霜をまつ籬の菊の宵のまに置きまよふ色は山の端の月(後鳥羽院宮内卿)

「籬(まがき)の菊」は日本美術におけるひとつの定型であり、絵画や着物の柄の図案として好んで描かれた。また「菊に置く霜」も躬恒に倣った趣向で和歌における菊の王道的詠み方といえよう。しかし出来上がった歌からは全く新しい体験が得られる。『霜を待つ垣根の菊が、宵の間にすでに霜が置いたのかのように見えるその色は、山の端から昇る月明かりだった』、おなじみのモチーフを使いながら、宵闇に白々と浮かぶ怪しき花。この歌の見どころはリズムだ、「ま」を連続的に心地よく響かせ、結句を体言止めで締め付ける。有無を言わせぬ陶酔の余韻が、今までにない菊を表象する。

(日めくりめく一首)

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