
短歌ではなく、伝統的な「和歌」を詠むことを目指す和歌所の歌会、
そのご参加者様の詠歌をご披露させていただきます。
※2018年4月はおよそ三百首の歌が詠まれました
ご参加者様のほとんどが、和歌所の歌会で初めて歌詠みとなられています。
それでも素晴らしい歌が詠めるのは、無意識にも私たち日本人に「日本美のあるべき姿」が宿っているからです。歴史に培われた日本文化とは本当に偉大です。
私たちと一緒に和歌の詠歌、贈答、唱和をしてみたい方、ぜひ歌会にご参加ください。
→歌会・和歌教室
| まどろめばはや暮れ六つとうたつぐみ寝覚めの庭に花風たちぬ |
| やちくさに花咲きほこる野べのあさ一朶の花もいまをかぎりと |
| しろたへの羽とおぼしくちりゆきぬはかなき春にあをにびの風 |
| うたた寝のたにには春もつねならで くれむつ庭にみる鳥もなし |
| へだてどもたまくらの香に包まれば 君と相見ゆ夢の通ひ路 |
| 遥かなるふるさと霞むまつげかも 春のながめにうちしぐれつつ |
| おほつちのいぶきて春は高高と クロウタドリのむつましきかな |
| この春の涙をそへてながめせば 桜のいかでのどかなるらむ |
| 夢の門にただよふ風や梅が香をたよりてゆかむぬばたまの夜に |
| たんぽぽのサラダ食卓飾るころ 待ちきれないわ春の寄り道 |
| まだ浅き仄かに暗き春なれど 槌やわらかに草やや堅し |
| 風にふるさくらを送るかきつばた わが時や知る杜の花田で |
| いつの日か 会えると信ず 我が姪子 思い馳せては しあわせ願う |
| 夜半なりて 月影落ちる 庭桜 閨に扇も 落としてみるか |
| はら落つる扇に映る朧月 行方も知らぬ道の標や |
| 石はしる垂水に春の溢れきて たわわに揺らす花の枝先 |
| 見上げれば花はまばゆき空に居て 短き春の夢のあはれぞ |
| 小夜更けて朧月夜に舞う花は しるべも隠す淡き白波 |
| 咲くを待つ心を識らば春よりも 散り逝く花の雪に見ゆるは |
| きさらぎの望月のもと過ぎぬるを 沙羅のいはれはまたの息吹きも |
| せめてもの風の情けに吹き返す つつ闇に咲く白き星垣 |
| 今しかた瀬見の渼陰も去りゆきて 沢辺の水も春透き通る |
| 明日よりは花なきあとに何ぞ待つ 常にならむや桜人には |
| 道の辺に清水ながるる柳かげ 春過ぐ風を受けやはらかに |
| あかねさすはなまつえだにきこゑしは こころさそはるそらわたるうた |
| 時雨たるまつげのさきに春霞む 父みせくれしふるさとの山 |
| ひるひなか近江の湖(うみ)をながめせば いと疾き春ものどかなるらむ |
| 「道成寺」を観し夕刻の艶移り 庭の桜も月もあやしう |
| 我が袖にかほりをとどむ花の兄 野の狭の春を 領ず心地ぞ |
| 菊理姫の泪(なだ)のむ今宵にほやかな 花の弟ひたすそのなだ |
| 梓弓はるにとばしる恋てらす 朧月夜の花ぞはかなき |
| 経てもなく緯も定めぬ 花風に 頓みに縫ひたる 絲やうらはら |
| 経糸と緯糸におる綸子(りんず)とも えにしうたふや歌姫みゆき |
| 雨なんて慣れてますからぬれた目の 上向きまつげはウォータープルーフ |
| 木のもとに花さきいたり微笑みて 爾咲かすは大地の涙 |
| ぬばたまの闇にながるる涙とて 川面にうつる天の光は |
| のんびり屋春驚かそうお日さまに もらった欠片をサラダに入れて |
| 春の宵風吹きあがり桜花 天の川面で星となりぬる |
| よるべなきちりゆく花にあらずして 天の雅や砂子とならね |
| うちなびく春を奏づる青柳の 枝の糸より緑こぼるる |
