●10月10日
あの有明の朝から
彼とはほとんど会ってない
今日も友達と予定があるとかって
みじかいLINEが来た
彼はこんな一文で済ませてくるけど
私はもっともっと話がしたい
こんなに好きだってこと、全力で伝えたい
会えばきっと、私のこと分かってくれるはずだから
小萩に置いた露が重たくて
それを払ってくれる風を待つように
私も彼からの連絡をひたすら待ってる
694「宮城野の もとあらの小萩 露をおもみ 風を待つごと 君をこそまて」(よみ人しらず)
●10月25日
もう限界!
このままずっと待ってるだけなんてできない
私に足りないのは行動力
嫌われたっていい
彼の気持ちが知りたいの
だから、
いつかみたいに「来ちゃった」ってやつ
リベンジしてみたんだけど、
やっぱ無理かな…
ううん、今回は部屋の灯りはついてるの
でもいざとなると、ドアをノックできない
何にビビってんだろ私、、
あ~
初雁が鳴いて通り過ぎるように
私が何度も何度も、家の周りを行ったり来たりしてんの
彼に知らせてやりたい!
735「思ひいてで 恋しき時は 初雁の なきてわたると 人しるらめや」(大伴黒主)
●10月25日
私ずっと、彼のこと一途に思ってた
内緒で付き合おうっていうから
それを真に受けて、誰にも言わないでいた
それがなによアイツ
別の女しっかり連れ込んでイチャついてんじゃん
窓越しに、私はっきり見たわ
ほんとバカ
なんなのよ
とにかく最悪
今はもう、何も考えられない
748「花すすき 我こそしたに 思ひしか 穂に出でて人に 結ばれにけり」(藤原仲平)
つづく…
(書き手:歌僧 内田圓学)
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