年月をまつにひかれてふる人にけふうくひすの初音きかせよ(明石の君)

初音といえばミクだろう、まったく同意する。しかし、こと古典に至っては違うものを連想しなければならない。それが源氏物語で詠まれたこの「うぐいすの初音」歌である。春を心待ちにする歌の裏に、出自の貧しさゆえに実の娘に合うことができない(年月を待つ)母親の、せめて声だけでも聞かせてほしい(初音聞かせよ)という切望が込められている。源氏物語第二十三はこの世の春を謳歌する、光る君とは名ばかりのオッサンの嫌らしさで溢れているが、この歌によって情趣を保っている。

(日めくりめく一首)

いづる日のおなじひかりによもの海のなみにもけふや春はたつらむ(藤原定家)

なるほど、凡作である。波と春が「立つ」という、“立春歌あるある”で構成された、ほとんど見どころがない歌である。しかしこの歌の作者はだれあろう、かの藤原定家卿なのだ。所収は初学百首、御大二十歳の作とはいえ、後の巧みな狂言綺語を思うとすこし肩透かしをくらった気持ちになる。しかし一方、私たち俗歌人には一筋の希望となる。天才は一日に成らずということだ。

「日めくりめく一首」

ふる雪のみのしろころもうちきつつ春きにけりとおどろかれぬる(藤原敏行)

後撰和歌集の一番歌である。まず思うのが、華の一番歌をなぜに敏行が? である。私のつたない古典知識では、彼の歌人としての実績がさほど思いあたらない。だいたい「おどろかれぬる」なんていう、便利な言葉をを安易につかいまくってる印象の人なのである。おっと言い過ぎた。さて詞書によると、「正月一日、二条の后の宮にて白きおほ袿をたまはりて」とある。自慢ばなしの歌なのだろうか? いや、「みのしろころも」は「蓑代衣」を掛けていると思われる。そうなると「わが衣手に…」的な抒情の歌になる。

「日めくりめく一首」

あたらしき年のはじめにかくしこそ千歳をかねてたのしきをつめ(よみ人知らず)

お正月の歌である。なんで今の時期にといえば、今日が旧暦の元日であるからである。古今集の大歌所御歌であるが、「千歳」なんて気の利いたことばさえ知っていれば小学生でも詠めそうな歌である。ちなみに「たのしき」には(楽しき)と(木)が掛かっている。だから「つむ(積む)」なのだ。そう聞くと私はどうしても積み木あそびなんかを思い浮かべてしまうもので、よけい幼稚に思えてしまう。これは短歌形式を取っているが、歌謡として評価されたのであろう。声にだしてみると「カ行」のアクセントが歯切れよく、晴れやかで心地よい。

「日めくりめく一首」

年のうちに春はきにけりひととせを去年とやいはむ今年とやいはむ(在原元方)

初代勅撰和歌集「古今和歌集」の巻頭を飾る歌である。もしこれが歌集を象徴するその位置になければ、古今集いや古典和歌はもう少し輝きを残していたかもしれない。
『まだ年内なのに、もう春が来た。この一年を去年というべきか今年といべきか』。歌の内容はいわゆる「年内立春」であるが、まずこれが新暦を使う明治以後の近現代人には親しめない。そして歌の内容、まったく無趣味ではないか! 子規でなくともこう言いたくなる※。大抵の人が2ページ目を開くことなく、無関心になるだろう。だがそれでも、貫之はやらなければならなかった。これは宣言なのだ! 和歌(大和歌)は時の移ろいに心を寄せたものなのだと。
ちなみに今日は旧暦の12月30日(大晦日)、年のうちに春(立春)は来にけりである。

※「先づ古今集といふ書を取りて第一枚を開くと直に『去年こぞとやいはん今年とやいはん』といふ歌が出て来る実に呆れ返つた無趣味の歌に有之候。」(再び歌よみに与ふる書)

(日めくりめく一首)

ML玉葉集 冬部(睦月)

和歌所では、ML(メーリングリスト)で詠歌の交流を行なっています。
花鳥風月の題詠や日常の写実歌など、ジャンル不問で気の向くままに歌を詠んでいます。
参加・退会は自由です、どうぞお気軽にご参加ください。
→「歌詠みメーリングリスト

今月のピックアップ三首

「鶴岡の坂を見あぐる大鳥居揺り動かして人登り来ぬ」
「みんなみに草枕する双子なる片割もがな月餅食めり」
「初釜に一重白練り四睡の妙障子のうちに古春尋ねむ」
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平成最後となった、平成31年の歌会始の儀

本日(1/16)新年恒例の歌会始の儀が催されました。
歌会始はいわゆる題詠で、今年のお題は【光】。
→「平成最後の歌会始 陛下、ヒマワリの成長詠む(日本経済新聞)

「贈られしひまはりの種は生え揃ひ 葉を広げゆく初夏の光に」(御製)
記事によると、阪神大震災から10年目の追悼式典に出席された際、震災で身内を亡くした少女からヒマワリの種をもらい、このヒマワリが成長する様子を歌に詠まれたとのことです。
初夏の光に眩さよりも、希望や暖かさを強く感じるのはそのような背景からなのですね。
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平安の三大歌合戦!(寛平后宮歌合、天徳内裏歌合、六百番歌合)

国民的バンド、サザンオールスターズの熱唱で幕を閉じた第69回NHK紅白歌合戦。
大みそか恒例の番組も、今回は平成最後ということで例年以上の盛り上がりを見せました。

さてこの歌合戦、平安貴族たちも負けず劣らず熱中していました。
正しくは「歌合せ」といい、「紅白」ではなく「左右」に分かれて歌つまり「和歌」の優劣を競い合ったのです。
現代の歌合戦はエンターテイメントの要素が強いですが、平安の歌合戦は歌人の意地を賭けた真剣勝負! 下手をすれば死人が出ると言われるほどの白熱ぶりです。

今回は平安の歌合戦から、私が特に注目する三大歌合せをご紹介しましょう。
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→「ろっこの和歌Bar(7月の夜会)」7/24(水)19:30~22:00