| おもひやるふるさとの春おぼろけにしだる桜もかすみて見ゆる |
| 音もなく白きすももに小夜ふけておぼろ月さへかげをおとさむ |
| 夢の門にただよふ風や梅が香を たよりてゆかむぬばたまの夜に |
| さ夜ふけて月めでむとやかたむける おぼろに透けるはなのかんばせ |
| 枝垂るるは花のみならずふるさとを おもひやまざる銀のなみだぞ |
| 百川のながるるはてに鳰のうみ 花ひら留めてあふみなりぬる |
| 花了ふ明日のこはさに上野山 盛る宴ぬけともしびみつむ |
| よるやみも天の光と微睡まん 桜襲の衣をしきて |
| 晩春に入相の鐘なり響き 花も散るのは道明寺かな |
| 江之島に雪荒ぶ中を来てみれば 萬疋織る白の階 |
| 黝き春淡墨む月よらうらうじ 靄みを祓ふそそく風早や |
| 珠草の籠りし美影よ月と陽と 朝処ろに慰みを見ゆ |
| 明け影の綾なす玉の瑠璃細工 悪戯彫るる細蟹の絲 |
| なむつけやけらをひきまろいなかたち あまひこよしやいなごまろかな |
| くくなべて心ならぬは優れたり やむごとなきき蟲愛づる姫 |
| 梓弓推して朝風陽を放つ 春の五色射てよ曙 |
| 朝海の千沙の若音よ楚々と聴く 今由比ヶ浜心地良き春 |
| 若柳の枝も撓に多磨露の 川辺の影も薄く明けし |
| 春面柳の翠も紅を挿す 杏の蕾も溢れぬばかり |
| 道奥の冬間を別けて来る水の 春は盛かゆく心地こそすれ |
| 春追いに根を硬めつつ下萌えの 磨げる蔭や嬉しからまし |
| 陸奥花に乱れ染めしや春の彩 影見し水も里の花咲み |
| 滴るき春さえ晴れぬ深山辺の 初音も迷ふ陰や弛しく |
| 浅浅き三寒朝の山峡は 四温霰に春を知る哉 |
| こそ癢ゆひ風の探る夕梢 茜の萌ゑ実も春を綾なす |
| 春黴雨や木末に迷ふ水の多磨 上葉下葉に消へ返りみゆ |
| 冬さらば大広ろ高く山霞み 色に膨らむ春の溜め息 |
| 旨しには吾妻遊びよ駿河舞 著しろく笑め踏歌名告りそ |
| 春嵐や終に混じて山の端も 櫻開くか見れども飽かぬ |
| 候待たず巳風を逐ひつ雨露の春 恩希はうら蜜に萌ゆ |
| 悉く水面綾なす千代の宇多 寒磬なんなん春の香渼 |
| 経てもなく緯も定めぬ雪風に 頓みに縫ひたる絲やうらうへ |
| 今日とてや言ひ継ぎ行かむ春雪に 白妙揃ふ友の隨に |
| 何となく冬とは違ふ春雪の 冴ゆもやわらな心地こそすれ |
| あなにゑや春もうらはら掻き消ゆと 還す野辺にはまたの白桃 |
| 寒さ知る雪の紛れに別れにし 君をば何時の春かまた見む |
| 夕間暮れ眺めせしまに緩ひ まこと潔白し移りにけりな |
| 帰り路の鳥の声より暮れ染めて 浮きて漂ふ桜白々 |
| 灯し頃鳥や群れつつひひ鳴きの 遊び見ゆれば心楽しも |
| 戻り戸の掛かる茜に和みつつ 追ひ来る影の笑ふ声聞く |
| あら楽や円居せる夜に更けゆけば 見まくのほしき春の夜の夢 |
| 明け染めに甍を叩く百千鳥 上がり騒ぐに春盛りける |
| 春鳥よ朝なさな聴く良き声も こぼち散らすやはて喧しき |
| うた声をさのみ聴きけむ我なれば 果ては麗し目白なるらめ |
| 流れ来ぬ雪き水こそ冬別れ 里はいよいよ春めき出づる |
| 霞み晴れ影淡しこと色浅く 蟲戸を啓くやわし春泥 |
| 騒ぐらし明けぬとしたちとき告げの 露に零れる春の朝声 |
| 春今のむらむら咲くや朝桜 いつを限りと常のなみこそ |
| いまは音の細き短し小さきこと 雲井のよそにいつか届かし |
| 西空の残り星刈る桜東風 闇より白む遠の山の端 |
| 道奥の朝けの山は仄暗き 零れる光も触れる程なり |
