面影に君が姿を見つるよりにはかに月の曇りぬるかな(西行)

漂泊の歌人、西行がこと花と月とに心を尽くしたことは「願わくば※1」の絶唱からもよく分かる。ただ花が純然たる花であったのに対し、月はそれに収まらない。『面影にあなたの姿を浮かべてしまってから、だしぬけに月は曇ってしまった』。ここで月は愛しい人の象徴、面影を宿す鏡となっており、それを曇らせるのは思慕の念から起こる己の涙であった。山家集中巻にはおよそ百三十首の恋歌が収められるが、なんとその三分の一が月に寄せる恋だ。月という存在がいかに切実であったか、よく理解できよう。ちなみにくだんの「嘆けとて※2」もこれら歌群に入る。百人一首歌でも不評の的であるが、西行にとっての月を思えばそこまでの謂れはない。

※1「願わくば花の下にて春死なむその如月の望月のころ」(西行)
※2「嘆けとて月やはものを思はするかこち顔なるわが涙かな」(西行)

(日めくりめく一首)

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