春霞たつを見すててゆく雁は花なき里に住みやならへる(伊勢)

花と違って、雁の帰郷へ寄せる情趣を私たちはほとんど持ち合わせていない。対して平安歌人は、これに心からの思いを寄せた。『春霞が立つやいなや、そそくさ立ち去ってゆく雁。お前はこれから咲く花の美しさを知らないんだろう』。呼び止めたところで容赦なく消えてしまう存在、せめてもの皮肉を歌にこめた。詠み人は伊勢、と聞くとこの歌がさらに物語を帯びてくる。彼女は藤原時平、仲平はじめ宇多天皇さらにその腹違いの皇子敦慶親王らと浮名を流した、元祖「けしからぬかた」というような女性だ。ちなみに敦慶親王との子が歌人としても有名な中務である。であるからして歌にある花は自分自身、つれなく立ち去る雁は愛しい人、なんて思えてくる。まあそうなんだろう。和歌にとって花と恋、寄せる思いは同じだ。

(One poem that turns every day)

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