ML玉葉集 夏部(卯月)


短歌ではなく、伝統的な「和歌」を詠むことを目指す和歌所の歌会、
そのご参加者様の詠歌をご披露させていただきます。
※2018年4月はおよそ三百首の歌が詠まれました

ご参加者様のほとんどが、和歌所の歌会で初めて歌詠みとなられています。
それでも素晴らしい歌が詠めるのは、無意識にも私たち日本人に「日本美のあるべき姿」が宿っているからです。歴史に培われた日本文化とは本当に偉大です。

私たちと一緒に和歌の詠歌、贈答、唱和をしてみたい方、ぜひ歌会にご参加ください。
歌会・和歌教室

まどろめばはや暮れ六つとうたつぐみ寝覚めの庭に花風たちぬ
やちくさに花咲きほこる野べのあさ一朶の花もいまをかぎりと
しろたへの羽とおぼしくちりゆきぬはかなき春にあをにびの風
うたた寝のたにには春もつねならで くれむつ庭にみる鳥もなし
へだてどもたまくらの香に包まれば 君と相見ゆ夢の通ひ路
遥かなるふるさと霞むまつげかも 春のながめにうちしぐれつつ
おほつちのいぶきて春は高高と クロウタドリのむつましきかな
この春の涙をそへてながめせば 桜のいかでのどかなるらむ
夢の門にただよふ風や梅が香をたよりてゆかむぬばたまの夜に
たんぽぽのサラダ食卓飾るころ 待ちきれないわ春の寄り道
まだ浅き仄かに暗き春なれど 槌やわらかに草やや堅し
風にふるさくらを送るかきつばた わが時や知る杜の花田で
いつの日か 会えると信ず 我が姪子 思い馳せては しあわせ願う
夜半なりて 月影落ちる 庭桜 閨に扇も 落としてみるか
はら落つる扇に映る朧月 行方も知らぬ道の標や
石はしる垂水に春の溢れきて たわわに揺らす花の枝先
見上げれば花はまばゆき空に居て 短き春の夢のあはれぞ
小夜更けて朧月夜に舞う花は しるべも隠す淡き白波
咲くを待つ心を識らば春よりも 散り逝く花の雪に見ゆるは
きさらぎの望月のもと過ぎぬるを 沙羅のいはれはまたの息吹きも
せめてもの風の情けに吹き返す つつ闇に咲く白き星垣
今しかた瀬見の渼陰も去りゆきて 沢辺の水も春透き通る
明日よりは花なきあとに何ぞ待つ 常にならむや桜人には
道の辺に清水ながるる柳かげ 春過ぐ風を受けやはらかに
あかねさすはなまつえだにきこゑしは こころさそはるそらわたるうた
時雨たるまつげのさきに春霞む 父みせくれしふるさとの山
ひるひなか近江の湖(うみ)をながめせば いと疾き春ものどかなるらむ
「道成寺」を観し夕刻の艶移り 庭の桜も月もあやしう
我が袖にかほりをとどむ花の兄 野の狭の春を 領ず心地ぞ
菊理姫の泪(なだ)のむ今宵にほやかな 花の弟ひたすそのなだ
梓弓はるにとばしる恋てらす 朧月夜の花ぞはかなき
経てもなく緯も定めぬ 花風に 頓みに縫ひたる 絲やうらはら
経糸と緯糸におる綸子(りんず)とも えにしうたふや歌姫みゆき
雨なんて慣れてますからぬれた目の  上向きまつげはウォータープルーフ
木のもとに花さきいたり微笑みて 爾咲かすは大地の涙
ぬばたまの闇にながるる涙とて 川面にうつる天の光は
のんびり屋春驚かそうお日さまに もらった欠片をサラダに入れて
春の宵風吹きあがり桜花 天の川面で星となりぬる
