上野桜木仲秋歌合(令和五年十一月)

去る令和五年九月十七日、上野桜木市田邸にて令和和歌所主催による歌合を開催しました。以下にその内容を記します。

上野桜木仲秋歌合

題 月 待恋

作者 左 摂津 虚白 花野 竹ぼうき 嘉一郎 山翠 三猿 海螢 高
   右 圓学 月魄 朱鷺 飯 亡羊 螺実 閑遊 木喬
判者 木喬

一番
左 摂津
 水のおもに涼しくてれる月かげの明きに秋のもなかをぞ知る

右 月魄
 夜もすがら水面にゆれる月影はまどひし我の心やあらむ

左方申して曰く、たけたかけれど、第四句、「心にやあらむ」といふべし。
右方申して曰く、優に見ゆる。されど「涼し」といひ「明き」といひ定かならず。「涼し」といはずとも秋の月のさま得るべし。

二番
左 虚白
 武蔵野や野におほとるる銀(しろかね)の尾花の波より出づる望月

右 圓学
 きのふまで田ごとに映る更科の月ぞ稲葉の穂に宿りける

左方申して曰く、すがた言葉ことに幽玄なり。「きのふまで」とあれば、第二句、「田ごとに映りし」といふべきにや。
右方申して曰く、歌のさまおかしく侍る。「おとほる」聞き馴れず、古き言葉にや。

三番
左 花野
 秋の風吹くも吹かぬもひさかたの月の光ぞさやけかりける

右 朱鷺
 憂き身さへ照らす光のさやけさに心すみゆく月の夜半かな

左方申して曰く、難なし。「憂き身さへ照らす光」といへる、ことに幽玄なり。
右方申して曰く、歌の調べ優なり。されど様は常のように見ゆる。

四番
左 竹ぼうき
 いざゆかなくまだにもなきつきかげにいにしへうつす広沢の池

右 飯
 秋の夜にひときはおほき月明し野辺にうかぶは白き山里

左方申して曰く、「ひときはおほき」といへる、月もとよりひとつなれば、いかに多くやあらむ。「ひときはおほき月明し」といへる言葉続きよろしからず。「白き山里」といへるこそをかしけれ。
右方申して曰く、末句、心にくし。されど初五文字に「いざゆかな」とあり「広沢の池」はいつの景色なるや。「くまだにもなき」は「隈なく照れる」などとこそいはまほしけれ。

五番
左 嘉一郎
 寝間に洩る白くて細き月の糸ちと睡ぶたしきあさぼらけかな

右 亡羊
 うばたまの闇にかくてぞとどめおきながめあかせな三五夜(さんごや)の月

左方申して曰く、「ながめあかせな」といへる、いかが。「ながめあかさまほし」といふ心にや。されば「ながめあかさな」とぞあらまほしき。「三五夜」、やまと歌に合はぬ言葉にや。
右方申して曰く、俳諧の体なり。上下のつづけ方おぼつかなし。「白くて」はいにしへの言葉にあらず。

六番
左 山翠
 なき人の影すみはてぬ宿のそら仰げば照らす秋の夜の月

右 螺実
 ありし人の袖にうつりし秋の月めぐりて宿るわが涙かな

左方申して曰く、難なし。心、いかにもあはれにこそはべれ。
右方申して曰く、こころ深し。「すみはてぬ宿」は聞きよからず。秋の月は仰がずとも照らさざらんや。

七番
左 三猿
 秋の夜のなぐさめとばかり見る月はなほうらめしきここちこそすれ

右 木喬
 しののめをうらみさへする秋の夜のあかぬひかりぞ袖に映れる

左方申して曰く、心、後朝の恋に偏りて、題にかなひがたくや。心言葉あはれにこそはべれ。
右方申して曰く、難無し。秋の心、ことに深く聞き覚ゆ。

八番
左 海螢
 澄みわたる月影映す露の玉こぼれ散りぬる初恋の夢

右 閑遊
 恋わびて寝(い)ねかてにする秋の夜の思ひなぐさむ望月の影

左方申して曰く、難なし。すがた言葉幽玄なり。
右方申して曰く、艶なり。されど題の心おぼつかなし。腰の「玉」、末の「夢」のつづけ方耳に立ちて聞ゆ。

待恋

一番
左 摂津
 とはぬ日のならびが丘に吹くなへに人まつ風の音ぞ悲しき

右 亡羊
 花は散り葉は色づきてうつろへどおもひ渡せし松のさみどり

左方申して曰く、人まつ心、ときはなる松の緑によせて詠まれたる、をかしき心なり。「おもひ渡せし」、橋などなくては、よりどころなくや。
右方申して曰く、心、ことばともに宜しく侍る。「ならびが丘(双が丘)」聞き馴れず、はじめ五文字は「とはれぬ日」といふべきにや。

