平安貴族にとって、最大の苦しみはなにか?
叶わぬ恋? それとも極貧ボンビー生活??
いやいやそんなもんは「世のならい」として、当然に受け止めています。
平安貴族にとって最も辛いこと、それは「夏の暑さ」です!
人間、本当に辛いことこそ、なかなか言葉にできないものです。よね?
だからですよ、古今和歌集の「夏歌」。
たった34首しか歌がないんです。「春」は上下134首、「秋」は上下145首の歌があるのに!
夏は草花が繁にしげ、虫も騒々しく、歌の景物に事欠かない季節です。
それにあのジリジリと焦がれる太陽、それを「わが恋心」に見立てて歌ってもいいじゃないですか!
だがそんなことは決してしない…
かろうじて「ほととぎす」に恋心を触発されるくらいで、ほとんど無気力、無関心です。
→関連記事「古今和歌集にほととぎすあり」
もう口を開くのも面倒なくらい嫌いだったんですよ、夏のことが。
あの寝殿造りを見てください。
仕切りをトコトンなくして、風通しを最優先させたのです。
「涼しい風こ~い」って。
あの着物見をてください。
袖口を大きく開け放って、風通しを最優先させたのです。
「涼しい風こ~い」って。
いくら「スースー」したって、冬の寒さはなんとか我慢できる、
ただ夏の暑さだけはどうしようもない!
衣住を見ても、夏が半端なく辛かったことがヒシヒシと伝わってきます。
だからでしょうか。
「秋」の訪れを真っ先に知るのは、涼やかな「秋風」なのです。
「おおー、秋風きたー」って感じで。
→関連記事「秋の訪れを知る、秋風の音」
平安貴族にとっての秋の到来は、
月や紅葉など美しい景物との出会いの始まりと同時に、大っ嫌いな「夏」からの解放を意味していたのです。
「心づくしの秋は来にけり!」
いろんな感情が、この一言に込められているわけです。
(書き手:歌僧 内田圓学)
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