よるべなきちりゆく花にあらずして 天の雅や砂子とならね
うちなびく春を奏づる青柳の 枝の糸より緑こぼるる
おもひやるふるさとの春おぼろけにしだる桜もかすみて見ゆる
音もなく白きすももに小夜ふけておぼろ月さへかげをおとさむ
夢の門にただよふ風や梅が香を たよりてゆかむぬばたまの夜に
さ夜ふけて月めでむとやかたむける おぼろに透けるはなのかんばせ
枝垂るるは花のみならずふるさとを おもひやまざる銀のなみだぞ
百川のながるるはてに鳰のうみ 花ひら留めてあふみなりぬる
花了ふ明日のこはさに上野山 盛る宴ぬけともしびみつむ
よるやみも天の光と微睡まん 桜襲の衣をしきて 
晩春に入相の鐘なり響き 花も散るのは道明寺かな
江之島に雪荒ぶ中を来てみれば 萬疋織る白の階
黝き春淡墨む月よらうらうじ 靄みを祓ふそそく風早や
珠草の籠りし美影よ月と陽と 朝処ろに慰みを見ゆ
明け影の綾なす玉の瑠璃細工 悪戯彫るる細蟹の絲
なむつけやけらをひきまろいなかたち あまひこよしやいなごまろかな
くくなべて心ならぬは優れたり やむごとなきき蟲愛づる姫
梓弓推して朝風陽を放つ 春の五色射てよ曙
朝海の千沙の若音よ楚々と聴く 今由比ヶ浜心地良き春
若柳の枝も撓に多磨露の 川辺の影も薄く明けし
春面柳の翠も紅を挿す 杏の蕾も溢れぬばかり
道奥の冬間を別けて来る水の 春は盛かゆく心地こそすれ
春追いに根を硬めつつ下萌えの 磨げる蔭や嬉しからまし
陸奥花に乱れ染めしや春の彩  影見し水も里の花咲み
滴るき春さえ晴れぬ深山辺の 初音も迷ふ陰や弛しく
浅浅き三寒朝の山峡は 四温霰に春を知る哉
こそ癢ゆひ風の探る夕梢 茜の萌ゑ実も春を綾なす
春黴雨や木末に迷ふ水の多磨 上葉下葉に消へ返りみゆ
冬さらば大広ろ高く山霞み 色に膨らむ春の溜め息
旨しには吾妻遊びよ駿河舞 著しろく笑め踏歌名告りそ
春嵐や終に混じて山の端も 櫻開くか見れども飽かぬ
候待たず巳風を逐ひつ雨露の春 恩希はうら蜜に萌ゆ
悉く水面綾なす千代の宇多 寒磬なんなん春の香渼
経てもなく緯も定めぬ雪風に 頓みに縫ひたる絲やうらうへ
今日とてや言ひ継ぎ行かむ春雪に 白妙揃ふ友の隨に
何となく冬とは違ふ春雪の 冴ゆもやわらな心地こそすれ
あなにゑや春もうらはら掻き消ゆと 還す野辺にはまたの白桃
寒さ知る雪の紛れに別れにし 君をば何時の春かまた見む
夕間暮れ眺めせしまに緩ひ まこと潔白し移りにけりな
帰り路の鳥の声より暮れ染めて 浮きて漂ふ桜白々
灯し頃鳥や群れつつひひ鳴きの 遊び見ゆれば心楽しも
戻り戸の掛かる茜に和みつつ 追ひ来る影の笑ふ声聞く
あら楽や円居せる夜に更けゆけば 見まくのほしき春の夜の夢
明け染めに甍を叩く百千鳥 上がり騒ぐに春盛りける
春鳥よ朝なさな聴く良き声も こぼち散らすやはて喧しき
うた声をさのみ聴きけむ我なれば 果ては麗し目白なるらめ
流れ来ぬ雪き水こそ冬別れ 里はいよいよ春めき出づる
霞み晴れ影淡しこと色浅く 蟲戸を啓くやわし春泥
騒ぐらし明けぬとしたちとき告げの 露に零れる春の朝声
春今のむらむら咲くや朝桜 いつを限りと常のなみこそ
いまは音の細き短し小さきこと 雲井のよそにいつか届かし
