ML玉葉集 夏中(令和二年六月)

令和和歌所では、ML(メーリングリスト)で歌の交流をしています。花鳥風月の題詠や日常の写実歌など、ジャンル不問で気の向くままに歌を詠み交わしています。参加・退会は自由、どうぞお気軽にご参加ください。

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今月のピックアップ五首

目覚めれば雲敷き渡る空ながら花近からし庭のあじさい
折に触れ立ち戻るべき和歌の浦時に風吹く言の葉の海
さほ川のさざめく波の止む朝に千鳥の声のなつかしきかな
歌枕訪ぬる旅の手始めは気の向く真間の我ぞ徒歩人
日もすがら五月雨てのみ暮れ行けば侘びてぞ籠もる下戸の深酒

今月の詠歌一覧

憚りつゝ山の端昇る夏雲や爾かづけして旭は誇れり
ふるさとは都の辰巳然あれど武蔵ならひてとゝせにあまりぬ
我庵は都の東武蔵にあれば東山みてはこれぞ西山
びいどろの中に広がる麦の秋抱く光の珠ははじけて
青空に夏思わせる雲一つ地には黄金(くがね)の波たちにけり
風吹けば波は広がる幾重にも麦や知るらむ夏の訪れ
五月雨るる人の心の薄闇を洗ふともなく降り続く朝
世が世とて雲の通ひ路開け放ち駆け抜けてみよまだ浅き夏
大麦の香も諸共に立つる泡盛りて弾けて揺れて飲むかも
君知るや雲の上には青き空通い路探し空を見上げつ
久方の雲居を泡と飲み干してあおぎてもみむ君の言ふ空
五月雨のしとしと聞こゆ雨音で一人酒飲む宵ぞうれしき
小夜更けてなほ五月雨の当たるまどかねて用意の貴腐開けにけり
君や二十歳珠はじくその麦の香に黄金の季節を汲みて盡くせよ
有明の月も黄金の麦秋にたゞ波ばかりよると見えしか
遠き夏来し方遥かゝへりみせばたゞ麦の穂の波ばかり見ゆ
むかし京今は武蔵野あづまをとこ京とはいへど宇治は山城
すぎてなほそのゆへしらんあけかたのみやまにまようこゑそなつかし
歌詠むと決めし心に立つ波の汀に玉を拾ふこのごろ
中空をうつろな枝の木の間より見上げてみれば光きらめく
おしてるや難波の海に漕ぎ出せば駒生き返る霊峰生駒
あけかたのこゑぞうらめしあけからすのこるかおりにまたゆめをみる
秘め置かむ歌の綱手を引く人は恐れ多くも鎌倉の右府
訪ふ人よ下総の奥厭はねば香焚く煙目印にせよ
よそに居て百鳥聴くやおなじうは松樹背負ひて共にあそばむ
目覚めれば雲敷き渡る空ながら花近からし庭のあじさい
百舌鳥がまねて唱和し高く鳴く我もともにと歌鳴きつづる
石見のや高角山の木の間より岩見いづこと人麻呂が問ふ
かみかけてひとこそみえねいまはただもとのみどりのときをまつかな
和歌の浦に我が恋ひ来れば凪わたり石見出雲に煙立つ見ゆ
打ち寄する和歌の浦波よそに見て漁りする我末席の客
あまつたふおきつゆうひのきえがてによせてはかへすわかのうらなみ
このあしたゑみひらきては世にいまだ絶ゆをしらざる花置く涕
くちなしの匂いいざなう月の夜に白き花びら露をふくみて
さつきあめつばくらひやうどきりとほすはれまにみゆるとこなつのはな
花童真幸く朝に咲きにけり世や吾が君やとこしへに幸きはひたまへおきてなゆきそ
木のもとに咲くやくちなし匂いたつ足らぬ言の葉おしてしるべし
この鎌が目に入らぬかそこやのけ猫ながめたりあおきもののふ
夏の日は眩しすぎると目を覆い守りの籠より出ずる子供ら
天つ人の杓より零る染めの水ひとあめごとに花は染まりぬ
