ワンフレーズ原文で知る「源氏物語」~第一帖「桐壺」~

「源氏見ざる歌詠みは遺恨のことなり」
六百番歌合(藤原俊成判詞)

俊成のこの言葉に代表されるように、歌詠みにとって「源氏物語」は必須の教養です。
それは現代の私たちも同じ! ですが、そのタイトルはまだしも内容まで知っている人は一部の古典ファンに限られるかも知れません。

源氏物語は日本古典の権威であり、その長大さと文語体によって現代人を冷たくあしらいます。
しかしその実、内容はドラマ「大奥」を彷彿とさせる男女の愛憎エンタテインメント、それが平安の優雅な舞台で繰り広げられるのですから、面白くないはずがない! といってやはり、容易には近づけない…

そこで始めました「ワンフレーズ原文で知る源氏物語」。

各帖ごとに物語の核となるシーンやセリフの原文をワンフレーズでピックアップ!
文語体も苦にならず、かつ物語のエッセンスを堪能しようという試みです。
さあ! 紫式部の手による、源氏物語の世界を気軽に楽しみましょう♪
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主要登場人物

  • 桐壺帝(今上天皇、源氏の父)
  • 桐壺更衣(桐壺の妻、源氏の母)
  • 光る君
  • 藤壺の宮(桐壺帝の後妻、先帝の皇女)
  • 弘徽殿女御(最古参の女御、第一皇子の母)
ダイジェスト

  • 源氏の誕生と母の死、そして彼の人生を左右する二人の女性(藤壺、弘徽殿)が早々と登場。占いによって臣下(源氏)に下されるが、その美しさは「光る君」と呼ばれる。
    物語の骨格がこの第一帖においてはやくも組み上がる。また先の占いは後の伏線となっており、のっけから紫式部の作家としての技量に驚かされる。

■プロローグ

「いづれの御時にか」

この一文から栄光と没落、光る源氏の長大な人生譚の幕が開ける。
「いつの帝の御代であったか」と語る一千年前の紫式部、このスペクタクルは「遠い昔はるか彼方の銀河系で」と始まるスターウォーズのサーガを想起せずにはいられない。

■母(桐壺更衣)の死と源氏の誕生

「限りとて 別るる道の 悲しきに 行かまほしきは 命なりけり」(桐壺更衣)

身分は低い女性が寵愛を受ける。このありがちな設定は源氏物語に起こるのではないか?
これは桐壺更衣は臨終の歌。彼女は人生を道に喩えた、それでも行きたいのは、命がある道だと。

「世になく清らなる玉の男御子さへ生まれたまひぬ」

「清らなり」と「玉」という美を形容する最上級の言葉を組み合わせて称えらえる御子、それが「光る君」なのだ!

「帝王の上なき位に昇るべき相おはします人」

源氏物語を読み進めたのち、幼年期のこの人相占いの文章を見るとゾッとする。
それは占い通りに進展していく物語と、それを描いた紫式部のセンスに驚愕するからだ。

「源氏になしたてまつるべく思しおきてたり」

ここから源氏は「源氏」になったのである。

「いと若うおはすれば、似げなく恥づかしと思いたり」

源氏は元服すると早々と婿入りする。
姉さん女房(葵の上)から見れば、いくら源氏だって若造なのである。

「世の人、光る君と聞こゆ」

ここで「源氏」は世に聞く「光源氏」と呼ばれるのである!

■永遠の女性、藤壺との出会い

「御容貌(おほんかたち)ありさま、あやしきまでぞおぼえたまへる」

母(桐壺更衣)と不思議なほど似ている女性、藤壺が登場。
のちに登場する紫の上と藤壺は姪の関係だが、桐壺更衣と藤壺には全く血縁関係にない、つまり他人のそら似なのだ。

「ほのかなる御声を慰めにて」

幼年の頃、源氏は構わず藤壺の顔を見ることができたのが、元服して以降はその声に思いを寄せるほかない。

「ただ藤壺の御ありさまを、類なしと思ひきこえて」

プレイボーイと揶揄される源氏だが、彼は一生涯一途にこの女性を慕い続けるのだ。

「かがやく日の宮と聞こゆ」

「光る君」に対して「輝く日の宮」と称される藤壺、「光る主人公」の揃い踏みである。
面白いことに宇治十帖では「匂宮」と「薫」という「匂う主人公」に変わる。その本意やいかに?

ところで、源氏物語はには元々存在したが失われてしまった巻があると言われる。そのタイトルがこの「かがやく日の宮」。そこでは光源氏と藤壺が最初に関係した場面が描かれているらしい。

■恐怖! 弘徽殿女御

「打橋、渡殿のここかしこの道に、あやしきわざをしつつ」

平安の後宮は七殿五舎といわれる建物で構成されていた。
更衣住む「桐壺」は帝の寝所に遠く、途中「弘徽殿」を通らなければならなかったのである。
弘徽殿にとっては、恋敵がわが宿の前を通って毎夜通っていく様をまざまざと知る羽目になる。当然面白くないであろう。そこで「あやしきわざ」、つまり排泄物などをここかしこの道にぶちまけたのである。

「弘徽殿などにはなほ許しなうのたまひける」

桐壺更衣が亡くなっても、弘徽殿の怒りは収まらない!

「あな恐ろしや。春宮の女御のいとさがなくて」(藤壺の母)

これは藤壺の母の言葉。自分の娘が帝の後妻に入ると聞いて思わず口に出た。
春宮の女御(弘徽殿)は意地悪で恐ろしい! これは後宮の共通認識だったのである。

「弘徽殿の女御、またこの宮とも御仲そばそばしきゆゑ」

桐壺更衣に似た宮つまり藤壺が後宮に入った。しかも藤壺は先の帝の皇女という家柄もいいのだから、弘徽殿としては到底仲良くできるものではない。

と、弘徽殿は相当恐ろしい人物として描かれているのだが、弘徽殿だって一家の命運を背負って入内しているのだ。
誰にだって、正義はある!

(書き手:和歌DJうっちー)
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