西空の残り星刈る桜東風 闇より白む遠の山の端
道奥の朝けの山は仄暗き 零れる光も触れる程なり
小暗きも花散る道を踏み行かば 渓まに咲きつ花を見ましや
雲の散る山の貴方は明けやらで うち延へて尚花になる頃
花は風語りて風や人便り 春を伝へる雲に聴くまで
明か時に何くれ競ふ花を見ゆ 霞に追へり薄く咲くらも
咲き合はす見ぬ空までも長閑にて 花影括る山は春笠
花に花鳥も群ぐむ春盛り ありとあるもの匂い酔い痴る
櫻真風広ごり紛ひ春めきぬ 鷹も鳩為る山もとの里
遠方のつくづく淡し峰桜 霞み綱はる鴇羽色かな
九重に日次月次咲きほこる 余所には春もあらじとぞ思ふ
桃衣褐の花も濁りて咲き盛るる 夢の逢瀬に尚の是ども
桜咲き撓るに溢すうら山し 花の宓まるほどを待つ間に
春分きて色濃き花も谿を越す 散る方のぞむそろそろの蔭
久方や友あらばこそ花人の 遊ぶ春日に暮れずともよし
目暗ころ月に近づく花灯り 泡沫に消ゆ春もさながら
誰そ彼に半ば色どる夕桜 そそ吹く風に散るも涼しき
今し早や風をさまれと花しづめ はららはららに夜に散るらむ
夜にわたる梢鳴らして花吹雪 月かげろふは白み染め見ゆ
深き夜に散る果てを見むおなじうも 失するに降るる春故にこそ
空に散りの白くきらひし百積に 密けさに消ゆ春の影とも
十六夜にあまたも落ちぬ春花よ 木末の影の色ぞ明けゆく
忘れじの弥生縋るか桜蘂 沢にひら桜花の盃
春うみの残り桜はか弱きて 光婆娑羅に奇し愾もなし
花巻きの往き触る毎にうち掠む かばかり放る思ひてむやと
したけ吹く惜しむ心をみ留むれば 裂けゆく程の透る薄けさ
ひとひらをありつつ見れば唯空の 光り扇にふうわりと舞ふ
影つかぬ誘ふ香もなき色失せの 花麗毀つおぼせ余情に
鳥じもの春の端に発つ桜ひら 泪も染めぬ花鑑かな
入日方同じ名を持つ桜花 頻りて逝くか眺めせしまに
春疾ち猶そひ吹くか差しつめに 破れて砕けて風散々な
光鋭き巻向く風も終わり無く 引きかなぐるは哀れ無慙な
事無きの花散り跡のこの原や 朱の泣き果て暮れ泥むまま
真幸くてまた咲き逢ふと目くはすは 忘れかねつも花妙桜
せめてもの風の情けに吹き昇り つつ闇達つは淡き花垣
浅くから中翠より深く立つ 春のありがほ其れ草の事
今しかた瀬見の渼陰も去りゆきて 沢辺の水も晴れ透き通る
散り跡の梢の上に茂み見ゆ 春やたけなわ匂ふが青枝
川に沿ふ梢は軽くうち靡く ひかり長閑き春の水風
友鳥の戻る声聴く沢野辺に 水面なずさふ春もみち見ゆ
葉桜やようずに湿る芬馥の 氣は重みみつ情を改む
葉模様の聴けぬ光を朝に見る 透けつつ硬く緑帆走る
春のみて吹き還すこと野辺にある 滅緋丹塗り脈を渡る
丹は青み柔き槌かもさし變す 夢とく蕨あな芽出たきや
今少し吹き分けの音に心する 千種の波の音姿然に
鶺鴒や教え声聴き奏でみる ふと覚へたる身なから嬉し
春風や小手鞠の花さよ揺れる 卯月の十日余り一日に
塞ぎもて春行く儘に風たちぬ 霞にかへるやち埃かな
四方嵐いとせき難く吹くからに 手向け良くせと荒らしこの春
余りにももの急ぎしは味気なく 連れなく離れし風の災ひ
春まけの患ひ多き悪戯に 散り飛埃に次は檜か
眉根掻く頭も痛し何しかは また懲りづまに春巫山戯過ぎ