わがこころ映す盛りの紫陽花や色はいよ増し雨に降られど
折に触れ立ち戻るべき和歌の浦時に風吹く言の葉の海
和歌の浦の浜の苫屋に立ち慣れてこの頃ゆかし潮の満ち引き
思ひきやおどろが下の六十路来てこの追い分けで道踏み換える
おしてるや難波八十島漕ぎ出でて照りきらめくや黄金の海
あじさいがまんまるまると咲きほこる光きらめく雨上がりの街
おっとどっこいあおきもののふ猫あくびけだるい初夏の昼下がりかな
次咲かす笑みはそなたかわかみかな世は紫陽花のメリーゴーラウンド
かまきりがかまふりあげし紫陽花の土俵で二匹花いくさかな
かはりゆく色もワルツの紫陽花にひきてはかへす花いくさかな
花いくさひきてはおすや土俵際のこったのこったどちらものこった
あなやとてをとこ蟷螂うせにけりをむな蟷螂とりて食ふとかや笑
拝みつゝ足擦りしつゝ頼めども鎌もか弱き京をとこかな
皐月かな枕草子は納言なりマスク草子は皐月鳩かな
蟷螂の想いながれしみかのはら湧きて流れて生まれ変われり
京男宇治茶にあんこ山背の木津のながれに身を任せつつ
夏まだき梅雨もまだ来ぬ朝ながらここだ肌刺す高き日の影
木津川の沙にきえし人とへど渡しにゆれる夏の蘆原
ものゝふのよろひもこづのなみだがわせなとふひともいまはむかしや
霞立つ上に茶の木のおほければ抹茶のごとき川にあるかな
川みては八十八夜過ぎにけり山に鹿の子の白玉ぜんざい
日の影に今日も暑かろうとうととやっと寝れるやうれしかるらん
山背のか弱き鎌の京男いつ見きとてか恋しかるらむ
山背の妹背が風の強みてはゆくへもしらぬ都鳥かな
五月雨を集めるほどの川も無し社に続く谷の細道
五月雨て傘の花咲く細道に話花咲く紫陽花の前
ふりすさぶ五月雨の空色受けてよひらの上に露ぞ散りくる
嬉しとも悲しとも見ゆ涙雨青く赤くと染む紫陽花や
紫陽花を標と時は移ろひぬ病む世を冷やせ遅まきの梅雨
雨弾くよひらもけぶる古郷にとをき日踏みし夏の舞曲や
隔たりていづこともなき紫陽花を等しく歌に詠む夕べかな
五月雨に色とりどりに開く傘咲くや紫陽花匂うクチナシ
紫陽花の色を重ねし雨露に離(さか)る言の葉いよ育ちけり
うつろひの花の匂ひのことわりに思ひふるらしさまざまの雨
すぎぬればまぼろしとなむ五月闇やがてあくがる沢の蛍も
この雨を憂しとやさしと思ほへば瑞枝に弾く七色の音
五月雨のしとしと音に身をゆだね思い返すは在りし日のこと
つもりけるくちなしの香や玉水のやまずかかりて置きして散りて
夕さればさて飛ぶ蛍色淡し源氏平家の跡隔つるな
みほとけのおわすお堂にくゆる香導きたまう雲に似たりて
紫陽花が声をそろえて歌いだすしとしと音の調べにのせて
八つ代に重なる歌の面白さ声も八声に色もとりどり
先達やありし雨夜の散歩道小さき明り道を照らして
もの思ふほむら預かり届けてや雲の上まで行くもやすければ
やまぬ雨鼓を打つは軒の水紫陽花たちの歌にあわせ
みちのくの久慈のほとりは鎮まりぬ私あれや里の川長
明けぬれば久慈の川長起き出でて水馴れ棹さし渡せ諸人
水底のさざれの石に濯ぐ瀬を棹差し渡す長の玉響
さほ川のさざめく波の止む朝に千鳥の声のなつかしきかな
水底の石の白きにたへかねて五月雨ならぬ久慈の冷や水
たまさかに手練れの放つ諧謔を真似てぞ滑る我ぞ新参
青雲に白球とどけまっすぐに若き君らの想いのように
五月雨に早と散りしか冷汗の久慈に届かぬ鈍(にび)の河みず
一筋の飛行機雲を描き出す思いを乗せた雲を飛び越え