| 小暗きも花散る道を踏み行かば 渓まに咲きつ花を見ましや |
| 雲の散る山の貴方は明けやらで うち延へて尚花になる頃 |
| 花は風語りて風や人便り 春を伝へる雲に聴くまで |
| 明か時に何くれ競ふ花を見ゆ 霞に追へり薄く咲くらも |
| 咲き合はす見ぬ空までも長閑にて 花影括る山は春笠 |
| 花に花鳥も群ぐむ春盛り ありとあるもの匂い酔い痴る |
| 櫻真風広ごり紛ひ春めきぬ 鷹も鳩為る山もとの里 |
| 遠方のつくづく淡し峰桜 霞み綱はる鴇羽色かな |
| 九重に日次月次咲きほこる 余所には春もあらじとぞ思ふ |
| 桃衣褐の花も濁りて咲き盛るる 夢の逢瀬に尚の是ども |
| 桜咲き撓るに溢すうら山し 花の宓まるほどを待つ間に |
| 春分きて色濃き花も谿を越す 散る方のぞむそろそろの蔭 |
| 久方や友あらばこそ花人の 遊ぶ春日に暮れずともよし |
| 目暗ころ月に近づく花灯り 泡沫に消ゆ春もさながら |
| 誰そ彼に半ば色どる夕桜 そそ吹く風に散るも涼しき |
| 今し早や風をさまれと花しづめ はららはららに夜に散るらむ |
| 夜にわたる梢鳴らして花吹雪 月かげろふは白み染め見ゆ |
| 深き夜に散る果てを見むおなじうも 失するに降るる春故にこそ |
| 空に散りの白くきらひし百積に 密けさに消ゆ春の影とも |
| 十六夜にあまたも落ちぬ春花よ 木末の影の色ぞ明けゆく |
| 忘れじの弥生縋るか桜蘂 沢にひら桜花の盃 |
| 春うみの残り桜はか弱きて 光婆娑羅に奇し愾もなし |
| 花巻きの往き触る毎にうち掠む かばかり放る思ひてむやと |
| したけ吹く惜しむ心をみ留むれば 裂けゆく程の透る薄けさ |
| ひとひらをありつつ見れば唯空の 光り扇にふうわりと舞ふ |
| 影つかぬ誘ふ香もなき色失せの 花麗毀つおぼせ余情に |
| 鳥じもの春の端に発つ桜ひら 泪も染めぬ花鑑かな |
| 入日方同じ名を持つ桜花 頻りて逝くか眺めせしまに |
| 春疾ち猶そひ吹くか差しつめに 破れて砕けて風散々な |
| 光鋭き巻向く風も終わり無く 引きかなぐるは哀れ無慙な |
| 事無きの花散り跡のこの原や 朱の泣き果て暮れ泥むまま |
| 真幸くてまた咲き逢ふと目くはすは 忘れかねつも花妙桜 |
| せめてもの風の情けに吹き昇り つつ闇達つは淡き花垣 |
| 浅くから中翠より深く立つ 春のありがほ其れ草の事 |
| 今しかた瀬見の渼陰も去りゆきて 沢辺の水も晴れ透き通る |
| 散り跡の梢の上に茂み見ゆ 春やたけなわ匂ふが青枝 |
| 川に沿ふ梢は軽くうち靡く ひかり長閑き春の水風 |
| 友鳥の戻る声聴く沢野辺に 水面なずさふ春もみち見ゆ |
| 葉桜やようずに湿る芬馥の 氣は重みみつ情を改む |
| 葉模様の聴けぬ光を朝に見る 透けつつ硬く緑帆走る |
| 春のみて吹き還すこと野辺にある 滅緋丹塗り脈を渡る |
| 丹は青み柔き槌かもさし變す 夢とく蕨あな芽出たきや |
| 今少し吹き分けの音に心する 千種の波の音姿然に |
| 鶺鴒や教え声聴き奏でみる ふと覚へたる身なから嬉し |
| 春風や小手鞠の花さよ揺れる 卯月の十日余り一日に |
| 塞ぎもて春行く儘に風たちぬ 霞にかへるやち埃かな |
| 四方嵐いとせき難く吹くからに 手向け良くせと荒らしこの春 |
| 余りにももの急ぎしは味気なく 連れなく離れし風の災ひ |
| 春まけの患ひ多き悪戯に 散り飛埃に次は檜か |
| 眉根掻く頭も痛し何しかは また懲りづまに春巫山戯過ぎ |
| 此の春のもて悩み種花病ひ 通ふ原野の道の苦しき |