此の春のもて悩み種花病ひ 通ふ原野の道の苦しき
桂かな梣なのか何の木よ 逸そこの木は何じやもんじや
春鳥や囀り落とす影になく 寛に揺蕩ふ陽な曇りらむ
瑞喜雨貫簀様なる翠葉や 春猶まけて苜蓿かな
少し揺る白詰の草影精ぐ 振れるか舞ふか風や紋白
時雨かく暫しの染めそ青木なる 光異なる薄き紅
古り増さる草木有れとも新出づる 青し若芽やゆゆしく健気
明来に漏る光をもてに蔭うらに 一葉に宿る同じ緑は
楪の今ここにこそ春此処に 葉裏に遺す寂し日の陰
内きわの心の陰に触ればふる 移る色なき透き莟むもの
殊になむ今日の山野の増すけじめ 丹を染む草に春鹿の鳴く
鴇掛かる凸凹ぞ生みける竹の秋 其れも其れすら春の一色
春雨よ揺れつ別れつ散り際に 濡れても行かむ来る風と行く
今日しもの帰さ路にある青葛 ふとたけそかに花や見る見る
くたちぬる藤の紫その奥野 花山吹か分けて来つらむ
山振の花揺らす風黄金色 情を浮かぶ春惜しむ頃
金春よ風に契りし咲き括る 及くは無しかな山吹の花
春ふる期八重の山吹出で合へば 移ろふことも惜しからましや
山吹や枝折な穂さすまた春よ 風透くまじく咲きに咲くらむ
布瑠ノ言一二三四五六七八九十 布瑠部由良由良止布瑠部唱ふ
今朝もまた甍を争ふ朝鳥の 散楽可笑し応えず笑ふ
如ならば甍の上に登り来て 我も唄うか朝鳥の夢
日に慣ひ朝の福茶を頂きつ 灑く青みに春の息つく
花も実も風さえ匂ふ橘よ 常葉の歌を言ノ葉に榮ゆ
トキジクノカグノコノミや立つ花の 常世草なる橘や
色色の草木葉を見て花酔へば 可笑しき春の心地良顔や
瀬を早みさて瀬を早み鏡破る 割れても末に買わんとぞ思ふ
桜狩西から東移れれど 関決まらぬは桜餅なり
吹きかける をとめの息の あたたかに 花咲き芽ぐむ 指先の春
身を焦がす激しき恋とスペインの 真夏の日差しいづれまされり
はらはらとかそけき風に舞う音は 散りゆく春の便りなりけり
ふと見れば黄色い帽子被りたる いつの間にやら大きうなりぬ
童らの集いて行きし声聞ゆ 老次萎る里や華やぐ
神ならぬ人も燕も天を舞ふ 傘の花咲く花の都で
綿ぼうしまうくふぢなや思ひ出ず 生ひ立つ原と見つぐ人らを
ビニル傘に花付け天をつく球場に 村上春樹へ天啓落ちぬ
春暮れて緋色に燃ゆる花躑躅 霧島山の焔に似たり
橘の夢の名残りに鶯の 声懐かしき彩の雲
懐かしき文をなぞりつ思ひ出づ 変わらぬ友や花たちばなや
うぐひすもただ黙すらむ散る花に 去りゆく春を告ぐ音こそ聞け
鏡やら結ふも解くやも構わぬも 紗抜や大事ないかとぞ思ふ
鏡売りおとこおんなの糸結ぶ 御歌の技ぞいとど畏し
瀬を早みさて瀬を早み鏡破る 割れても末に買わんとぞ思ふ
山藤の揺らす谷風ふきながら 薫りのせゆく波の間に間に
駆け出しの目の端もきかぬとうふやは からくれないし三つくくるとは
竜田川秀手に御かべか花散りの 水括るとは抑何故に
信号機おぼえたてなりつくし組 黄色帽子の子が子におしへ
虹色の雲と旅する橘の かをりをまとふ天女もあれよ
夢の跡はまだらに萌えてしじうから 喰ひし花ひらみどりのなかに
さびしさで 仙の翁(おきな)を 訪ぬれば 紫色に 都わするる
風立ちてあがるしぶきや藤の波 春をとどめん我が手に取りて