蛍灯を部屋に放ちて夢うつつ頬よせ語る短夜愛し
久慈越えて歌な晒しそ今日よりはされば河原で一夜陰干す
紫陽花とおもえば実はカメレオン月夜に浮かび舌出す君よ
変わり身の疾きは猫の目秋の空心に続くカメレオンかな
ホトトギス眠る夜空見上げれば夏の色は空にぞありける
夕月夜暑さ残す月の影金魚すくい今宵こそ咲け
うすみどり明石の浦の波風に夢の浮橋渡る心地かな
更けぬれば歌の通ひ路吹き閉じて流れもあへぬ不破の関水
小夜更けて返す歌をば詠みあぐね痛み入るとも関は許さじ
こち方に傘の花咲く影法師揺れて離れて愛しさつのる
金魚鉢揺らめく尾ひれひらひらと頬よせ見つめ笑う楽しさ
浮橋を明石の浦に渡したり恋しき人に会いたさがゆえ
いつになく滝に負けじと声あげて梅雨あけの川駆け抜けりけり
梅雨明けを待てぬ心ぞ雲間より漏れ出にける言の葉かりて
天空に天の浮橋かかるときふたかみうしお沼矛さしいれ
泣き笑い君の心も梅雨明けか空を見上げて肩たたきあう
降りしきる雨に見ゆるは小さき灯夏訪れししるしなりけり
健やかに千歳越えむと願い込め摘む梅の実や水無月十六
カラリ溶く梅の隣の氷砂糖うまさましける音はうれしき
木の下を頼みてしばしたたずめば梅もたわわのゆるき片陰
五月雨をよそにも見つつ味酒の三輪をぞ仕込む旬の短き
ひとつやにあそびしとものおとさたにはたちのなつのかげをしのびつ
歌枕夢には多くあらわれど通ることなき逢坂の関
さみだれのつづけるとしのながめにはふりにしことのふみをともとす
五月雨の晴れ間に訪ふとなつかしき時の花の散るあとの面影
敷島の津々の浦々訪ひかねて歌枕詠む居ながらの旅
歌枕詠みてぞ暮らす居ながらの旅はこのごろ秋めきにけり
五月雨に濡れ騒ぎたる通学路昔の我を見る思いして
居ながらに時を忘れてスワイプで旅する窓の面白さかな
逢坂の夢の通い路吹きあけよいつみきとてか恋しかるらん
五月雨に濡れるレトロな公会堂見上げて待つは栴檀木橋
君はたち夏のかよひ路濡れ騒ぐ光をいまになすよしもがな
積み置きてまだ見ぬ書の谷間より心せせらぐ雨のつれづれ
観音の久遠のひかり拝つゝ黒蜜浸すわらび餅かな
言との羽の羽ばたく音はさまざまに人の心を映す鏡か
氷室なるひむろしらゆきかきごおり若草山をめでつ楽しむ
いまこむといづれのみねときめかねてさみたれくものそらのかよひぢ
舞い上がり空にぞ咲ける水しぶき散りなむのちに残る滝音
萬葉の聲に幸はふ五月雨の珠の滴を磨く朝かな
ひとしづくまたひとしづくくれたけのよにさみだれのひとしづくとあまりよせてふりやうかもゝづくちづくふりやうかしづくのかずもしらぬまによろづにあまるしづくたみあなたのはむらにねをあげばこなたのはむらもねをあげてあのこのかたもぬらさうかとあまりよりてふりやうかももづくちづくふりやうかあのこのかたもつめたからうけふさみだれをあつめてはしとゞぬれつゝひかりのあさは
雨雲の帳はおちて夏来る野の靫(うつぼ)より矢取り放てば
いずかたの人さしたるや五月雨の籠に盛りの紫の花
明けにける夢の通ひ路わが袖に宿るかおりはまだのこれるに
言の葉を返してこそと心得て打つだに響く歌詠まむとす
短夜の閨のぬくもりそのままに五月雨続く今朝の肌寒
日食は雲に隠れて風すさびカラス飛び交い時を告げるや
ひとしづくまたひとしづく水面ふる波紋さざめく月の言の葉
面白や猫に盛りたる紫陽花に破顔一笑夏来るらし
短夜の明け方騒ぐ雀たち今日は晴れと告げてくれるか