| 桂かな梣なのか何の木よ 逸そこの木は何じやもんじや |
| 春鳥や囀り落とす影になく 寛に揺蕩ふ陽な曇りらむ |
| 瑞喜雨貫簀様なる翠葉や 春猶まけて苜蓿かな |
| 少し揺る白詰の草影精ぐ 振れるか舞ふか風や紋白 |
| 時雨かく暫しの染めそ青木なる 光異なる薄き紅 |
| 古り増さる草木有れとも新出づる 青し若芽やゆゆしく健気 |
| 明来に漏る光をもてに蔭うらに 一葉に宿る同じ緑は |
| 楪の今ここにこそ春此処に 葉裏に遺す寂し日の陰 |
| 内きわの心の陰に触ればふる 移る色なき透き莟むもの |
| 殊になむ今日の山野の増すけじめ 丹を染む草に春鹿の鳴く |
| 鴇掛かる凸凹ぞ生みける竹の秋 其れも其れすら春の一色 |
| 春雨よ揺れつ別れつ散り際に 濡れても行かむ来る風と行く |
| 今日しもの帰さ路にある青葛 ふとたけそかに花や見る見る |
| くたちぬる藤の紫その奥野 花山吹か分けて来つらむ |
| 山振の花揺らす風黄金色 情を浮かぶ春惜しむ頃 |
| 金春よ風に契りし咲き括る 及くは無しかな山吹の花 |
| 春ふる期八重の山吹出で合へば 移ろふことも惜しからましや |
| 山吹や枝折な穂さすまた春よ 風透くまじく咲きに咲くらむ |
| 布瑠ノ言一二三四五六七八九十 布瑠部由良由良止布瑠部唱ふ |
| 今朝もまた甍を争ふ朝鳥の 散楽可笑し応えず笑ふ |
| 如ならば甍の上に登り来て 我も唄うか朝鳥の夢 |
| 日に慣ひ朝の福茶を頂きつ 灑く青みに春の息つく |
| 花も実も風さえ匂ふ橘よ 常葉の歌を言ノ葉に榮ゆ |
| トキジクノカグノコノミや立つ花の 常世草なる橘や |
| 色色の草木葉を見て花酔へば 可笑しき春の心地良顔や |
| 瀬を早みさて瀬を早み鏡破る 割れても末に買わんとぞ思ふ |
| 桜狩西から東移れれど 関決まらぬは桜餅なり |
| 吹きかける をとめの息の あたたかに 花咲き芽ぐむ 指先の春 |
| 身を焦がす激しき恋とスペインの 真夏の日差しいづれまされり |
| はらはらとかそけき風に舞う音は 散りゆく春の便りなりけり |
| ふと見れば黄色い帽子被りたる いつの間にやら大きうなりぬ |
| 童らの集いて行きし声聞ゆ 老次萎る里や華やぐ |
| 神ならぬ人も燕も天を舞ふ 傘の花咲く花の都で |
| 綿ぼうしまうくふぢなや思ひ出ず 生ひ立つ原と見つぐ人らを |
| ビニル傘に花付け天をつく球場に 村上春樹へ天啓落ちぬ |
| 春暮れて緋色に燃ゆる花躑躅 霧島山の焔に似たり |
| 橘の夢の名残りに鶯の 声懐かしき彩の雲 |
| 懐かしき文をなぞりつ思ひ出づ 変わらぬ友や花たちばなや |
| うぐひすもただ黙すらむ散る花に 去りゆく春を告ぐ音こそ聞け |
| 鏡やら結ふも解くやも構わぬも 紗抜や大事ないかとぞ思ふ |
| 鏡売りおとこおんなの糸結ぶ 御歌の技ぞいとど畏し |
| 瀬を早みさて瀬を早み鏡破る 割れても末に買わんとぞ思ふ |
| 山藤の揺らす谷風ふきながら 薫りのせゆく波の間に間に |
| 駆け出しの目の端もきかぬとうふやは からくれないし三つくくるとは |
| 竜田川秀手に御かべか花散りの 水括るとは抑何故に |
| 信号機おぼえたてなりつくし組 黄色帽子の子が子におしへ |
| 虹色の雲と旅する橘の かをりをまとふ天女もあれよ |
| 夢の跡はまだらに萌えてしじうから 喰ひし花ひらみどりのなかに |
| さびしさで 仙の翁(おきな)を 訪ぬれば 紫色に 都わするる |
| 風立ちてあがるしぶきや藤の波 春をとどめん我が手に取りて |
| 行く水へ名前をしるすはかなさに 白きはこべの花を浸しぬ |
