皐月の歌集(歌会ご参加者様の詠歌)


短歌ではなく、伝統的な「和歌」を詠むことを目指す平成和歌所の歌会、
そのご参加者様の詠歌をご披露させていただきます。
※2018年5月はおよそ百五十首の歌が詠まれました

ご参加者様のほとんどが、平成和歌所の歌会で初めて歌詠みとなられています。
それでも素晴らしい歌が詠めるのは、無意識にも私たち日本人に「日本美のあるべき姿」が宿っているからです。歴史に培われた日本文化とは本当に偉大です。
私たちと一緒に和歌の詠歌、贈答、唱和をしてみたい方、ぜひ歌会にご参加ください。
歌会・和歌教室

駘蕩と山風わたる差羽二羽 胸ひろげつつ夢を瞠れよ
テキサスに孔子の巨躯の影は彳ち 星待ち乍ら鉄弦響らす
闌く春や夏の山くちなぎ藤の 虚しき空に春雨ぞ降る
儚くて過ぎにし花を訪ぬれば 哀れ五月雨八十八夜
五月雨に所縁の深き紫は 浪散る跡の手毬花かな
降る雨に昔植え置き杜若 薄紫に滲む花色
青葉も見る目に美しき午後しばらく 音沙汰もなき人を おもひて
鈍色の雲湧き起こる暗き午後 若木そよぎて又三郎が咲ふ
白鳥の羽根うちかはす大空はのどけき春の風の香に満つ
爾の御国海へだつとも爾を濡らす 雨今し我が肩に掛かれる
山鳩の聲求めつつ尾根来れば 金時山は蒼穹の中 
便りある風もや吹けば藤浪の 寄せて久しき友の歌声
紫乃浪に溢れる春美禄 南風誘ふことの宜しさ
春月夜一杯衡み影を呑む つきて仕舞いの思ひ分かれり
花宴春の極めし後ことの さゝき藤浪安眠し寝さね
盃を空けて花唄夢逢へば 天に朝する夏の薄明け
遥々と君が見ゑにし藤浪の 得難き風の便りすぐすな
闌く春や夏の山くちなぎの藤 虚しき空に春雨ぞ降る
辛くして過ぎにし花を訪ぬれば 哀れ五月雨八十八夜
沙月雨面影近し紫は 引き波に問ふ花菖蒲かな
ふり染めに色やあせなむ藤の花 未だ涼しき夏の初風
野辺に或る盛り降ち逝く事絵巻 光と影にいはば心無し
誰そなき事にす野辺の歌を詠む 止む無き時のい継きい継きを
寺井守青根た走る深緋は 妖し照らむや腹の毒なり
目狩る頃皐月の闇ま這う苔の 柔毛を撫づる井守艶しき
朱聖神鳴る様の影ノ紋 さしも傷無き赤腹蠑螈
射干玉の濡羽擬きの平躯 労痛し匂ふもし奇やある
ずぶずぶと入りてかつ消ゑ音無くに 空に浮ぶか池に沈むか
水底にゆらゆら沈透き忍びよる 蝌蚪を狙ふ弥真瓊の蠑螈
黒蝌蚪かり追放たる窟の閒に 事断割くる術も術なし
得ずなりぬ過ちにてか蝌蚪文字 命窮めむ夏の疾りに
応へぬに呼ぶ子虚しき初声は 五月の雨に河鹿泣く泣く
浮き草の溢る涙を水茎に 鯉魚曳きなむ日の一線を
一念に龜ども誦んじ巌なる 雨も問わずに池に飛び込む
強雨打つ足掻き呼び水音を失して 草間縫ひくる巳ずち蛇
赤口に畦を舐るか口縄の 油仕掛けの腹巻なめれ
春の鳩雨に醒めるか鷹の目の 草間の大曲蛇影を的す
雨水漬く占文刻む蜘蛛の綱に 玉星光る咒ひ眩ゆし