二番
左 花野
 雲間よりうつろふ月の影こぼれ萩の下葉ぞ露けかりける

右 圓学
 萩が散る小野のあしたとなりぬべし来ぬ人を待つ袖の景色は

左方申して曰く、「人を待つ袖の景色は」いかで「萩が散る小野のあした」とやならむ。萩の花散るあしたといへる、いかに人待つ袖にやそへたる。「萩の露散る」などとこそいはまほしけれ。
右方申して曰く、優なり。「露こぼれ」とは言へ「影こぼれ」とはいはじ、達磨の体に近からんや。

三番
左 竹ぼうき
 君見むと夜ごとに咲けるまつよひの花のあしたは露もむすばじ

右 央英
 忍ばれでわれてあわむと壱師花そのね(根)(音)の持たる毒と知りつつ

左方申して曰く、「毒」、やまと歌に合はぬにや。「音」のよりどころ、おぼつかなし。「持たる」といへる、「持てる」とあるべきにや。
右方申して曰く、上句のさま優に聞こえ侍る。下句のこころ如何、「露」は「涙」のたとへと思へど、「結ばじ」とはいかなる景色ならんや

四番
左 高
 端居して月と夫(ツマ)とを待宵に袖翻す風立ちにけり

右 飯
 秋風はこころに寒しひとり見る十五夜月の照らす縁側

左方申して曰く、すがた艶にてあはれなる歌なれど、「十五夜」、「縁側」といへる、やまと歌に合はぬ言葉なり。
右方申して曰く、心にくき歌なれど、すこし月のこころ強からんや。腰の句は「待ちながら」などと軽く詠むべし。

五番
左 海螢
 ゆくりなくおとなふ夜の面影を恋ひてさびしき有明の月

右 螺実
 月影にぬばたまの髪けづりしはくるやも知れぬ君がためなり

左方申して曰く、「くるやも知れぬ」といへる「くるとも知れぬ」とこそいはまほしけれ。
右方申して曰く、優の気色すれど、上句こころ得ず。「待てど来ぬ消へゆく君の面影を」などと詠むは如何

六番
左 虚白
 月見ては君が来(き)なむとまつ虫の声の侘しき夜を過ぐすかな

右 月魄
 照る月におもひし人の影を見ば夜のあくるまもあはれなりけり

左方申して曰く、難なし。下句、人来ぬ夜の明くる寂しさ、身に染みてこそ詠まれけれ。
右方申して曰く、まことにあはれ深し。「松虫の声の侘しき」聞きよからず、「松虫の声ふり立てて」などとして、我が身に引き寄せて詠むべし。

七番
左 嘉一郎
 逢いて増し契りて悔み逢わずして待ちて恨みて恋はいろいろ

右 朱鷺
 待つ人は今宵も来ぬと知りながらなほ待ち明かす身をぞうらむる

左方申して曰く、難なし。まことにあはれなる歌にや。
右方申して曰く、こころをすなほに詠みなした歌なり。上句と末句は同じことをいへるや。

八番
左 山翠
 うつせみの羽におく露は待つ秋に人を見ぬ目の涙なりけり

右 木喬
 かむなびのみむろの山の楢の葉やふめどちらざるおもひこそしれ

左方申して曰く、題にかなふや。「ちらざるおもひ」をかしくはべれど、人待つ心あるや。第三句、「や」のよりどころおぼつかなくや。
右方申して曰く、難無し。心、姿ともに優に侍る。

九番
左 三猿
 ちぎりおきしとどまる露はひとしずく浅茅が宿に待つぞはかなき

右 閑遊
 まつ人のちぎりも秋にうつろひて時のまにまに消ゆる恋かも

左方申して曰く、難なし。すがた言葉艶なるにや。
右方申して曰く、あはれあり。上句こころ得ず、「来ぬ人を慕ふ涙の露ぞおく」などと詠むべし。

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