| 春宵に月影落ち 庭桜 閨に扇も落としみようか |
| 過ぎゆくは若葉を揺らす蒼き香の 谷間を渡るただ春の風 |
| さまざまに色なす翠萌え出づる 深山の風もやはらかきかな |
| 久方の日はあたたかき谷川に かえでひろげてやすみけるかな |
| 谷川の溶けしばかりの冷たさと 流れに冴ゆる山吹の花 |
| 色映えて淵に吹き落つ山吹の いでそよ人の夢流れゆく |
| 山藤を揺らす谷風ふきながら 空の波にも香りのせゆく |
| 池の端の爽にそよぐ蛙手(楓)には ふるきよすがを尋ねきかばや |
| 木の間から藤の落とし香何処より 高き梢に鳥の声かな |
| 涙川瀬々行くすゑのあふみまで 流れてとくと春を見るかな |
| 遥かなるふるさと霞むまつげかも春のながめにうちしぐれつつ |
| おもひやるふるさとの春おぼろけにしだる桜もかすみて見ゆ |
| 明日よりは花なきあとに何ぞ待つ 常にならむや桜人に |
| 千早ふる 猩々舞ふは 唐の河 赤髪振らば 夜もくれない |
| 我が袖にかほりをとどむ花の兄 野の狭の春を領ず心地ぞ |
| 酒壷に映る月をも紅を差す 猩々舞へる九江の里 |
| やよ歌え謡うたいに歌詠めと 歌うて見すはうたた寝の歌 |
| 鶯や囀へづる空は変はらねど 春は薄々改まりつつ |
| 金澤や立ち待ちの日の卯の月に 藤谷殿の跡見や訪ぬる |
| 文庫にて心を閲す古の 古歌奏つ称名寺 |
| 仁王座す慎ゆゆしき山門は 古人の形見なりけり |
| 阿字ヶ池夢の浮き橋中之島 高知りまして西方浄土 |
| くうくうと鳴くは泥亀鳥來月 毀ち散らすや虚仮の声かな |
| 亀の鳴くゆほびかなるる辺りには ときめく頃の蝌蚪一群 |
| この池の鯉や向き向き水面ゆる こは撫でふさま雅かなりや |
| 様々の歌々樂し春鳥の 水面に浮きて声ぞ流るる |
| 花曇り下晴れすぐる沢野辺の 六浦楓も緑色づく |
| 青々と綠こき混ぜ鮮らけし 春に随ふ木々や色々 |
| 春なれや貴てに聳ゆる一葉よ 挟間の裾にひかり落ち来る |
| やや暑く木陰訪ねて涼むれば 可笑しく練ず声も降り来る |
| 強からぬ色をとりつつ浪たての 振りやりゆくは音を柔らかく |
| 花残る声は迷いてひとり鳴く せっかく倣へ春のとまりに |
| 聞かずとも此処を瀬に逼む蘖の 秋待つ綠ここら咲くらむ |
| 金澤に日向稲荷の三山よ 御むろ青葉に藤浪たちぬ |
| 春桜夏黄菖蒲秋紅葉 冬雪冴えし金沢山よ |
| 秋来れば緑染まりしこの園も 風音すらも紅葉するかも |
| 此れやさは津々浦々に聞くと云ふ 鐘や暮れうつ称名寺 |
| 影遺す遠き昔の金澤よ 豊けさ見へて春ぞ楽しき |
| 誰としも知らぬところの哀しきは 吾妻に遺す歌の詠人 |
| 此の園は吾妻屋なりて旅人を また迎へたる花木草とも |
| 然れならば吾妻に依りて夷ぶりの 歌詠倣ひ四じを巡るか |
| 青は藍より出でて藍より青し 浅きみどりも出藍の誉れ |
| いま残す野辺にて春を歌練ず 風愾光の夏に染む間に |
| 春知らぬ名もなき花も風に笑く 忘れて今日の影や健よか |
| 花は色香りあり良し苛なき名 鳥と歌へば春や楽しも |
| 知らぬ名もさしも尊し姿こそ 春野花なりいと愛たしや |
| 春嵐射白らむ跡は朱々と 野辺の嘆きの深み草かな |
| 序でには些か早し春の末 初紅や深み草これ |
| 人知れず紅点す二十日 今日より咲くか花の大王 |
| 春雨よ潮どけたるや接骨木に 次の疾風か梳けき果てらむ |
| 強東風やよくよく聞けば直斬りの 遍く山のみどり怒らす |
