歌塾 月次歌会「立夏」(令和四年五月)※判者評付き

歌塾は「現代の古典和歌」を詠むための学び舎です。初代勅撰集である古今和歌集を仰ぎ見て日々研鑽を磨き、月に一度折々の題を定めて歌を詠みあっています。

令和四年五月は以下の詠草が寄せられました。一部を抜粋してご紹介します。

題「立夏」

「あらたへの裳裾(もすそ)はつかにそぼちけり吾妹すずしやみたらしがはに」

判者評:荒妙(そまつな)、吾妹(わぎも)。葵祭の風景か? 詞書がほしいところ。「はつか」と「そぼつ」は反する詞であり違和感がある。「みたらしがはに」という倒置の結びはいかが? 分かりやすさのために、語順を入れ替えてはつまらないか? 例えば…「みそぎせし吾妹すずしやみたらしのかはにもすそはそぼちぬれつる」

「道のべの見知らぬ花のいろいろに変はりてけりな人の衣も」

判者評:夏のいわゆる雑草がいろいろに咲くように、人の衣も夏草のようにとりどりに変わってきた。更衣の歌であるが、解釈に難しいところがなくわかりやすい

「いつの間に恋は昔となりぬらむ草いちご咲く夏は来にけり」

判者評:「草いちご」という名に、甘酸っぱい昔の恋を思い出す。もういちど老いらくの恋を始めようか、というような歌。おもしろい。

「春を忘れみやこわすれに染まりしか都鳥とぶ黒きかむりに」

判者評:「ミヤコワスレ」題材が独創的でいい。順徳院を踏まえた歌。例えば…「いかにして契りおきけむ白菊を都忘れと名づくるも憂し」

「春も過ぎ袖のしがらみいかにせむ結び葉ほどく夏風にとふ」

判者評:聞いてことがないおもしろい表現「袖のしがらみ」だが、具体的にイメージできないのが残念。複雑に行き詰った恋の譬えか? その行方を「結び葉ほどく夏風にとふ」という趣向だが、これは「夏風が結び葉ほどく」という前提が必要、これを共通理解しているかとえば、難しいのではないか。

「文机映る緑のかぜにゆれ葉擦れさやけき夏は来にけり」

判者評:さやかな風が吹いて夏を知るのはいいが、全体的に修飾語が多く情景を想起しずらい。「ゆれ」「葉擦れ」が耳に障る印象。文机という題材はいいので使いたいが、風と取り合わせづらい。例えば…「文台にうつるみどりのかげみれば木の葉茂るる夏は来にけり」

「かきさぐるそでのわかれのたまくらに昔を今とにほふたちばな」

判者評:立夏の題であるが、濃厚な恋の歌。見どころは「掻き探る」であるが、濃厚である分情事の直後の印象があり、昔の橘との時間関係がちょっとずれているようにも思える。ところで「昔の人の香」は古来和歌で数多詠みこまれ、名人による名歌も多くこれを詠み込むのはある意味歴史への挑戦である。

「さよごろもかへすがへすもいまだ見ぬあふちにほへるかたときの夢」

判者評:返す返す(繰り返す)、片時(わずかな間)。願っても願っても叶わない逢瀬が巧みに表現されている。「あふち」には「逢ふ路」が掛けられているだろう。「にほふ」は橘は類型があるが、あふちは関連が薄いため、素直に「あふちうつろふ」としてはどうか

「藤波の風とわたれるほととぎす待つ汝のもとへこゑをつたへよ」

判者評:「ほととぎす」と「藤波の風」というユニークな取り合わせ。「門渡れる」か「と、渡れる」か? いずれにしても「渡るる」。「門渡るる」の場合、風は不要。「汝」は「お前」といった意味、「我(あ)を待つ妻に」と分かりやすくしてはどうか。

「夏の夜の夢のかよひぢうちへば花橘の香ぞにほひける」

判者評:こちらも「昔の人の香」の挑戦である。三句目「うち思へば」が字余りとなっているので避けたい。「うち」も取ってつけたような印象。「来る人は」などしてみたい。

「色深む青葉の山のほととぎすなくは昔の人を恋ふるか」

判者評:古典に忠実で手本のような詠みぶり。一方で類型的といえ、退屈でもある。

「早苗取る田子をいらつかほととぎす木の間がくれになきしきるなり」

判者評:苛つ(いらだつ)。「木の間がくれに鳴きしきる」が言葉が続いていない、「木の間の陰に」としたほうがいい。しかしどういう理由でほととぎすがいら立って鳴いているのかわからない。ほととぎすは自分の暗喩?

「ふかみどり木の下かげの山つつじ燃えてにほへる夏ぞ来にける」

判者評:「ふかみどり」が木の枕言的表現になっており面白い。「萌える」ではなく「燃える」であり、暑い夏が来たことを想起させる。いい歌。

「こもれびに青き薫りの風立ちぬ桜の衣変はりけるかな」

判者評:こちらも更衣の歌。「木漏れ日」も「青き薫り(薫風)」といった言葉は雰囲気はあるが一方で具体性に欠け、安っぽくなってしまう。また立夏に「桜の衣」はあわせづらい。晩春の歌として「桜色の衣の裾を吹き返す風は緑になりにけるかな」

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