行く水へ名前をしるすはかなさに 白きはこべの花を浸しぬ
春宵に月影落ち 庭桜 閨に扇も落としみようか
過ぎゆくは若葉を揺らす蒼き香の 谷間を渡るただ春の風
さまざまに色なす翠萌え出づる 深山の風もやはらかきかな
久方の日はあたたかき谷川に かえでひろげてやすみけるかな
谷川の溶けしばかりの冷たさと 流れに冴ゆる山吹の花
色映えて淵に吹き落つ山吹の いでそよ人の夢流れゆく
山藤を揺らす谷風ふきながら 空の波にも香りのせゆく
池の端の爽にそよぐ蛙手(楓)には ふるきよすがを尋ねきかばや
木の間から藤の落とし香何処より 高き梢に鳥の声かな
涙川瀬々行くすゑのあふみまで 流れてとくと春を見るかな
遥かなるふるさと霞むまつげかも春のながめにうちしぐれつつ
おもひやるふるさとの春おぼろけにしだる桜もかすみて見ゆ
明日よりは花なきあとに何ぞ待つ 常にならむや桜人に
千早ふる 猩々舞ふは 唐の河 赤髪振らば 夜もくれない
我が袖にかほりをとどむ花の兄 野の狭の春を領ず心地ぞ
酒壷に映る月をも紅を差す 猩々舞へる九江の里
やよ歌え謡うたいに歌詠めと 歌うて見すはうたた寝の歌
鶯や囀へづる空は変はらねど 春は薄々改まりつつ
金澤や立ち待ちの日の卯の月に 藤谷殿の跡見や訪ぬる
文庫にて心を閲す古の 古歌奏つ称名寺
仁王座す慎ゆゆしき山門は 古人の形見なりけり
阿字ヶ池夢の浮き橋中之島 高知りまして西方浄土
くうくうと鳴くは泥亀鳥來月 毀ち散らすや虚仮の声かな
亀の鳴くゆほびかなるる辺りには ときめく頃の蝌蚪一群
この池の鯉や向き向き水面ゆる こは撫でふさま雅かなりや
様々の歌々樂し春鳥の 水面に浮きて声ぞ流るる
花曇り下晴れすぐる沢野辺の 六浦楓も緑色づく
青々と綠こき混ぜ鮮らけし 春に随ふ木々や色々
春なれや貴てに聳ゆる一葉よ 挟間の裾にひかり落ち来る
やや暑く木陰訪ねて涼むれば 可笑しく練ず声も降り来る
強からぬ色をとりつつ浪たての 振りやりゆくは音を柔らかく
花残る声は迷いてひとり鳴く せっかく倣へ春のとまりに
聞かずとも此処を瀬に逼む蘖の 秋待つ綠ここら咲くらむ
金澤に日向稲荷の三山よ 御むろ青葉に藤浪たちぬ
春桜夏黄菖蒲秋紅葉 冬雪冴えし金沢山よ
秋来れば緑染まりしこの園も 風音すらも紅葉するかも
此れやさは津々浦々に聞くと云ふ 鐘や暮れうつ称名寺
影遺す遠き昔の金澤よ 豊けさ見へて春ぞ楽しき
誰としも知らぬところの哀しきは 吾妻に遺す歌の詠人
此の園は吾妻屋なりて旅人を また迎へたる花木草とも
然れならば吾妻に依りて夷ぶりの 歌詠倣ひ四じを巡るか
青は藍より出でて藍より青し 浅きみどりも出藍の誉れ
いま残す野辺にて春を歌練ず 風愾光の夏に染む間に
春知らぬ名もなき花も風に笑く 忘れて今日の影や健よか
花は色香りあり良し苛なき名 鳥と歌へば春や楽しも
知らぬ名もさしも尊し姿こそ 春野花なりいと愛たしや
春嵐射白らむ跡は朱々と 野辺の嘆きの深み草かな
序でには些か早し春の末 初紅や深み草これ
人知れず紅点す二十日 今日より咲くか花の大王
春雨よ潮どけたるや接骨木に 次の疾風か梳けき果てらむ
強東風やよくよく聞けば直斬りの 遍く山のみどり怒らす