| やい此処な無さと爆ぜたる足を空 見れば片喰み撫でふ事無き |
| 片葉三や青み渡るは若やかに 花の盛りを明けてこそ見め |
| 沢野辺や混たたく程の傍食よ 者れば榮ゆ春や得難し |
| おはり依る沢に玉敷く酢漿草の 綠潤ふ然にや我を祈る |
| 夙に出で一目をいとひ道奥へ 雀の袴またも見むかも |
| 山本の岩間を洗ふ白絲の きと影なりぬ日蔭の鬘 |
| 岨崖に水風仰ぐ日陰草 春も終ひには澄み渡るかも |
| 春花の幾日と無きを知りつつも 青み益します日陰の葛 |
| 五風十雨や狐の襷微妙なり 渦の玉影見れやともしも |
| 其こ此こに緑清けし青野原 皐月の前に夏の初日か |
| 明け離る戯り巡りて夏の日に 春の名残りか土筆花 |
| ゆく野辺の置き迷ふたかつくつく子 なれ睦むかな春の景色に |
| 人知れず仔々しく揺るる筆の花 春の形見の未だ青を見ゆ |
| 月末に時過ぎぬるに咲きはやり 雀傾げる鴉の豌豆 |
| 陸奥の同じ空こそ暑かはし 辛し行きては早帰りませ |
| 思いきや暑さ寒さの明け暮れに うつしけめやも言わぬ日はなし |
| 朝夕の児の手柏の二面 悩ましけくも幸くいまさね |
| 竜田川秀手に御かべか花散りの 水括るとは抑何故に |
| 藍を植う早速な降るる幸いに 角も曲るみ珠やみどりむ |
| あを草の染めし袂も惜しむれど 未だく浅きまこと白藍 |
| 足曳きの熨斗目花色擦り衣 若芽息吹きの標しと存ず |
| 此の谷の苔のうす蔭澄み透る むら消しかさぬ甕覗きかな |
| 時鳥羽切りたよりに始水の 藍を植うせにあらかねの槌 |
| 藍植ゑば秘色の空に杜鵑 この五月雨に声なを沁みそ |
| やおら聞く一節鳴いてたつ鳥の 春も静かな朝は淋しも |
| 春浅き恐々訛みす屑唄も をかしもの馴る遠き空音に |
| 忘れずよ朝清め来る友鳥の 春を喜ぶ柔音の声を |
| 倣ひ聴く心に為すと練ずれば 我も鳴けるか友鳥の歌 |
| さらでだに春や忘るる影花の 青葉の上に夏は来にけり |
| この頃の逸る夏日に乾ぶ葉の 繁る緑も梅雨を待つかな |
| むさと散る影を緯来る春の日の 終わりの近き光り美しき |
| 留まらむ春は心にうつしこそ 夏の誘ひの風や息つく |
| 散る春に思い巡らす盃に よせては返す藤浪の月 |
| 青は藍より出でて藍より青し 浅きみどりも出藍の誉れ |
| 吉日の朝の冷たき白埴に 御神酒そそきて踏ノ蒼草 |
| 時鳥羽切りたよりに始水の 藍を植へるはあらかねの槌 |
| 藍を植う早速な時雨る幸いに 角も曲るみ翠賜る |
| 蓼植ゑば秘色の空に杜鵑 この五月雨に声な沁みそね |
| あを草の染めし袂を惜しむれど 未だく浅きまこと白藍 |
| 此の谷の苔の海松蔭澄み透る むら消しかさぬ甕覗きかな |
| 蓼藍の千千の青みを一本に 黒に染めまし出づる褐色 |
| 武士のいち巧したる勝色よ 千度祓ひてほむる燈火 |
| 世の浅き迷ひ免り藍を植う 靑を綴りて開眼縷 |
| 古の千汐に染めし縹縷 八つ弥にわたす青の國なれ |
| 敷島の唱ゑ羽ご含くむ陽陰和れは 遺れ淸水の常なりし影 |
| この池や密かに残す紫乃 足るを得ざらし春の月影 |
| 月もとに一杯衡み春をのむ つくは仕舞いの思ひ分かれり |
| 花の宴春の極めし後ことの ささき藤浪安眠し寝さね |
| 盃を空けて跡無し夢逢へば 天に朝する夏や薄明け |
| 遥々と君が見えにし藤浪の 得難き風の便りすぐすな |
| 春野辺の香に気付く豊さに 光影なる生命儚き |
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