池に映う五色鱗鯉のぼる 端午の節に雨に翔けるか
六の六変じて九九の甲美為れば 花の鱗昇り竜かみ
ゆうるりと子髭靡きて平遊び 辺りの青葉今こそ菖蒲
日の綴り移れば変へつ濤の音 誰に見せまし鯉の一跳ね
打ち付けに山端に駆かる曇天の 競べ響もし鳴るに腹がふ
日隠の井戸や滴る衛府の督 赤や装束く弥真瓊のゐ護
霹靂神轟轟に山を割る 姿きらぎらし衛士凄気なり
ゐさら井に十文字に秘する秦の素 瑞き衛士の府毒ふくむ者
折りしくも岩間に爆ぜる白浪の 水隠り侍る磐井の石竜子
厳厳し久米の子井守水国乃 ゐ這ひ廻り撃ちてし止まむ
黑さやに碇をすへし固ノ紋 末の葦牙園生に報ず
か黒きは蜷の腑居守なる 泥土と志り立つ憂くぞ自ら
諸人のこぞりて唱ふ理の 実にも過ぐたる事は目見えず
流されず留まりもせず隈に秘む 護りし者の行方知らずも
己がじし風の飛礫と為りにけり なぐさめがたき玉霰かな
借り軒に五月雨る様を見遣りつつ 友鳥偲びて言ひ掛けたらむ
徒然や雨の宿りの手すさびに 掬びて零す糸水涼し
晴れ曇り五月雨る数や知らねども 懲りても猶の梅雨はこれから
忽ちに空の春道立ち消へて 風塵塞き上げ曇りもぞする
空鈍て重く厚肥ふ暗雲の 沼田打ち巡り大蛇なるかな
八丘八谷這ひ出で渡る雲鱗 斑濃に剥ぎて里に打ち敷く
音鳴りの矢継ぐ光り矢雲間から 蜘蛛手放てし由奏せんとす
惠むべく遠呂智化生なふ産土よ 皐月にかけて落つる涙に
五月女の菖蒲吹く頃早苗きく 産霊雷根こそ泣かるれ
口縄や蛇蟒蛇大蛇丸なり 海千山千然れば龍神と化す
水神の雨風降らす高霎神 八千よ河守闇霎神なり
企てむ千年の矢壺七重八重 曲かり區ねるや八岐大蛇
根ノ国に痴れ者狂ひ道交わす 追ひつ追はれつ笑はば笑ゑ
為を果せん十拳剣捧る 優曇華兆す草那藝之大刀
八雲立つ流人素戔嗚且つ且つに あいだてなして高日知らしぬ
足るを得て足らずを失すととつをいつ 爭ひかねて問ひし君はも
「おさら おみんな おさら おてしゃに おてしゃに おとして おさら おみんな おさら」
「ひよどり ひよどり だるまのめ なかよし つまよし さらいっとん ちょいすけ おさら おみんな おさら」
散らぬより青み益々もみち葉の 時雨や時雨都誇りや
蝉声にくはやきよきよ驚きぬ 珍しけれとややと根目付く
かかと鳴きがはと羽根斬り謡終ふは 心遊びの鴉笑ゑる
ごろごろと掛かる徴に集ひ出で 守宮くふ敷く雷鳴りの陣
空五倍子の喪ひ着為す守宮かな ふためく雨を具し参上る
淡雪か綠翅もつ白膠木の木 蟲瘤つくる空五倍子色よ
久米謳ふこはゐのごふそ嘲りぞ ええしやこしやああしやこしや
土雲の八十梟帥ども今撃たば 臍を固めし歌に覚悟す
厳厳し久米の子守宮秀真の子 這ひ廻るふ撃ちてし止まむ
一頻り五月雨る中につっとして 守宮幽かに搔ひ密みゐる
五月雨や今にし過ぎし陽の戻り 草葉に照らす喪家の衣
落ち人や古り果つ城を衛りせば 御伽婢子の日本守宮か
