つ巌の上に里やあり産まれの音の水は流れて
空の色風荒ぶ音水の香何を便りに魚は帰らん
蝦夷地にて鮭を咥える熊土産耳をすませば渓流の音
【ポインセチア】
冬されば人恋しくもなりにけりポインセチアの色に焦がれて
くさのいろもあかきともしひおくらやまふもとのもみのしたにてりつつ
雪空に鈴を鳴らして赤鼻がシャンシャン歩む赤花の道
【無の無】
一切は無とはいかでかしらむとて飛花落葉のうつろいを賦し
うつろいに映る心の影を見て諸行無常のことわりを知る
行く道に南無と言(い)へども塵積る悟りの末は無もなくにけり
花散るは世の理(ことわり)と思ふべし季節(とき)が巡るは無常の心らむ
【おほつごもりもせまりて】
残り無き日数も無くて侘びしきは果しもあへぬ数ぞまされる
あらたまる歳に期待のおおつごもり指をかぞえてワクワクワクと
えゝでんなぁわては指をりあといくつこなすしごとの数もへらずて
ゆきづまるときこそおよび折りかぞえうたよむひとはこゝろおだしく
あといくつ歳を重ねて口減らず知恵を磨きてシャッキリ生きる
【乃東生(なつかれくさしょうず)】
ぬばたまの闇の幕をば落ちにけるなつかれつぼの矢は放たれて
おひさまの力を少し頂かん湯気もうもうに浮かぶ柚子かな
むばたまの幕もおちぬと遠矢懸けなつかれ草に春こゝろかな
ねがはくばわれもちからをえてしがな湯気たちかくす柚子たべをとめ
湯気の間に浮かぶこがねの光得て歳に凝る身もほぐれゆくかな
憂き心かたへに置きて年の瀬をまづ越さむとてひと日を過ごす
心憂しうつりやまひで歳が暮れただ凡庸な日々待ちあぐむ
【甍の天】
黄葉がちにありしもいつか甍の天透く方遠き春やまたれる
一服のお茶の香りと御法の声が湧きて流れる泉川かな
【つひにゆく道】
花みてもうつろふものと見えざるにけふぞわかれの春はかなしき
さかりゆく時をしらすや鳴く汝も夏山埋む雲もさかりて
音もなく降り来る雪に汝を呼べど払ふ間もなく闇の降り積む
ゆき暮れて誰も問ひ来ぬ山里に折れ伏す竹の音のみぞする
暦なき奥山深く入り来れば只蒼天に時を忘れむ
御陵の裳すそをまもる竹林に風の住まふかささめきやまず
雪の蹂むなよ竹さへも花宿し日月のかげを百代あびね
君ゆきていよゝ襞なき世とはなり五十とせのちのプラザの噴水
【冬暮れ】
さ庭べの葉擦れの音のかそけきに風の在り処を見つる冬暮れ
冬枯れの枝に吹き添ふ風のまにまだきうつろふ花の白雪
聞こえ来るかそけき葉擦れ風冴ゆる心澄ませて訪れを待つ
【吉備の里より】
深々とたたずむ吉備の里山に風をまとひて神わたりけり
水攻めの史跡にはるか眺むれば宗治公の念の風立つ
世を分かつ風はいづこへ与するや松かげにこそ残る人あれ
清水の名こそ流れて聞こえけれひとしくあらむ高松の苔
まがねふく吉備の山風ふきわたりいにしへびとも神もふりむく
ときはなる吉備の松風吹くからにいにしへびとの世ぞしのばるる
天つ風晴れの国より吹くからにさやけさまさるあきの月かな
高松も松山もある城の名にいづこに吉備の里かとぞ思ふ
あはれ昔いかにまがねを吹きそめて吉備を刀の里になしけむ
いにしへの戦のあとを伝ふるはひとり苔むす歌碑にのみあり
玉の緒の継ぎてしあればおもひだすこともあらめや吉備のいしぶみ
碑に刻みし跡をながむればありし世音にさやかなるかな
安芸の旅しのぶる今ぞもみぢ葉のちへにももへにもゆる宮島
まがねふく吉備の黒媛ミソサザイ鳴き声すれば愛し袖濡れ
冬もなほ草の原より出づるかなあきの色とふむさしのゝ月
【天王寺五重塔跡】
秋暮れて木の葉を払ふ人もなし誰や知るらむ露の名残を
人訪はぬ露の名残に吹く嵐ひとり木の葉をうち払ひつつ
西門に夕陽の沈む黄昏に誰そ彼そが巡り会う時
さらでだに人こがらしにしぐるれば木の葉のゝちに袖や朽ちなむ
こがらしの風きほふらむ木の下はもみぢの錦きてぞ見るべき
しぐれつるもみぢの里も冬くれば風白妙に木々を染めつゝ
【晦の月】
つごもりにつきみあぐればみちみちて新し年のまろくあらむと
何事もなきかのごとく冴ゆる月とおく仰ぎて待つやあけぼの
むばたまのそこゐもしれず匙させばこれぞうれしや白玉善哉
さじさして玉のまろきを覗くなら昇る日のごと長閑け善き哉
【麋角解(さわしかのつのおつる)】
年越しつ冬にふたたびまみえんと山に消えゆく枝なき鹿や
彼方(おちかた)の旅より戻る九の麋角も落として一休みかな

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