日本文化の最重要ワード「わぶ(わび)」を知る!


“古語辞典”もしくは“テストに出る古文単語300”なんてのでもいいのですが、
パラパラとめくってみると、あることに驚かされます。

「あいなし」(形)
「あじきなし」(形)
「いたづらなり」(形動)
「うし」(形)
「うたてし」(形)
「かきくらす」(動)
「からし」(形)
「くちおし」(形)
「くるし」(形)
「くんず」(動)
「さびし」(形)
「つれづれなり」(形動)
「ながむ」(動)
「なげく」(動)
「むすぼほる」(動)
「むなし」(形)
「はかなし」(形)
「わびし」(形)
「わぶ」(動)

悲観的な心情を表す単語がやたら多い!

文化とは言葉に表れるといいますが、この豊かさを見るに、古き日本人の悲観主義は筋金入りのようです。
ちなみに現代では同じ心情でも「悲しい」「苦しい」「辛い」程度で足りますから、ずいぶんと前向きな国民に変わったものです。

さて、この豊富な“悲観語”のなかでも、最重要ワードが「わぶ」です。
「わぶ(わび)」は茶道(わび茶)の美意識を表わす言葉としてよく耳にしますよね。
わび茶の「わぶ(わび)」はざっくり「不足の美」といった解釈がなされていますが、元を辿れば古語の悲観表現のひとつだったのです。

ちなみに「わぶ」は他にも多様なニュアンスを持った派生版があります、たぶん“悲観語”の基準だったのでしょう。
下に列挙しましたので、微妙な「わぶ」の違いを味わってみてください。

打ちわぶ
539「打ちわびて よははむ声に 山びこの こたへぬ山は あらじとぞ思ふ」(よみ人知らず)

恋ひわぶ
558「恋ひわびて 打ちぬる中に 行きかよふ 夢のたたちは うつつならなむ」(藤原敏行)

泣きわぶ
798「我のみや 世をうぐひすと 泣きわびむ 人の心の 花とちりなは」(よみ人知らず)

わび果つ
813「わび果はつる 時さへ物の 悲しきは いづこをしのぶ 涙なるらむ」(よみ人知らず)

わび痴る
1068「わひ痴らに まじらな泣きそ あしひきの 山のかひある 今日にやはあらぬ」(凡河内躬恒)

このように微妙に表現を違えて「わぶ」を使い分けていたことが分かります。
一方でこちらの方が重要なのですが、「わぶ」に共通する言意も感じとっていただけたでしょうか?
例えば百人一首にも採られた恋歌に特徴的なのですが、

「わびぬれば 今はた同じ 難波なる 身をつくしても あはむとぞ思ふ」(元良親王)
「思ひわび さてもいのちは ある物を うきにたへぬは なみだなりけり」(道因法師)

これらには決して叶わない恋の嘆きが歌われています。
男女の仲をして「世の中」と言っていたこの時代、恋の破滅はそのまま人生の破滅。
「身を尽くす」や「いのち」なんて言葉が詠まれるのは、それほどの切迫感の表れなのです。
つまり「わぶ」とは人生そのものを憂う、最大級の悲観表現だったのです。

そんな言葉が多用されるのが和歌、
平安歌人にとって世を憂う「嘆きの姿」こそが美の表れであったのです。

この複雑な心情、現代日本人まして外国人にはきっと理解し難いでしょうね。
「日本文化の特徴は?」と聞かれ、
「わび・さびです!」なんて安易に口にしない方がいいです。

(書き手:歌僧 内田圓学)

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