み守宮よ果てて護ると動かずに 蟻の思ひも天に昇るか
水取りの蝶の愛しき透き衣 暫し休らひ西に向かわむ
君し待つ露を祓いて糸を縒る まんまと綾す細蟹の罠
鷄や蚯蚓と遊び明けゆけば 仏拝み思ふ事なし
ときはなる西陽に染めむし出の山 己が衣衣越え逝きつらむ
斯ふ斯ふと事のあらまし平曲に 誦文爪弾く蝦蟇法師かな
小牡鹿のかいよかいよと恋ふ歌に 蛙に変じ捩り捩るよ
しれじれに石亀据ゑ並む代官は 何か可笑しきかゝの殿様
夢覚めて心無す業の繰り事に 眺め侘びしき雲の通ひ路
かきかくに夜な夜な常に夢に見ゆ 我が家恋しき八十八夜
陸奥を時雨と供に立ちしかど 今日白河の関は越えぬと      
追い風を送り迎へて五月雨 慣れにし雲に家忘れしな
みくまりに鳴けよ五月の不如帰 曇り閉ざした空の東路
村雲の絶へ間絶へ間に風光る 時雨を祓ふ沢の空影
さのみかく聴く風笛のゆかしさに 何処へ吹きて折に仄めく
音に聴き吹きて音出し玉響れば 心楽しも巴の息吹き
愉しみは鳥の空音と練じては 稽古誼と道草を聴く
暮れ時の影は急ぎて我先に 帰りし我が家戻りし我が家
寝驚き向ひ偶はしし殿家守 喜びあれど楽にあたはず
驚きつを澄ますほど笑み曲ぐる いさ添ひ居よか家守好らしな
将や将将や壁虎足手影 神代余浪の竜の落とし子 
吾子家守五十日の祝ひに泣き合えば 家庭も栄ゆ国秀も栄ゆ
さねさし相模小余綾濱見れば 早月色かな近し淡藤
さねさしや相模に掛ける祈り哉 碧み深き海原に在る
さねさし相模に寄する浦風の 余りに激し濱笛を聴く
避り難き廻向のうちに歌を詠む 計も算なき物の憐れに
鎌倉や戻り迎へるこ紫 見頃此れから雨も楽しも
百川(ひやくせん)の行きゆくはてを鳰のうみ 花びら留めてあふみなりぬる
おくじようにやすざけかざしゆれつつ もじかくはありてあどばるんぷか
銀漢や遺伝子の宴遍かり
蛞蝓の艦隊渡る鉄路かな
青頸や前世誰と川下り
八百屋かと思ふ訛声金魚掬ひ
ソプラノと思ふ強面葱坊主
書を捨ててスマホを捨てて町で茫々
三浪を越ゆる魚らを追い越しつ 天を目指さむ杜の燕は
春暮れて緋色に燃ゆる花躑躅 霧島山の焔に似たり
酢漿草(かたばみ)に残せし露の玉も消え 眩き春も去りて行くなり
先ずは今藍植う手にも込めたるは 醸して永き色の深さよ
偲ぶれど覚ゆることのほのかにて 手に採らむかな橘の花
橘の花かぐはしき夕風に 行くすゑまでも袖を追うかな
願はくば橘の香ぞ留めまし なつかしき風野にわたるらむ
暁に絡める闇を解き放つ 煌めく独り明けの星かな
やどの香の花橘をおぼえてか 同じ声きく時鳥かな
橘の香りのこせる五月雨に 声泣き濡れし山不如帰
憂きことは空に浮かべて流すかな ふるにまかせむ夜半の五月雨
卯の花の垣根濡らせし五月雨の 明けたる朝も告ぐ時鳥
路ゆけば小さき鷺の風に舞い 清水に濡れる雪の下かな
四方山もはなし咲かせる色々に 霞はいまだながめなくにも