やい此処な無さと爆ぜたる足を空 見れば片喰み撫でふ事無き
片葉三や青み渡るは若やかに 花の盛りを明けてこそ見め
沢野辺や混たたく程の傍食よ 者れば榮ゆ春や得難し
おはり依る沢に玉敷く酢漿草の 綠潤ふ然にや我を祈る
夙に出で一目をいとひ道奥へ 雀の袴またも見むかも
山本の岩間を洗ふ白絲の きと影なりぬ日蔭の鬘
岨崖に水風仰ぐ日陰草 春も終ひには澄み渡るかも
春花の幾日と無きを知りつつも 青み益します日陰の葛
五風十雨や狐の襷微妙なり 渦の玉影見れやともしも
其こ此こに緑清けし青野原 皐月の前に夏の初日か
明け離る戯り巡りて夏の日に 春の名残りか土筆花
ゆく野辺の置き迷ふたかつくつく子 なれ睦むかな春の景色に
人知れず仔々しく揺るる筆の花 春の形見の未だ青を見ゆ
月末に時過ぎぬるに咲きはやり 雀傾げる鴉の豌豆
陸奥の同じ空こそ暑かはし 辛し行きては早帰りませ
思いきや暑さ寒さの明け暮れに うつしけめやも言わぬ日はなし
朝夕の児の手柏の二面 悩ましけくも幸くいまさね
竜田川秀手に御かべか花散りの 水括るとは抑何故に
藍を植う早速な降るる幸いに 角も曲るみ珠やみどりむ
あを草の染めし袂も惜しむれど 未だく浅きまこと白藍
足曳きの熨斗目花色擦り衣 若芽息吹きの標しと存ず
此の谷の苔のうす蔭澄み透る むら消しかさぬ甕覗きかな
時鳥羽切りたよりに始水の 藍を植うせにあらかねの槌
藍植ゑば秘色の空に杜鵑 この五月雨に声なを沁みそ
やおら聞く一節鳴いてたつ鳥の 春も静かな朝は淋しも
春浅き恐々訛みす屑唄も をかしもの馴る遠き空音に
忘れずよ朝清め来る友鳥の 春を喜ぶ柔音の声を
倣ひ聴く心に為すと練ずれば 我も鳴けるか友鳥の歌
さらでだに春や忘るる影花の 青葉の上に夏は来にけり
この頃の逸る夏日に乾ぶ葉の 繁る緑も梅雨を待つかな
むさと散る影を緯来る春の日の 終わりの近き光り美しき
留まらむ春は心にうつしこそ 夏の誘ひの風や息つく
散る春に思い巡らす盃に よせては返す藤浪の月
青は藍より出でて藍より青し 浅きみどりも出藍の誉れ
吉日の朝の冷たき白埴に 御神酒そそきて踏ノ蒼草
時鳥羽切りたよりに始水の 藍を植へるはあらかねの槌
藍を植う早速な時雨る幸いに 角も曲るみ翠賜る
蓼植ゑば秘色の空に杜鵑 この五月雨に声な沁みそね
あを草の染めし袂を惜しむれど 未だく浅きまこと白藍
此の谷の苔の海松蔭澄み透る むら消しかさぬ甕覗きかな
蓼藍の千千の青みを一本に 黒に染めまし出づる褐色
武士のいち巧したる勝色よ 千度祓ひてほむる燈火
世の浅き迷ひ免り藍を植う 靑を綴りて開眼縷
古の千汐に染めし縹縷 八つ弥にわたす青の國なれ
敷島の唱ゑ羽ご含くむ陽陰和れは 遺れ淸水の常なりし影
この池や密かに残す紫乃 足るを得ざらし春の月影
月もとに一杯衡み春をのむ つくは仕舞いの思ひ分かれり
花の宴春の極めし後ことの ささき藤浪安眠し寝さね
盃を空けて跡無し夢逢へば 天に朝する夏や薄明け
遥々と君が見えにし藤浪の 得難き風の便りすぐすな
春野辺の香に気付く豊さに 光影なる生命儚き

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