「恨(うらむ)」は、恋における最終局面の歌題です。「恨」という題のとおり、疎遠になった相手への恨み、また悲歎の心が詠まれます。ようするに和歌における恋愛の結末は、決してハッピーエンドとはならないということです。しかしこれが「バッドエンド」かといえば、必ずしもそうではない。例えば春における「花」、ほのかに咲き初め、盛りを迎え、散る… 恋の過程もまったく同じです。すなわち無情にも「恨んで終わる」といのは、平安歌人のひとつの美学であるのです。
さて、「恨(うらむ)」における主な表現としては、「つれなし、つれなき人・君」、「つらし、つらき心・人」、「うらみ(恨み浦見また裏見の掛詞)」などが挙げられます。以下の古歌例をご参照になさってください。
『古今集』より
<不会恋の段階で、相手が会ってくれない>
「風ふけば峰にわかるる白雲のたえてつれなき君が心か」(忠峯)
「月影にわが身をかふる物ならばつれなき人もあはれとや見む」(忠峯)
「逢ふ事のなぎさにしよる浪なればうらみてのみぞ立ち帰りける」(在原元方)
<心変わりを恨む>
「おもふよりいかにせよとかあき風になびくあさぢの色ことになる」(よみ人しらず)
「千々の色にうつろふらめどしらなくに心しあきのもみぢならねば」(よみ人しらず)
「あまのすむさとのしるべにあらなくにうらみむとのみ人のいふらむ」(小野小町)
<離れていく人を恨む>
「あき風の吹きうらがへすくずのはのうらみても猶うらめしきかな」(平貞文)
『堀河百首』より
「うしとのみ人の心をみしま江の入江のまこも思ひみだれて」(公実)
「うらむればかひなかりけり今はただ人をわするる事をしらばや」(国信)
「思ひかねよる打ちかへすから衣うらみをれども知る人ぞなき」(顕季)
「さざ浪や志賀のうら風うらめしと思ふはかひもなぎさなりけり」(師時)
「人知れずみるめもとむと近江なる志賀のうらみて過すころかな」(基俊)
「我からと思ひ知れどもまくずはら返す返すぞうらみられける」(紀伊)
『草庵集』より
おなじ家十三首に、寄月恨恋
「今こんといひしもながき別れにて月さへつらき有明の空」(頓阿)
前藤大納言家にて、恨恋
「つらきをもうらむべき身の程とだに思はで人やつれなかるらん」(頓阿)
「白露の玉まく野べのまくず原心にこめてうらみかねつつ」(頓阿)
「うらみてもかひなき中としりながらうきを心にえこそ忍ばね」(頓阿)
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