言の葉の調べにのせて魂しずく奏でる雨の葉音楽しく
ほけきょうと流れ流れて流転して春も夏へと滝になるかな
静かなる近江の海を求むれどあらき波風立たぬ日はなし
千鳥しば鳴くその声に惑わされ綱手はいづこ小船さまよう
海ならず内ゆく旅を離るれば眩きまでの世にぞありける
歌枕訪ぬる旅の手始めは気の向く真間の我ぞ徒歩人
我が庵は石見のたつみ鹿も住む宮島ちかき安芸の国なり
おしてるや難波の海で産湯あび霊峰生駒のふもとに育つ
梅雨半ば安芸まで遠き道ながら和歌の浦にて楫絶えにけり
津の国のなにはともあれ我もまた難波江にこそ産湯いりしか
思ひやる出雲の奥は遠けれど八雲は我をへだてざりけり
波の花は色なきものと思はずやさてもあきなき和歌の浦かな
濡れ鳩のゆくへもたへし皐月の天羽交ひしひとのあとも干なくに
重なりて日影届かぬ若楓憂へずとても時雨は届く
逢坂を過ぐれどしばし音羽山関吹き越ゆる短夜の風
東風やみて安芸の便りを玉と知り心ときめく我ぞ横風
今ぞ知る麻の葉分けに風吹けば安芸のあはれは色勝りけり
群雨の雲間目指して羽ばき試す巣立ち見守る親心かな
願はくはさらに吹かなむ横様の風にかず添ふ君が玉梓
今ぞ知る風の行き来の色も香も名はあさながら深くしみけり
日も限り水漬く朽木の謐さにみづゑの天は光ましつゝ
みずゑにて浮かぶ月影面白や月に群雲花に五月雨
覗きても抹茶に映す顔もなし干しては天に浮かぶ白玉
和歌の浦にこがるる舟の梶の間もなぎさに来鳴く浜千鳥かな
カオナシの想いもいずる白玉の宇治の茶摘みは八十幾夜か
おもしろや浪速の海にこだまするナニワノオトに船出岩船
玉梓の筆はすさびぬ足引きの下書きの山いかが越えまし
守り来し堰も絶えぬと聞きしかど降る白糸の断つ間もなくに
面なくて如何にこの身も渡らんや雨の汀に浮かぶ瀬もなし
軒端より溢るゝ水の増すごとにけふ五月雨の淵となるらむ
うれしやな泉わきでる玉の井に月影有りや汲みてや美味し
五月雨の淵となりぬるわが想い縁をたどればひとつぶの雨
たどりてはやがて霞の水平線君がおもひも四方にさかりて
くどきてもかきくどきてもこてさきでえがくもんじのこげときえゆき
糸の切れ木の朽ち果てて人の去れど汝の忘れじや言の葉の種
ねじけてもくちてもいましことのはをうけばちとせのことほぎとはせむ
愛染の縁をとりもつオンライン流転赤糸コロナ生みしか
小手先でくどく文字はお好みで焼いて見せしょ裏返しポン
青時雨おくは道端のあやめばなかけら散りける夏の光の
長雨に色移りしといわれどもいよや増すらむあやめの色は
仰ぎみる雲の上には夏の空五月雨は落つあやめ花より
菖蒲咲き立ち並ぶさま御殿女御雅な時を思い起こせり
五月雨もかくやは雲のまどひけむ降り残したる青きほむらは
こてさきにかへすことのはかるけれどうらなきものとひとはしらずや
のきしのぶたまのしづくにさみだるるふちにしづかむおもひあらずば
雲間より珠も光とつもりなば浮かぶおもひのありどころとせむ
コロナ禍に菖蒲剣で立ち向かう雅心で戦う大和
五月雨に魂のしずくがふりそそぐ想いあふれて淵となりぬる
雨脚の行く末までは量りかね衣乾かぬ日は暮れにけり
日もすがら五月雨てのみ暮れ行けば侘びてぞ籠もる下戸の深酒
ながむればむらさき匂ふあやめ花あやめも知らぬ軒の五月雨

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